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1-72 ハッピー・フェアウェル(幸せなお別れ)

 そして時は無情に刻まれていき、子供達との切ないお別れの時間になった。


 だが、その別れの時間になって、親方が急にこのような事を言い出した。


「そのう、なんだ。

 ちょっと相談があるのじゃが」


「なんだい、親方」


「そのなあ、その子達の事なんじゃがのう」


 あれ、まさか親方ってば。


「その、よかったらうちで引き取らせてもらえんかのう」


 やっぱり!


「ほう」


 親方の昔馴染みである国王が少し楽し気な声を上げる。


「わしも、もうこの歳だし、この先に碌に弟子を取る事もあるまい。

 この子達には将来の仕事が必要じゃ。


 陶芸の才能もありそうだし、どうせなら縁のあったわしのところで世話をしてやるのも悪くないのではと思ってなあ」


「いいのかい、親方。

 この子達って、まだまだ手がかかるぜい」


「構わんよ。

 わしの息子達も皆、この土を捏ねる手で立派に育てたのじゃからのう」


「そっか、じゃあ俺は賛成だ。

 親父さん、男前だね」


「親方がそう言うのであれば俺に異論などはない。

 二人とも、それでいいか」


「うん、喜んで。

 わあ、工房の親父さんが僕のお父さんになってくれるの?」


「嬉しい。

 本当は孤児院へ行くのが嫌だったの。

 親方大好き」


 二人の子供達は親父さんにむしゃぶりついていった。

 もう先輩ったら妙に子供に優しいのが不気味だわ。


 まあ子供なんて物は、先輩の殺しの欲望の興味対象外なのかもしれないが。


 この人は単なる狂人なんかじゃなくって、バトルジャンキー系のどうしようもない方なのだから。


 盗賊なんか人質ごと殺せとかなんとか言いながら、実際にはこれだよ。


 この優しさの一欠片でもいいから俺にも回せよな。

 この骨の髄までイカれた落胤王子が。


「じゃあ、親方。

 養育費や修行のための材料費なんかもかかるだろう。

 はいこれ」


 俺はそう言って、すかさず大金貨を一枚差し出した。


「じゃ、私も」


 国王陛下は俺に倣った。


 それから二人で先輩を見た。


 奴は苦笑し、握っていた片方の手の平から手品のように大金貨二枚を取り出して、軽く放ると見事に二枚とも指の間に挟んでいた。


 先輩が先に用意しておいたのにタイミングが合わなくて出遅れたのか。

 意外とやることが男前じゃないか。


 まあ相手は顔馴染みの親方なんだしな。

 この男がこんな風に心を許すのは、この人と父親くらいなんじゃないのか。


 後は誠に不本意ながら、この俺くらいのものなのだろう。


「二人分だからな」


「そうか、そうか。ありがとうよ。

 どうか優しいあんたらに神のご加護がありますように」


 うん、王様はともかくとして、俺と先輩は先行き次第で、そいつが必要かもしれないね。


 そして、俺は親方の祈りを自分のスキルに加えて【祈りの力×Ⅹ+1】としておいた。


 こいつはきっと邪神相手になら凄く効くんだぜ。

 勇者リクルの勇気にプラスワンだからな。


 そして俺達は、親方と二人の子供達に別れを惜しんでいた。


 国王陛下は着替えてから王宮に戻るつもりなのらしい。


 そういや、ここって王宮と反対側にある区域なんだった。


 普通は王様が一人で出歩いていたら、向こうの王宮側にいる関係者から怒られるはずなんだがな。


 まあこの方の場合は特別なんだろう。

 何せ、あの先輩よりも強いんだからな。


「なあ先輩、あの人って王様なのに結構フリーダムなんだな」


「まあ、もう実務の方は王太子がかなりの部分を引き受けている。

 現王が指導しながら引継ぎに五年はかけるのだ。

 国はしっかりと治めねばな。

 そんな人生は俺ならば絶対に御免だが」


 そうだろうなあ。

 王様なんかにされたら、俺の尻なんか追い回せなくなっちゃうものな。


 強さを求めて無頼に生きる、王様の落とし種かあ。

 濃いなあ、こいつの人生も。


 俺なんか、ただの農家の長男なんだから気楽なもんだ。

 家は長女と義兄が継いでくれたのだ。


 俺はあの小さな村を出てみたかった。

 自分の力を外の世界で試してみたかったのだ。


 お蔭で何度も死にかけたが、この生き方を今も後悔していない。


 俺と先輩はさりげに歩いているように見えるのだが、実は常人の六倍の速さで、通常速度で走る馬並みのスピードで歩いている。


 これでもゆったり歩いている程度だ。

 まだまだ本気で走ったら先輩に負けるだろうなあ。


 こいつは本当に化け物なのだ。


 そのうち、もう少しバージョンが上がったら、殺し合い抜きの本気の追いかけっこをやって試してみたいが、あまり本気の逃げ足を見せると、また途中で先輩のスイッチが入っちまいそうだし。


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