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1-59 舅・姑・小姑・猫・先輩

 そして俺は男性更衣室からも素早く脱出し、なんとか痴漢として捕獲される事態だけは避けた。


 そして部屋に入るなりへたりこんでしまった。

 本当にぎりぎりだった。


 なんとか逃げおおせ、角を曲がった瞬間に宿の人達が反対側から大挙して現れて男性風呂になだれこんでいったのだ。


 せっかくの人生初風呂が先輩のおかげで酷い事になってしまった。


 それにしても、よりによって、あの疫病神と長旅に同行する羽目になろうとはな。


しかも、どうやら行く手にも碌な物が待っていないようだったし。

 あの先輩の興奮が収まらないくらいだからな。


 協会長ったら、まさか最初からそのつもりで俺を姐御に貸し出したんじゃ。

 ついでに、俺のおまけとして先輩まで追加したんじゃないだろうな。


 へたすると協会長が先輩に情報をリークしたのかもしれない。

 みんな、北方の街について何を知っているんだろう。


「ふふ、御機嫌斜めそうだね、リクル」


「うわあああ、いきなり現れるなあ」


 部屋の中にいるのに、突然背後から俺に欲情中らしい危険過ぎる変態が湧いて出て、俺は右往左往した。


 これじゃ安心して夜に眠れないじゃないか。


「ふ、この程度の接近が感知できないような未熟者、まだまだ食えないな」


「このう。

 だったら何故殺そうとした!」


「だって欲情しちゃったものは仕方がないじゃないか。

 君はいつも俺を欲情させてくれる実に魅力的な男だ」


「やめんか~」


 こいつって、本気の変態だな。

 何をどうすれば、こんな変態が出来上がるのだろう。


 相変わらず、例の御馴染みで珍妙な派手派手スタイルだし。

 風呂上がりに暑くないのだろうか。


 だが生憎な事に奴は一筋の汗もかいてはいなかった。


「先輩、一緒にダンジョンへ行くんだったら武器くらい持ってくださいよ。

 今度は槍を貸しませんよ」


「うーん、基本的に素手でゴロマキが俺の美学なんだが」


「あんたがあそこまで欲情するような危ない奴とやりにいくんでしょ!

 そういう美学は股間の物と一緒に押し入れにでも仕舞っておいてくださいよー」 


「君のように粗末な物とは違うから仕舞う必要は特に感じないな」


「そっちの方ですか。

 もういいです。

 先輩、御飯に行きますよ」


「がっついてるな、よしいいぞ。

 食う子は育つ」


「あんたがいらん騒動を起こすから余計に腹が減ったんだよ」



 そして食堂の方へ揃って顔を出したのだが、開口一番に姐御が一言。


「なあ、お前らって本当は凄く仲がいいんじゃないのか?

 クレジネスの奴がそんなに満足そうな顔で大人しくしているなんてな」


「いやいやいや、それはないですから、絶対に」


 そもそも今日だって全然大人しくしていなかったじゃないか。

 俺の事を本気で殺そうとしていたし。


 だが、俺も前から思っていた事がある。

 この先輩に始終追いかけ回されていたら、そりゃあもう強くなりそうだと。


 だって強くならないと死んじまうからなあ。


「そういや、リクル。

 また少し強くなった感じがするね。 

 今度はどんなスキルを手に入れたのかな。


 そして君自身はどれだけ強く、そして美味しくなった?

 いや楽しみだ」


「うわー」


 この男は、まるで舅・姑・小姑・猫のように俺の事を観察している。 

 俺は本気でこいつに監視され狙われているんだな。


 だが、今はそんな事を言っている場合じゃないのだ。


「セラシアさん、御飯は!?」


 そう、高級宿の晩御飯の時間なんだからな!


「今から始めるところだよ。

 お前はいつも元気だな」


「それだけが取り柄なので。

 しっかり食って体を作っておかないと、この変態な先輩に殺されちまうからね」


 俺は先輩が来たせいか、もう言葉遣いもあらたまるのもやめて、喋り方も普通の感じになってしまっていた。


 そして、商人の街の豪勢な食事が始まった。


「うおお、なんて美味い肉なんだ。

 ブライアンのところじゃ、こんな物は一度も食った事がないぞ」


 俺は大皿に盛られた大きめの骨付き肉を両手に持ったまま叫んだ。


 だが、この先輩ときたら!


「はしたないな、君」


「うるせえよ、先輩みたいに人生で美味い物をたくさん食い散らかしてきた人になんか言われたくねえ」


「俺はダンジョンでは、いつも干し肉なんかの定番ダンジョン飯なんだが。

 それに街の食事でも健康には常に気を使っている。

 君も少しは野菜を食べたまえ、栄養バランスが良くないぞ」


「な、なんてストイックな変態なんだ」


 だから余計に怖いんだよ。

 どうせなら飽食して、動けなくなるまでぶくぶくに太ってしまえばいいのに。


 浴場で見た身体には無駄な肉など一欠片もなく、惚れ惚れするような肉体なんだよな。

 もう華があるとしか言いようがない。


 こんな人に狂気のトッピングは特にいらないと思うんだが。


「だって君の方が本当に美味しそうだ」


「ぶふっ」


 俺は肉を頬張りながらジロっと先輩を睨む。


「よせよな、美味い飯を食っている時に」


「君も踏破者になればわかるさ。

 一人で行った方が楽しめるよ。

 リクル、早くダンジョンの底まで行っておいで。

 ラビワンの底は楽しいところだよ」


「行きたいのはやまやまなんだけど、俺には先輩みたいな必殺がないからな。

 地道に強くなって、先輩を素手で撲殺できるくらいに強くなったら安心して行ってみます」


「はっはっは、そいつは御免だな。

 その前に君は必ず俺が殺してあげるから大丈夫さ」


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