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1-68 陶芸は闇黒の調べ

 翌朝、これまた素晴らしい朝食を終わらせてから、例の『粘土小屋』へと向かった。


 いや、正確には焼き物工房あるいは陶芸工房という奴だろう。


 ここの親父さんは、国王の趣味に昔から付き合ってくれているのだろう。

 立派な魔道具もたくさん置かれていた。


 きっとその中には国王の私物も混じっているのだ。


 そして国王の作らしく、なかなか立派な作品が、ひっそりと工房の壁に作りつけられた壁に並べられていた。


 そういう旦那の趣味に『奔った』ような物って、大概は奥さんから快く思われていないものと相場が決まっている。


 今頃マロウスは鍛錬で、エラヴィスはお買い物かな。


 そして、作業所に着いたのはいいのだが。


「あれっ。

 みんな、まさか夜通しやっていたの⁉」


 かなり朝早く出てきたにも関わらず、皆はまるでずっと作業していましたみたいな感じで熱心に土弄りをしている。


 よくまあこれだけ作ったもんだな。


「まさか。

 夜はそこで雑魚寝だ。

 飯は王宮から届けてくれる事になっていたしな」


「そうか、よかった。

 子供達が、あんた得意のダンジョン飯を食わされていたんじゃなくってさ」


 王宮飯、ちょっと興味があったのだが、きっと片手で取って食べられるような物だ。


 なんというか、趣味が満足させられるのなら、食い物はそれでもいいやという感じの物ではないだろうか。


 王宮の料理人達は、ここで王様が何をやっているかよくご存じなのだろう。


 子供達も熱心に何か作っていた。

 使っているのは「ろくろ」という魔導の力で回転する魔道具だ。


 椅子はちゃんと子供が座って触れるくらいの椅子が用意されていた。

 まあ小型のろくろだから手は届くのだが、作業姿勢が上手く取れないからな。


 これは、粘土からコップやお皿、壺なんかを作るのに便利な道具らしい。


 俺も知識では知っていたのだが見たのは初めてだ。

 ブライアンの修行にはないコースだったので。


 それにしても「クレジネスおじちゃん」と雑魚寝なのかあ。

 そんなもの、俺なんか絶対に御免だな。


 いつスイッチが入ってしまって寝首をかかれるものか、わかったものじゃない。

 王様も止めてくれそうにない雰囲気だし。


 バトルジャンキーな、おかしな夢を見て興奮したなんて言ったら目も当てられない。


「みんな、上手だなあ」


 子供達が作った皿や壺は、特に工夫は凝らされていないが、実に立派なものだった。


 とても子供が初めて作ったとは思えない。


「ええ、特に子供達はこれらの道具に初めて触るだろうに、驚くべき才能ですわい」


「お父さん達は職人だったよ。

 もっと小さい頃からいろいろ教わっていたの」


 一方、落胤の王子様の作を見てみると、うっ。


「な、なんだい、これは」


 ありえねえ。

 だが、奴は抜け抜けとこう言い放った。


「わからんか、これは芸術だ。

 己の心の内を表すという奴よ」


「マジですか」


 それは一言でいうと、『発狂した闇黒オブジェ』とでもいうようなものであった。


 まだ絵付けもされていない粘土を整えた乾燥待ちの状態であっても、それは見る者に何かを如実に伝えてきていた。


 形には闇黒邪神が宿る?


 全体が奇妙な形状をした物体の中でも、特に滑らかな曲線で作られた部分に、これまた奇妙な形をした、まるで心が吸い込まれそうな気がするような嫌な感じのする穴が何故か設けられている。


 また歪な形に造形された半球には、ぼこぼこで不揃いのイボというか、突起のような物があり、見ていると何故か心がかき乱される。


 なんというか、不出来というか、造形が悪いというのではない。


 むしろ、不揃いな中にも部分部分あるいは全体を通し、ある種の美とでもいうような趣があるのだが、それは一般的なそういう物とは明らかに異なる代物であった。


 心の深淵というか、闇というか、そういう物を如実に深く表現したらこういう物が出来上がるのではないかというような作品だ。


 何かこう、何度も何度も生き地獄を見て来た系の方の作品だ。


 生贄三昧の悪魔崇拝者、とんでもない大虐殺の場にいてしまった兵士、そういった深淵の心の闇を抱えているような方の、魂に内包された闇が具現化された物体のようなオブジェ。


 見ているだけで、何か悪魔だの邪神だのの誘惑の囁きが聞こえてきそうな嫌な感じがする。


『魔神の旋律』とでも名付けたいような作品群だ。


 所持しているだけで心が呪われそうな気がしてならない。

 これが、このバトルジャンキーの心の内を表しているというのなら、やっぱりこいつは狂人だ。


 いや、何かが歪で捻じ曲がっている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の考察力って、田舎出身にしては、まるで小説家のようなレベルですね。
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