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1-51 センティピード

 翌朝は皆のんびりして遅めの朝を迎えていた。

 昨日の荒事の後なのもあるのだろう。


 休む時には切り替えて休むのが冒険者というものだ。

 今日の宿場にはゆっくりと到着する予定なので、それでも問題はない。


 俺は少し早めに起きて、朝食の準備をしていた。


「おはよう、お前は早いな」


「元々農家の生まれだから朝は早いし、冒険者としても下働き生活が長いので。

 ぼやぼやしていたら、ブライアンの拳骨が落ちますわ。

 この一年は俺に取って十年にも相当する長さでした」


「それだけ多くを学び取ってきた濃密な時間という事だ。

 お前を見ていると、ブライアンという親の姿が透けて見える気がするな」


「あっはっは、あれが俺の冒険者としての親ですか~」


 だがまあそのような物に近いのかもしれないな。

 別に甘やかしたっていいんだけど、冒険者の場合は、そんな事をすればすぐに死んじゃうからなあ。


 ブライアンも、昔の一介の冒険者だった頃には新人の扱いも普通の感じだったものらしい。


 だが、自分がマネージャーになって最初に預かった見習い冒険者を、チーム外へ送り出してからすぐに死なせてしまって、それ以来新人は鬼のように厳しく躾ける事にしたらしい。


 時には目に余る事もあったらしいのだが、その事に対して誰も文句は言わなかったそうだ。


 甘やかして早死にさせるよりは一年間厳しく扱いて、立派に送り出してやる方が絶対いいのだから。


 自分のパーティに欠員が出なかった場合、新人は大概他の欠員の出たパーティへ行くか、修行を終えた新人達でパーティを組んだりする。


 そしてスキルが凄い人間は定員オーバーでも放さない。

 おそらく今のシグナがそうなのだろう。


 今回も新人は定員いっぱいの二人を入れたはずだ。


 冒険者協会もなるべくブライアンに新人教育を任せたいだろうし、彼もその協会の意を汲んで、いつも枠いっぱい扱うらしい。


 ようやく扱かれる立場から扱く側に回ったシグナの奴が、さぞかし威張っていそうだなあ。



 早起きした分は時間に余裕があったので、小麦粉を捏ねて即席の薄焼きパンを焼いた。


 上等の物ではないが、野営の朝では上等な御馳走だ。

 ダンジョンの遠征なんかじゃ食べられない食事であった。


 他に簡単な乾物の炒め物の料理と、生活魔法で準備しておいた水と乾物系のスープで給仕をした。


 俺には手慣れた仕事だ。

 シグナは少しがさつな女だったが、こういう仕事は凄く上手かった。


 案外と、冒険者らしく振る舞おうとして、日頃はわざと女だてらに粗暴な態度を取っていたのかもしれない。


 あいつは本当にブライアンから認められたがっていた。

 今は奴も後輩が出来たので、あれに拍車がかかっているかもな。



 それから皆でテントをたたみ、荷物を馬車に収納した。

 俺は馬車に馬を繋ぎ、十分な休息を取って元気を取り戻した馬達の頭を撫でてやる。


 だいぶ世話をしてやったので、馬も結構俺に懐いていた。

 こうしてみると、なかなか可愛いもんだ。


 うちの村にはロバしかいなかったし、ブライアンのところでは馬なんかに用はなかった。

 俺が馬車馬のように扱き使われていただけだったのだ。


 こうして実際に比べてみると、馬車馬の方が明らかに当時の俺よりも待遇がいい。


 キャラバンで予備の馬を連れていくのは難しいので馬は大事にされている。


 二頭立てで一頭駄目になったら四頭立ての馬車なんかから調達するしかない。


 セラシアは二頭しかいない馬によく回復魔法をかけてやって大事にしていた。

 普通の魔法使いはそんな事をしないけれど。


 これで今朝の雑用は終了だ。

 セラシアはベーゼルや他のキャラバン隊の責任者と打ち合わせをしている。


 臨時の大型キャラバンとなった我々はセラシアをリーダーとする護衛隊を組み、他の三人の上級冒険者はバラけていった。


 偵察はそれ専門の能力に長けた中級冒険者がいるので、エラヴィスは殿(しんがり)で戦闘待機の配置に回っている。


 彼女は必要とあらば後方の偵察にもいけるので悪くない配置だ。


 マロウスは真ん中より少し後方に陣取って、後ろ寄りかつ全体的を俯瞰(ふかん)する感じで警戒している。


 マロウスと先頭付近にいる俺達との間にバニッシュが陣取っていて、どこにでも応援に出かけられる体制を取っていた。


 そして各キャラバンの雇った冒険者もパーティはバラし、バランスを取って全体の中で各々配置されるという異例の体制だ。


 セラシアのパーティが真っ先にバラけていたので誰も文句は言わなかった。

 いざとなれば上級冒険者が先陣に立ち、中級冒険者を指揮する。


 セラシアは司令部として魔法で索敵しながら指揮を執り、俺は有事になったら彼女と共にブースト作業に入る。


 その際には、場合によってはここにいる冒険者全体にブーストをかける事も視野に入っている。


 セラシアからは、俺の能力をあまり広めると、また俺の奪い合いで面倒になるからと言われ、それはなるべく無しの方向にしている。


 だが、それもこの前のような不測の事態になったら、出し惜しみなど糞食らえもいいところなので、そこは臨機応変に対応するという話になっていた。


 夕べの宴で他のキャラバンや冒険者からも情報を集めたのだが、北方面の街道の治安が急激に悪化したのはここ最近の事だそうだから、はっきりとした事はよくわからないらしい。


 もしかしたら、今北のダンジョン方面で騒ぎになっている事と関わり合いがあるのかもしれない。


 昨日までの騒ぎは、休憩所に詰めている担当の冒険者が馬を飛ばしてラビワンへと伝令として向かったので、各方面に警戒は呼びかけてくれるだろう。


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