1-53 商人の街ゲートス
そんな感じで盗賊などが頻繁に登場するような状態であったにも関わらず、次の街ゲートスへは休憩一回を挟んだのみで、何事もなく無事に到着した。
街に入る前に一旦止まって、冒険者はそれぞれの本来の持ち場に戻っていった。
ここからは各人本来の契約に基づいた『盗人・かっぱらい対策』に入る。
後は各商人の護衛に着くなどの、各自の契約した業務に邁進するのだ。
街道を通りがかった馬車などが、一体何事かと目を丸くしていた。
これだけの大規模キャラバンという物は本当に珍しい物なのらしい。
通行中の馬車が全て通り越したのを確認した後に、巨大キャラバン・センティピードは街に向かって進軍を開始した。
そして皆が顔見知りの馴染みの顔らしい、この街の衛兵に一言挨拶をしてから街へ入場し、宿へと向かった。
彼も突如としてやってきた大規模なキャラバンに驚いていたようだ。
ここは、この界隈では一番賑わっている街道の宿場町なので宿も多くあって、センティピードなるものが突然に宿泊しても特に困らないキャパを誇っていた。
特に各ダンジョン都市の近郊にある宿は盛況なのだそうだ。
この大規模商隊群を見たところで、ここの住人は街が賑わっていていいくらいにしか思われないのだろうが、センティピードなるものが形成された経緯を聞いたなら、この街の誰しもが思わず顔を引き攣らせる事だろう。
この街にとっても、それは一種の危機であったのだから。
あの先輩の同類みたいな奴が近所に出没したなら、俺だって今すぐに逃げ出すわ。
あの先輩、今頃どこに行ったんだろう。
俺が街から逃げ出したから、俺の事は放牧に出したつもりで、他の目を付けていた奴のところへ行ったのかもしれん。
頑張れよ、先輩に目を付けられている生贄の御同輩達よ!
ベーゼルの一行は常宿へ行き、無事に全員泊まれる事となったようだ。
一応キャラバンの護衛は本日分終了で、商売の話をしにベーゼルが出かけるそうなので、ドワーフのバニッシュが護衛としてついていく。
後の二人も他の馬車の人に頼まれて一緒に出掛けた。
襲撃の後なので、街にいても何かこう不安に思う人もいるようだった。
魔物なんかよりも人間の方がよっぽどヤバイわ。
「リクル。
このゲートスの街の責任者である代官に会ってくる。
一応はあれだけの事があったのだ、話はしておかねばな。
ちょうどいい、お前も一緒に来い」
「わかりました」
そして、その宿から徒歩で代官の屋敷へ向かった。
街のメインストリートは歩道と馬車道に分かれていて、馬車が道の両脇に停まっても馬車が互いに楽に通れるほど広い。
そして立派な石畳になっていた。
「この街は実に立派な街ですね。
俺は西方面からラビワンにやってきたんで、この街道は初めてなんですが」
「ああ、ここはダンジョン都市間を中心とした南北街道筋で、ラビワンに一番近いキャラバンの常宿だからな。
ラビワンは東西の主街道とも交わる交通の要衝でもある。
だからここも賑わっているよ。
東西からの荷物が北方面にも多く流れ込むからね。
むしろそっち方面の方が多いはずだ」
「へえ、ここも美味しい街なんですね」
「ああ、ラビワンはダンジョンに特化した街だからな。
基本的に冒険者の街だ。
ここゲートスは商人の街さ」
「なるほど、それでこんなに賑わっているんですね」
「キャラバンの中には東西南北の一種の起点となるラビワンではなく、少し北にあるここから出発するものも多くある。
故に門、ゲートの名を持つのだ。
南北の黄金街道の始まりの起点となる街なのだ。
ここには大商会の拠点も多い」
「へえ」
「お前も冒険者なのだから覚えておくといい。
あと特種技能だったか、確か補助スキルなども覚えられるのだったな。
今度取得を考えておくといい。
索敵のようなものがあると盗賊対策に便利だぞ」
そいつは言えてるんだけど、一発で索敵が当たるわけでもないだろうし。
でもエラヴィスのあの隠蔽みたいな能力は魅力だな。
そのうちにお試しで補助スキルに行ってみようかなと思うのだが、その場になるとやっぱり特種技能が魅力なんだ。
「そうですね。
ご助言ありがとうございます。
ちょっと迷っているのですが、ここは当面特種技能で行ってみようかなと。
次々と他の人になさそうな能力が発現するのは面白いです。
それに、それらのお蔭で結構命が助かっていますのでね」
「そうだな、あの超ブースト爆炎魔法は傑作だった。
私も精進せねばなあ」
もう時間は午後の二時だが、ひっきりなしに馬車が走っている。
まあ走るといっても街中なのでかなりゆっくりなのだが。
さすがは多くの大商会の本拠地だけの事はある。
商会や倉庫などが立ち並んでおり、実に壮観だった。
中心部では商人達の豊かな懐を当てにした高級な店なども建ち並び、うちの田舎育ちの弟や妹なんかが見たら、泡を吹いてひっくり返りそうなほどの喧騒だった。
よし、いつか村へ馬車で凱旋するぜ。
村中の人間が腰を抜かすほどの可愛い嫁さんでも連れてな。
まあ俺の実家はラビワンから西方面に歩いて五日程度なんだけど。
自分の村までなら今回の半分の日程で帰れちゃうな。
はっきり言って馬車の方が俺の足よりも遥かに遅い。
今の強化された俺の足なら、軽く走っていけば一日で着いちゃうかも。
馬でもいいんだけどなあ。
本気で一回帰ろうか。
送金した分で金は足りたかな。
まあ農村にある我が家の経済状況なら、あれで当面は十分だと思う。
一応は使いやすいように、大銀貨二百枚と銀貨千枚に崩しておいたのだが。
田舎じゃ大銀貨でもあまり使わないが、さすがに銀貨ばっかりだと嵩張ってなんだしなあ。
農村は基本的に物々交換か銅貨経済にございます。
せっかくの金を泥棒に盗まれてなきゃあいいんだが。
いっぺんに送り過ぎたかね。
一応は、大事に使ってくれと書いた手紙は添えておいたのだが。
そうこうするうちに、一際大きな石造りのお屋敷に着いた。
周りを塀や木々で囲っており、門にはきちんと衛兵が二名立っていた。
「なるほど、立派なお屋敷だなあ」
「ここは、裕福な商人の街だから特別さ」
「俺って自分の村とラビワンくらいしか知らないんですよ。
あまり金が無かったんで、道中は徒歩と野宿で。
食事も村から持ってきた保存食と、それが尽きたら教会から貰ったお金で、その辺の農家でご飯を食べさせてもらってました」
「はっはっは、まだ若いんだ。
これからたくさん見て回ればいいさ。
リクル、世界は広いぞ」
姐御は世界を見て回られたのですね。
本当に御幾つであられるのか。
この人からは経験に基づいた様々な教えを乞えそうな予感がする。




