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1-64 親子

 そして、行程の半分ほどを消化してきた大規模キャラバン隊センティピードは、もはや手慣れた感じに解散し、うちの馬車は何故かそのまま国王陛下を馬車に御迎えして出発した。


 既に定員いっぱいだったので、女の子が国王陛下の御膝の上、そして男の子が聖女様の御膝の上にて各自で思いっきり寛いでいた。


 なんというかもう、このような物は子供の特権だ。


 それにしても、こいつら大物だな。

 家族は盗賊に殺されてしまっただろうに、子供らしい明るさも失っていないし。


「なあ先輩」

「なんだ?」


「こういう時こそ、あんたの大好きな屋根上席を活用すべきだと思わないか」


「はて、ちゃんと全員が座れているが」


「ああ、もういいや。

 なあ国王陛下って護衛がいなくていいのかな」


「要るか、そんなもの。

 この人は俺よりも強い。

 だが俺には殺すのは絶対に無理だ。

 いろんな意味でな」


「嘘!?」


 なんていうか、先輩が自分よりも強者であるという国王を殺せないというよりも、『殺したがらない』っていうところが主に。


 まあ相手は国王様で、先輩はその部下である貴族なんだけれども。


 ただ、この先輩はそういう常識の外で生きている人なんだと思っていたんだが。


 だが国王陛下は、そんな俺達のある意味で仲のいいような様子を、お膝に座らせたヤンチャな子供に顎髭を引っ張られながら、その群青の瞳で柔らかく見守っていた。


 そして何故か行きついた先は、どこかの工房のような場所だった。

 なんでこんな場所に。


 でも国王陛下の指示通りに向かったのだしなあ。


「おや、これは国王陛下。

 いらっしゃいませ。

 あ、王子様もご一緒でいらしたのですか」


「は? 王子?」


 どこにそんなものがいるというのだろうか。


 女湯の中まで追いかけてきて、俺に死出のドレスを無理やりに着せて死の舞踏会に誘おうとする、地獄の股間が変態王子ならそこにいるのだが。


 え? あれ? 

 俺はゆっくりと、その『群青の瞳』の持ち主に視線を向けていた。


 王様じゃない方の。


「あのう?」


「主人、俺は王子じゃないと何度言ったらわかる。

 俺はただの落胤(らくいん)、王の落とし子に過ぎん。

 そして、きちんと自分の力で成り上がり、そして貴族になった者だ」


「うわああ」


 まさかの王子様(落胤)かよ。

 そういやあの時、御が「らく」まで言いかけていたような。


 エラヴィスの奴、この話を聞いたらどう思うのかなあ。

 天秤は結婚可に思いっきり傾くのだろうか。


 そりゃあ殺すのは無理だ。

 いろんな意味でっていうのは、そういう意味か。


 国王で、父親で、何よりも彼の理解者のようだし。

 殺しの趣味まで含めてのね。


 強者と戦って相手を殺す事が優秀な息子の糧になるのなら国王として特に問題なしってか~。


 国家の利益に多大に貢献する王の落胤、そして自分の代わりに自在に動ける、強くて決して王を裏切らない手駒!


 だが、更にこの王様って実は先輩よりも強いのだと?


 俺はまじまじと国王陛下を見つめてしまった。

 そうしたら、にっこりと良い笑顔でこう返された。


「ほう、君も私と戦ってみたいのかね?」


「ぶふう、め、滅相もございません~」


 なんてことを言うんだ、この王様は。

 やっぱり、この二人は親子だー。


 先輩のあれは絶対に父親からの遺伝なんだー。


 もしかしたら本当は狂気でもなんでもなかったりして⁉


「なんだ、それは残念だなあ」


 ヤベエ、この王様ったら本気でヤベエ。

 そこにも一人、ヤベエ聖女様がいらっしゃるけれども。


 このお方だったら、邪神を封印なんてケチな事を言わずに、いきなり仕留めに行くんじゃないのか⁉


 そして工房のおじさんが笑って声をかけてきた。


「陛下、ご注文のよい粘土が入っておりますぞ。

 下処理も済ませ、既に十分に練って寝かせてあります」


「おお、これは良い土じゃ」


 国王陛下は二本の指で粘土を摘まんで、ぐりぐりと捏ねている。


「あのう、これは一体?」

「親父の趣味だ」


 先輩、王様である父親の事を親父って言っちゃうんだ。


 まあ正規の王子様じゃなくって、地獄の落胤様なんだけれども。


「はは、この趣味は道を隔てて向こう側におる家族に評判が悪くてのう。

 付き合ってくれるのはこの息子(おとしだね)くらいのものよ。

 残念な事に、こやつとも滅多に会えぬのだがなあ」


「せ、先輩が、こんな粘土弄りを⁉」


 この旅一番の精神衝撃が俺を襲った。

 こいつへの耐性にはレバレッジはかからなかったぜ。


「なんだったら、お前もやるか?

 捏ねて形だけ作っておけば、工房の方で乾燥やその後の処理もやってくれるから、帰り路には作品を受け取って帰れるぞ。

 費用は親父が持ってくれる」


「へえ、そいつは面白そうだな。

 やってみようか」


「ほお、なかなか見所のある若者じゃのう」


「農民でしたから、これまでの人生は殆ど土を弄って生きて来たようなものですので。

 へえ、これで焼き物を作るんだ。

 うちの村は風呂を沸かす薪さえ惜しまれていたんで、焼き物なんてとてもとても」


「ここでは魔法乾燥炉を使う。

 お前がいつも集めてくる魔石で駆動するのさ。

 まあコボルトの屑魔石でも十分だがな」


「あれって、こんなところでも役に立っていたのね」


「明日は一日自由行動だから、今日中に何を作りたいか決めておくといい」


「先輩は何を作るの?」


「俺は毎回きちんとテーマを決めて王都に戻ってくるのさ」


「さいですか」


 なんて凝り性なんだ。

 まさか、先輩にこんな隠れた趣味があったなんてなあ。


 それにしてもどうしようか。


 だが、俺の手を引っ張る者がいた。

 二人のチビだった。


「僕もやるー」

「あたしもー」


「そうか、そうか。

 では明日一緒に頑張ってみるかのう」


 なんと直々に王様の指導による子供陶芸教室かよ!


 これはまた贅沢だなあ。

 この世界唯一の催しなんじゃないの。


 一応は俺も参加予定になっているんだけどね。


 気が付くと、先輩はいつになく真剣な表情でとっくに粘土を捏ね始めていた。


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