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1-63 現代の聖女様

「おお、英雄姫様、ようこそ王都セントスへ」


「英雄姫セラシア様のおなーりー」


 門を守る衛兵達がそんな事を高らかに叫んでいた。

 一般区画のはずなのに、またえらい騒ぎだな。


 まるで王族がやってきたみたいだ。


 いや、このお方って身を挺して世界を救った聖女様の生きた係累なのだから、世界が崇める聖女様の分身みたいなものなのか。


 なんてこったい。


「姐御……」


「気にするな。

 こんなものは毎度の事だから」


「そうでしたか」

 

 もういいや。

 あと先輩、なんだか心なしか非常に楽しそうね。


 外からも野次馬が集まってきて『現代の聖女様見物』が始まっていた。

 子供達二人がそれに向かって手を振っている。


 ああ、この馬車に先輩が乗っている事がバレたら凄くマズイんじゃないかという空気が段々と醸成されていっているような気がする。


 だけど先輩と来た日には、凄くいい笑顔で子供と一緒になって群衆に向かって窓から手を振っていらっしゃる。


 このお、いつ自分がいるのがばれて騒ぎになるのか、それを楽しみにしていやがるな。


 いくら一般区画だとはいえ、この狂人貴族の顔を知っている奴も中にはいるはずだ。


 ほら、あそこ。

 先輩の顔を認めたらしく、冒険者風の男の顔がみるみるうちに青ざめて駈け出していったぞ。


 おそらく冒険者協会は一般区画側にあるんだろうから、王都冒険者協会の協会長に対して御注進に走ったのに違いない。


 きっと揉め事の種になるのではないかと危惧されたものだろう。


 その人自体は、ある程度の年齢みたいだったし、清廉そうで立派な感じの方だった。

 へたすると王都冒険者協会の上の方の人だ。


 何かこう、俺の方が【先輩に対する監督不行き届き】で申し訳ない気持ちになってくるのは何故なのだろうか。


 まさか無謀にも、誰かが先輩を襲ってきたりはしないと思うのだが、この人はあっちこっちで恨みを買っていそうだし。


 もう俺は知らねえからな。

 先輩を連れていると、さっそくこれだもの。


 まさに彼こそは歩く天災、生粋のトラブルメーカーだな。


 だが、そこへふらっと現れた方がいらっしゃった。

 なんだか少し小太りで気さくなおじさんといった感じでラフな格好をしているが。


 そして、知り合いだったとみえて姐御が挨拶をしている。


「やあラキタス陛下、大変お久しゅう」


 ああっ、その辺の気さくなおじさんじゃあなかった!

 この国の国王陛下じゃないか。


 さすがに俺だって自分の住んでいる国の王様の名前くらいは知っているぞ。


 だが何故、そんな普通の格好で、しかも一般区画にいらっしゃるものか。


「やあ、これはこれは【現聖女猊下】英雄姫セラシア様、お久しゅうございます。

 いや、こんな格好でお出迎えして誠に申し訳ございません」


「何いーーーっ!

 姐御ってば、本当に聖女扱いなのかよ」


 更なる驚愕に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 すると姐御と国王陛下が同時にこっちを見た。


「どうした、リクル」


「おや、新しいメンバーの方ですかな」


「は、はあ。

 ただいま、姐御にお世話になっております」


 い、いけねえ。

 テンパって思わず国王陛下の前で姐御って言っちまった~。


 王様はそんな俺の失態にも優しく微笑んでくださっている。


 くそ、先輩め。

 そんなに大声で笑っているんじゃないよ。


 そういや、この王様は先輩には何も言わないんだな。


 そりゃあそうだろうなあ。

 自分で伯爵に叙爵した貴族なんだろうから。


「おや、クレジネス。

 君が聖女猊下と御一緒とはな。

 しかし、今の馬鹿笑いは実にいい笑顔だったな」


「お久しぶり、国王陛下。

 はははは、今はその子に『ぞっこん』なのですよ」


 ちょっと先輩、そういう事を国王陛下に言わないの!

 もう。


「はっはっは。相変わらずよのう。

 時にダンジョンの管理魔物をついに倒したとか。

 魔核は無事に王都へ届いたぞ。

 勅命ご苦労であった」


「はは、陛下。

 ですが、あれを倒したのは、そこにおるリクルですので。

 つまり、そういう事です」


「ほお」


 そう言って、俺の方を鋭い眼で見つめる国王陛下。

 う、平民みたいな服を着ていても、さすがに怖いわ。


 え、何。

 こいつって王様に頼まれたので、貴族としての任務としてあれを捜していたの?


 その割には俺に素材を全部くれたよね。

 あれは俺に対するご褒美のつもりだったのか?


 まあ、ああいう特別な物は、どの道王都へ運ばれて王様に納められるのだろうが。


 いや、それはあくまで『ついで』なんだろう。

 この先輩は、もっぱら自分の欲望に忠実な男なのだ。


 たまたま王様と利害が一致したという事なのだろう。

 王様だってそれを承知の上で、あえてこの狂人を放し飼いにしているのだ。


 なんてヤバイ世界なんだろう。

 こいつは『王室御用達の狂人貴族』なのだ。


 つまり、少々の不祥事はこの国王陛下も大目に見ると言う事なのだ。


 俺は思わずゾーっとした。

 こいつは、この国の最高権力者から『殺しのライセンス』を頂戴した男なのだ。


 きっと、それが仕官する条件だったのではないか。


『趣味のための殺しの許可証』が。


 道理で、こんな奴が堂々と野放しになっているはずだ。


 俺は今現在、そこにいる王様直属の部下から趣味の殺しのために命を狙われているのだった。


 俺は目の前の世界が急速に、ぐにゃあっとありえない感じに歪み始めたのを感じていた。


「リクル、リクル。どうした」


 俺はプルプルしながらも、歪んだ世界が聖女様のお声がけで急速に修正されて戻る中、姐御に向かってこう言った。


「姐御、いや聖女様。

 俺、今回の遠征で強くなりますんで。

 そして、そこの腐れ貴族を撲殺してから幸せに生きるんだ!」


「よく言った、リクル。

 じゃあ修行はハードコースで行くぞ」


「え」


 俺はちょっと不安になってしまった。

 よく考えたら、この人達って俺以外は普通じゃないレベルの人達なんだった。


「あ、あのちょっとタン……」

 マと言おうとしたのだが、その御方に遮られてしまった。


「はっはっは、なんだか面白い事になっておるようじゃのう。

 聖女猊下、その者の話、是非聞かせていただきたいものですなあ」


「そうですね。

 積もる話もございますれば」


「あう……」


 なんだか、えらい方向に話が進んでいる。

 それもこれもみんな先輩が、いや今回は聖女様と国王陛下もあれなのか。


 なんかまた酷い事になってきたな。


 子供達は無邪気に窓から手を出して、笑顔の国王陛下に握手をしてもらっていた。


 まあ孤児院行きが決まってしまっているこの子達にとっては、これもいい思い出なのかなあ。


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