1-7 徒手空拳
翌朝、あの環境でもたっぷりと熟睡した俺は、まず懐の中の金の無事を確認した。
首から下げた金の入った小袋の上から『さらし』でぎゅうぎゅうに巻いた上に、紐で三重くらいに縛り上げる安いが頑丈な防犯チョッキを着込んでおり、そう簡単には盗られないようにしてある。
だが、盗人が何かのスキル持ちなんかだと厄介だ。
特に盗賊関係の協会の連中にはとんでもないスキル持ちがいたりするので用心しないといけない。
だが、そんなスキル持ちは木賃宿にはまずやってこないので安心なのだが。
あまりにも割に合わないからな。
却って木賃宿の方が安心できる要素もあるというのは皮肉なものだ。
彼らは高級宿で自らも高級客を装いながら、金持ち連中からごっそりと掠め取る。
まあ宿の警備の方にも、防犯協会から派遣された一流のスキル持ちの警備員がいるのだが。
たまに物凄いVIPが来たりすると、冒険者チームにも臨時警備の依頼が来る。
そういう事情もあって、冒険者風の人間は奴らからまず狙われないのが普通なのだ。
ここは冒険者の街だから、そういう手合いも少ないはずなのだが油断は禁物なのだった。
そして、俺は装備の点検を一通り行うとダンジョンへ向かった。
入る際には協会からもらった、首に提げているドッグタグを見せてから簡単な記帳をしてから中に入る。
今日はスライム相手ではないので、あの籠は持って行かない。
「さて、少々リスクを取るとなるとな。
まあソロ討伐だから、あのあたりにしておくか」
俺はスライムが多発する地帯を避けながら進み、もう一階層だけ下の三階に下りた。
上階層はそれほど広くないため、降りるのにそう手間はかからない。
十五分もすると俺は獲物を物色し始めていた。
「お、いたな」
俺が目を付けたのは犬頭の小人魔物コボルト。
大体の大きさが成人男性の半分ほどで、ゴブリンレベルの小型サイズだ。
こいつら一匹一匹は、そう強くない。
だがスライムのように気軽に『採集』するというわけにはいかない。
コボルトは大型の魔物ではないため、比較的倒すのは容易だ。
背が低い分は戦いにくいのだが、蹴り倒したり上から叩き伏せたりするのは容易い相手だ。
そして、低級魔物である連中はあまり連携も上手ではない。
人数がいても、雑魚が一斉にかかってくるような感覚だ。
手にしているのは小さな棍棒が主だ。
思いっきり殴ってくるので当たるとそれなりに痛いが、まあ鍛えられていれば、そうそうやられたりはしない。
うっかりと引き倒されたりするとソロの場合は少し厄介だ。
後ろから大人数で来る場合があるので、決してボーっとしていてはいけない。
若干ボケーっとし加減な、今日の俺なんか要注意もいいところだ。
しかし装備に盾があると良かったな。
安物でいいから協会の貸し出しサービスで借りてくりゃあよかった。
まあそれに、いやしくもあの新人教育が厳しいので有名なブライアンのパーティにいた人間、それも新人レーティング一位がコボルト程度にやられたなんていったら、それこそ末代まで笑われてしまう。
ちゃんと末代があれば、冒険者としてはまだいい方なのだがな。
コボルトは二体いた。
まあお試し戦闘には手頃な相手か。
俺はもう一度スキルの数字を確認してから、素早く右の奴から攻めにいった。
足で蹴った。
剣を使うと傷むからな。
骨などの固い部分に当たれば武器にもダメージがあるのだ。
しかも、こいつら一丁前に革の防具なんかつけてやがるし。
たまに冒険者から剥ぎ取った革鎧を加工した物を付けていやがる奴までいる。
間抜けにもコボルトなんて雑魚にやられてしまって、他人に迷惑をかけている奴もいるのだ。
襲い掛かって来た、もう一匹にも固い冒険者用ブーツの回し蹴りを食らわせた。
そいつは一撃で絶命したようだ。
もう一匹は健気にも立ち上がってこようとしていたが、俺は無慈悲に踏み潰した。
「こいつらはあまり金にならないから嫌いだ。
どれ、数字に何か変化はあったかなっと」
スキルを思い浮かべたが、なんともうスキル名が【レバレッジたったの1.2】になっていた。
「今度は数値の上昇が早いな。
強い魔物の方が上昇も早いのかな。
こいつが上昇すると、何かいいことがあるのか?
特に何も感じられない気がするのだが。
もうちょい、ここで頑張ってみるか」