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1-56 商人の街ゲートスのもう一つの顔

 代官の屋敷をお暇して、まだ夕食までかなり時間があるので姐御の御伴で街を散策する事になった。


 この強者の中の強者であるお姉さんに護衛などまったく必要ないので、俺なんか本当にただの御伴なのだ。


 へたをすると相手によっては俺の方が彼女に護られてしまう。


 お姉さんから魔法を借りられなければ、俺なんか英雄姫の足元にもよらないのだから。


 まあ俺だけ先に宿に帰ると、まだ早い時間だから外出の護衛とか荷物持ちとか、あれこれ頼まれちゃうからな。


 俺達は道中の護衛をやる契約なので、そういうのは契約には入っていない無料サービスなのだ。


 うちのパーティの他の人達は楽しんでやっているみたいだけど。

 ほぼレクリエーションのレベルだな。


 夕食までの、ほんの暇つぶしに過ぎないのだ。


 セラヴィスなんか、商売のついでに聖地へ巡礼のために子供を連れて行く商人さんと一緒に街の散策に行っているみたいだし。


 彼女は年齢が若いのもあって、子守り系の仕事は優先的に受けていて、本人も楽しそうだ。


 俺もそっちの系統なら割合と得意かな。

 少なくとも邪神様や先輩の相手よりはね。


 冒険者も、宿に入るまではコソ泥とかから守るのだけれど、宿に入ったら基本は契約上フリータイムだ。


 姐御に連れられているから免除なのであって、まあ本当は駆け出しの俺もやらなくちゃいけないのだ。


 とはいいつつも、なんだかんだ言って俺だって初の本格的な長旅なので、初めて行く街なんかはゆっくり見物したいのである。


「リクル、こっちの通りは面白いぞ。

 なんというか、ここは金を稼いだ商人が遊ぶところだ。


 まあ、あっちの歓楽街はお前にはまだ早いかな。

 確か酒も飲まぬのだろう」


「ええ、あまり若い内から飲んでいると頭の働きが鈍くなると言って、ブライアンは飲ませてくれませんでしたし。

 おかげで、そういう習慣ができてましてね。

 その手の話は他でも聞きますので」


「確かにそういう事はあるよ。

 貴族のぼんくら子息など、子供の内から飲んでいる奴なんかもいて、そういう奴はもう碌なものじゃない」


 そうだよなあ。

 そういう奴に限って碌な依頼をしてこないし、そのくせ金の払いは渋るのだ。


 ちゃんとあれこれと弁えた賢い貴族は、きちんと相場の金をポンっと払い、いいパーティに確実な仕事をさせるから却って得になっているもんだ。


 その手の仕事を選べる時は、ブライアンも客を見て仕事を選んでいた。

 貴族からの割のいい依頼なら、ただのダンジョン仕事よりも確実かつ、結構な金になるのだ。


「でも煌びやかでいいですねー」


「はは、では見学だけでもしていくか」


 そして、それからすぐに俺は、驚愕を伴としながら街を練り歩く羽目になった。


 俺は姐御と一緒に、花街とさえ言えるような淫猥な空気の漂う通りを歩いていたのだが、いやはや客引きが凄いのなんの。


 こんなに凄いエルフの美女と一緒に歩いているにも関わらず、バンバンと次々とポン引きから景気よく声が飛んでくる。


「お兄さん、お兄さん。

 このゲートスの『花のコンキスタドール』へやってきて遊ばないなんて男が廃るぜ」


 花のコンキスタドール!

 お、お花の征服者ですか!


 なんて露骨なネーミングなんだろう。

 この街の性格がわかるような凄まじい名前だ。


 先輩のクレジネスとためを張れるネーミングなんじゃないのか。


「おいおい、兄さん。

 腰の剣は立派なミスリルじゃないか。


 ガタイもいいし、さぞかし男のシンボルも立派なもんじゃないのかい。

 羽振りがいいなら、うちで遊んでいきなよ」


 俺が目を白黒していると、英雄姫が麗らかな感じにお笑いになっていた。


「はは、ここの客引きは名物だからなあ。

 夫婦者だろうが恋人同士だろうが母親連れだろうが、お構いなしだ。


むしろ、それがこの街の風物詩でな。

 そいつを体験しにわざわざ立ち寄る物好きも後を絶えないという話だ」


「うわあ、とんだ名物もあったもんだ。

 さすがに遠慮しておきますよ。

 どうせなら一夜妻よりも可愛い嫁候補が欲しいもんですね」


 そして背後から聞き覚えのある、いかにも軽そうな声がしたので振り向いたらポールさんがいた。


 客引きと一緒に五~六人の女性に囲まれていた。

 かなり嬉しそうだなあ。


「いやあ、ここはいつ来ても素晴らしい天国みたいなところだねえ。

 おお、セニョリータ、なんて素敵な御御足(おみあし)!」


 そして、いつも連れている女の人に脇腹を抓られっぱなしだ。

 この人も相変わらずだな。


 他のざっかけないような感じの飲み屋なんかもたくさんあったのだが、そこも何か怪しい。


 どこかの店先では、そこの頭の禿げた親父が、ちょい飲み酒場の客に声をかけて女の子を奥から呼んで顔見せしていた。


 そして指であれこれ指し示し、値段の交渉をしているらしい。


「うわあ。

 も、もしかして、この界隈のお店ってみんな……」


「はっはっは、その通りだ。

 よし、では一つ面白い店に入ってみるか」


「面白い店?」


 そして楽しそうにする姐御の後をついていくと、なんとそこは『武器防具店』だった。


「へえ、この街にもこういう店があるんだ」


「そりゃあ商会のたくさん集まっている街だからな。

 ここから出発するキャラバンも多いといっただろう。


 仕事を受ける冒険者だって出入りするさ。

 さあ入ってみよう」


 だが俺は、姐御の横顔に少し悪戯っぽい笑みが含まれているのを見逃さなかった。


「ま、まさか⁉」


 だが店に入るなり、武器屋の親父が揉み手をしながら現れて俺に、にこやかなスマイル0円をくれた。


「お客さん、これはまた綺麗どころを連れていらっしゃいますね。

 いやあ、やはりエルフ様は本当にお美しい。


 ところで、うちの娘達もなかなかのもんですよ。

 お客さん、若そうだからサービスしておきますよ。

 いかがですかあ?」


 そして彼がパンパンと手を鳴らすと、あっという間に、奥からゾロゾロと女の子達が現れて品を作りながら並びまくり、十人前分のウインクや投げキッスをしてきた。


「うわああああっ」


「はっはっは。

 どうだ、これがゲートスのもう一つの顔さ。


 ここの歓楽街はラビワンにいる冒険者の男どもなどの御用達でもあるぞ。

 娼館などは向こうにもあるが、さすがにここまで盛況ではないからな。


 雰囲気も込みで楽しみに来るのさ。

 まあ参考までにな」


「ふあああ、なんてところだろう。

 ま、まあ将来は御世話になるかもしれないけど。

 知らなかったー、ラビワンの目と鼻の先にこんな街があったなんて」


「ラビワンの男どもは馬を飛ばしてやってくるのさ。

 ほら結構冒険者も多いだろう。


 他から北方街道を通って来た者や、ここで仕事の前後に集まる奴らなんかも、この界隈にたむろしているのさ」


「ふう。

 もう見ただけでお腹一杯だ。

 御馳走様です」


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