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1-61 退屈は先輩の敵

 そして翌日、キャラバンは再び次の街を目指して無事に出発した。

 ここまでくる間にキャラバンは九十台程度に減っていた。


 新たに加わった者も少しはいたので多少の入れ替わりを含めて。

 まあ万が一の場合には、この先輩を扱き使えば多少の戦力の目減りなど気にはならないのだが。


 これをその気にさせるだけの苦労をするくらいなら、その分自分で頑張った方が遥かにマシだった。


「どうでもいいけど、何故王国は盗賊を退治しないんだ?」


「それはやってもキリがないからだよ」


 先輩が定位置の馬車の上からぶら下がって、窓を向いていた俺の目の前に逆さの顔を見せつけた。


「うわっ、いきなり変なところから出るなよ、先輩」


「とにかく、いたちごっこなのだから兵隊がいくらいたって足りないさ。

 街から警備兵が呼ばれていくと、大概は逃げ出した後だしね。


 仕方がないから盗賊退治には褒賞を出して、商会は冒険者を雇うと。

 お蔭で冒険者にも仕事は回ってくると言う訳さ」


「へえ、そういうもんか。

 でも盗賊が出っ放しっていうのもアレなんじゃないの。

 たとえば、そういう事は王国の政治が良くないせいだって言われかねないじゃないか」


 だが先輩は、相変わらず逆さまのスタイルで唇に指を当てた。


「しーっ、そういう事はやたらと言わないの。

 君の言う事は正論だけど、そういう事を公に言いまくる人に待っているのは獄中死か何かさ。


 もれなく拷問付きでね。

 もっと賢くおなり、少年よ。


 俺は君にそんな無様な死に方をさせたりはしないよ。

 俺が強くなった君を殺すのだから」


 くそー、こんな奴に説教されてしまった。

 その言っている内容は正しいのだが、要は自分で俺を殺したいだけなんじゃないか。


「先輩、あんた今退屈しているんだろ」


「じゃあ、君が俺と遊んでくれるのかい?

 まだあまりにも勿体ないけど、今その気だっていうのなら考えないでもないが」


 全然その気の無さそうな感じで、そのような事をのたもうた。


 まるで欲情の気配もなく、何か子供のような無邪気さすら感じる。

 こういう時の先輩って人畜無害なんだよな。


「うるせえ。

 もうせっかく貴族なんかになったんだから、領地か王宮にでも大人しく引っ込んでいりゃあいいのに」


「だって、そんな事をすると、そのどちらかで皆が震えあがってしまうじゃないか。

 俺はそういうところにはいない方がいいのさ」


「ふうん、ちゃんと自覚はあるんだね」


 彼はにーっと、不気味な笑いを逆さまに浮かべて、また狂気を一瞬濃くさせた。


 俺達が盗賊団から保護した五歳くらいの子供達二人は、じっとそれを見ていたが、突然こんな事を言った。


「おじちゃん、逆さまでおもしろーい。

 ねえ、もっと何か面白い事やってー」


「あ、こら余計な事を」


 だが何故か先輩は逆さまなままで思案している。


 あ、まさか本当に相当退屈しているのか。

 戯れに、子供相手に遊んでやってもいいくらいに。


「よし、じゃあこういうのはどうだい?」


 先輩は一瞬どこかへヒュンと音を立てたかのように消えたかと思うと、やがて少時の間を置いて、地響きを立てて何かが凄いスピードで左手方面から近づいてくる気配がした。


 そして、そこから馬車に飛びついた先輩が抜け抜けと言ったもんだ。


「ほら、新しい乗物さ」


 あのなあ。

 だが、子供達は喜んでいた。


「わあ、大きな熊さんだ。

 可愛い~」


「僕も乗りたいー」


「じゃあ、おいで」


 そう言って先輩は馬車に飛び移り、その男の子の方を窓から体を伸ばして連れ去り、馬車と並走していた熊に飛び乗った。


「どうだ、少しの距離なら熊は凄く早いんだぞ。

 ノロマな馬車なんかじゃ逃げきれやしないからな」


「おーい、先輩ってばー」


 その熊公は必死で走っていた。

 可哀想に、よっぽど先輩が怖いんだな。


 俺には痛いほどわかるぞ、その気持ち。


 それにしても先輩ったら、なんて無邪気な顔で笑うんだよ。

 もしかして、強者を求めて狂ってしまう前って、常にこんな風な感じだったのかな。


「マロウス」


「なんだ、セラシア」


「お前もせいぜい、あいつに乗り回されないように気を付ける事だな」


 マロウスは頭を振って、気の無い返事を返した。


「あいつは今リクルに夢中さ。

 今更、俺なんかに見向きもしないよ。

 それにあいつの退屈も、そのうちに終わるさ。

 何しろ、次の宿泊地は」


「ああ、そうだったな」


 あれ、二人とも何の話なんだろう。


 だが俺は熊に乗った奴らが気になって仕方がない。


 いつの間にか女の子の方も乗せられている、というか本人が「可愛い」とか言って乗りたがっていたのだが。


 いいけど馬を脅かさないでくれよ、先輩。

 まあうちの馬って、あの先輩にも動じていないのだから大丈夫なのだろうけど。


 さすがは英雄姫の愛馬?


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