1-71 聖なる贈り物
俺は親方のお弟子さんが入れてくれた、心を落ち着けるという特別なお茶をいただいて、なんとか現世に復帰した。
そして出されたお茶請けのお菓子も全部平らげてしまった。
「おや、凄い食欲だの」
「いや、たったの十分なのですが、初めて特殊なスキルを普段使いで使用をしましたので。
いつもの戦闘とは異なり、心に凄く負担があったみたいで。
気のせいか戦闘の時よりも、ごっそり体重が減ったような気がします。
食欲が止まりません」
「はっはっは、わしらなんかでも、そういう事はよくあるよ。
あまり無理はせんようになあ」
だが時には無理をしないといけない事があるのかもしれない。
あと三個だけは最低でも作っておきたい。
一つはこのバトルジャンキーな変態和朗の領地の代官当てに、破邪のお守りとして。
後は子供達に一個ずつ送りたい。
先に子供用、特に少し闇に心が引っ張られているような気がする幼女様の方から。
子供達の名はニコルとルイーダ。
二人の名を、この魂の力を込めて作品に刻もう。
十分に休憩を取ってから作品に取り掛かる。
もう作る物は決めていた。
ニコルには卓上セントマウンテン、そしてルイーダには教会で子供向けの絵本に描いてあったのを見た事がある聖女バルバディアの像。
材料として、加工はしにくいが細かい部分も崩れにくい、やや重いタイプの粘土を使用する。
まあ加工の方はパワーに任せてなんとでも出来るので。
俺は昼前の時間の終わりに準備万端で始めた。
さっきの二の舞にならないように、胡坐をかいて目を閉じ精神統一のような事もやってから。
これもブライアンに仕込まれていた技能だ。
「心を乱せばダンジョンで死ぬ。
冒険者たる者は、いついかなる時にも冷静沈着たれ」
それが彼の信条だった。
そういう教育をしているので、彼の教え子は殉職する事が殆どないのだ。
俺も是非そのジンクスにあやかりたいものだ。
まあ不幸な事故で彼本人は死んでしまったのだが、そこはイレギュラーとして計算には入れない。
「いざ勝負」
そして俺はサイコロで見事に六の目を引き当てた。
精神統一はサイコロの目を高く出す効果があるのだろうか。
そのうちに検証しておきたい課題が出来たな。
俺は一気果敢に攻め上げて、なんと二人の子供のための分を六分で片付けてしまった。
ルイーダの分には現聖女様のイメージを思いっきり込めて。
ついでに代官向けのイコンのような物を創り上げ、あと調子に乗って国王様に『身代わりの十字』のようなアイテムを作ってみた。
災いを引き受けてくれる聖アイテムみたいな感じで。
まあ効果があるのかないのか知らないが、心のままスキルの導きのままに作ってみた。
それで時間切れだ。
今度はすぐに現状復帰できた。
これが冒険者の心構えって奴さ。
どんな事情があろうとも呆けていたら、あっという間に魔物の餌だからな。
「ほお、こいつはまた凄いのお。
見事なもんじゃわい。
ちゃんと焼き上がるといいのう」
「このセントマウンテンがニコルの分で、そっちの聖女様がルイーダの分さ。
ちゃんと名も刻んである」
「わあ、ありがとう」
「素敵な聖女様~」
よかった。
これでもうこの子達は先輩が生み出した、この世にあってはならぬような闇には心惹かれないだろう。
これには多くの人々の祈りと神の祝福が四十八倍ブーストで込められているのだから。
神よ、どうかこれらの作品が上手く焼き上がりますように。
「あと、そっちの聖女のイコンは落胤の王子様の領地の代官へ送ってほしい。
縁周りと立体部分の聖女の顔が白く浮き上がって見えるように着色してやってくれ」
「なんだと。
そいつを俺の領地に?」
「そうだよ。
なんかこう、先輩の領地が呪われていそうだから、俺の聖なるスキルで浄化してやるんだ!」
「お前、結構失礼な奴だな」
「自分の代わりに領地で一生懸命に働いてくれている代官さんに、あのような物を送りつけるあんたの方がよっぽど失礼だよ!」
だが奴はなんだか納得がいかないようでブツブツ言っていた。
こいつめ、素で理解できていないのか。
もう心が闇黒に染まりまくっているようだな。
「後、これは国王陛下に」
「ほう、これは何だね」
「一応、魔除けとか災厄除けのような感じに作ってみましたが、はたして目論見通りに出来ているかどうか。
『身代わりの十字』のようなアイテムに出来ないかと思って。
災いを引き受けてくれる聖アイテムみたいな感じに。
まあ実際に効果が有るのか無いのかまでは知らないですが、一応は気持ちだけという事で」
それを聞いて子供のように破顔した国王陛下。
自国の国民の若者が自分の趣味に付き合ってくれて、このような物まで作ってくれたら、それは国王としては嬉しいだろう。
俺は別に王様の歓心を買いたかったわけではなく、あの可哀想な子供達にもよくしてくれて、俺達を自分の秘密の隠れ家で歓待してくれた国王陛下に対して、一人の人間として何かしてあげたかっただけなのだ。
「うむ、気持ちだけでも嬉しいぞ。
ありがとう、リクルよ」
「陛下に喜んでもらえれば俺も嬉しいです」
「おい、俺の分はないのか」
空気を読まずに、なんか言っている奴がいるなあ。
「煩いな、時間切れだったんだよ。
後で、先輩用の分とパーティ全員分の何かが欲しいから、もう一度ダイブする」
「ダイブ?」
「ああ、なんかねえ。
内なる心にダイブするっていうか、神の祝福や祈りの力を携えて内なる自分に潜るみたいな感じの過程というか工程なんだ。
もう慣れたよ」
だがそれを聞いて親方が呆れた顔で注釈してくれた。
「お前さん、そういう事は普通、芸術を極めた人間国宝みたいな人にしか出来ないのだぞ」
「じゃあ親方、俺はスキル国宝ってところで、どうだい?」
「はっはっは、あんたは若いくせに面白い奴じゃのう」
「またなんとも奇天烈な真似をする奴だな」
「先輩、あんたにだけはそう言われたくねえな」
そして俺のスキルは、なんとスキルを使って陶芸をしているだけでバージョン9.0に達した。
そこまで祈りと丹精を込めたのだ。
何故か信仰の力みたいな物は、俺のスキルのバージョンを強烈に押し上げる。
それから十分休んでから、もう一度トライして全員分のアイテムを予備も含めて都合二十個くらい創り上げた。
そして今回も見事に集中力により、サイコロの出目は六だった。
そういや今までも大ピンチの時って六の目を出す事が多かったような気がするな。
今回は、先輩のあの邪悪な作品群との対決なのだから、それもむべなるかな。




