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1-52 哀悼の詩

 そして出発前の少し空いた時間に、ポールが何故か少し躊躇うような感じに俺に話しかけてきた。


 いつも陽気な彼らしからぬ振る舞いだったので、俺は少し胡乱な感じに彼を見つめた。


「リクル。

 実は、君にはまだ黙っていようかとも思ったんだが、やはり話しておかないといけない事なのだろうな」


「へえ、どうしたんですか」


 彼は少し髪をかき上げて、頭をかくような感じで一呼吸置いてから語ってくれた。


「ああ、心して聞いてくれ。

 これは後続のキャラバンの護衛をしているパーティから聞いたのだが、君が元いたパーティが全滅したそうだ。

 知り合いの確かな冒険者の言う事だから間違いない」


「え、まさか。あいつらが?」


 信じられない。

 あの慎重なブライアンに限って。


 今はシグナの奴が凄いスキルも持っているし、その他のメンバーは新人以外、全員上級冒険者なんだから。


「それは確かな情報なんですか?」


「ああ、それは相手が悪かったとしか言いようがない。

 おそらくクレジネスを捜していたのだろう、例の君が倒した怪物と遭遇していたらしい。


 ダンジョンに吸収される前の死体を発見したパーティがいて、ドッグタグを回収して先日戻ってきたので協会は大騒ぎだったそうだ。

 ドッグタグは全部で七個あったから、協会が名前と照らし合わせて、彼ら全員の全滅を確認した」


「なんて……こった。

 俺が、俺があんなスキルを使ってしまったから……?」


 俺は衝撃を隠せなかったが、ポールは俺の肩を軽く二度ほど叩いてこう言ってくれた。


「君のせいなんかじゃない。

 こんな事はよくある事で、巡り合わせの問題なんだ。

 まあ、遅かれ早かれ、君にも伝わってしまうだろうと思ってね。

 君は彼に教わった事を誇りに思い、彼を尊敬していたようだったから、俺の責任で伝えた」


「でも……」


 だが彼は首を振って、真剣に俺の目を見つめながら続けた。


「君は立派に命懸けで戦って、恩師や仲間の仇を見事に討ったのだ。

 誇りに思いなさい。


 そうした方がいい。

 俺はそんな冒険者達の話をたくさん聞いてきたよ。

 特にあの街ではよくある事なのさ」


「はい……そうします。

 ポールさん、教えてくださって、どうもありがとうございます」


 彼は笑顔で手を振って、いつもの陽気なポールさんに戻っていった。


 世の中の厳しさをたくさん見てきた結果、自分なりの答えとして、彼はいつも笑顔でああしているのかもしれない。


 そしてそう間を置かずに、最近にないらしい規模のジャイアント・キャラバンは北を目指して出発した。


 もちろん、全員が俺達の行く北方のダンジョンを目指しているわけではない。


 途中下車や分かれ道を行く者、北方のダンジョンよりも更に北上するキャラバンもいる。


 元々は各キャラバンに属する馬車自体が、各地で降りたり合流したりするものなので。


 だがダンジョン都市間の行き来は活発で半数以上、いや四分の三以上は俺達と同じ行程なのだ。


 このように総勢百台からなるような大キャラバンは通称、センティピード(むかで)と呼ばれている。


「壮観だねえ」


「はは、ここまでの物を最近は見ないな。

 あまり規模が大きくても欲の皮の突っ張った連中が、また妙な欲を出すのでな」


「なるほど、今回は止むを得ずっていう事ですか」


「まあそういう事だ。

 今回は我々がいて、他に各キャラバンの護衛に雇われた中級冒険者なども五十五人いる。


 センティピードを組んでも、そうそう滅多な事はあるまい。

 この街道筋に、あの疾風のカミエのような奴が何人もいるとは思えない」


「セラシアさん、油断大敵ですよ。

 俺なんか、あのクレジネス先輩に首を絞められて吊るされている時に、あのダンジョン管理魔物なんてものに襲われたんですが」


「あははは、それは確かに災難だったな」


 まあスキルのお蔭で、先輩が俺を追いかけ回す中級冒険者共を追い払ってくれて、管理魔物のおかげで先輩に殺されずに済んだんだけどな。


 それでも世の中は油断も隙もない。

 その魔物によって、選りにもよってブライアン達が殺されてしまったのだから。


 もし俺があのままパーティにいられたら、彼らは殺されずに済んだだろうか。


 俺は自分を追放した彼を恨んでなんかいなかった。

 むしろ本当はあのパーティにいたかったんだ。


 あの時、ブライアンがスカウトしてくれて、俺は本当に嬉しかった。

 一年間本当にありがとう、ブライアン。


 俺はそう心の中で彼を悼み、この話に関しての心の決着をつける事にした。


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