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1-49 逆戻り

 そしてポールがやってきて騒ぐ。


「いやあ、こいつはいい物を見ちゃったなあ。

 凄い戦いだった。


 神話の世界か福音書の黙示録か。

 これほどの戦いは滅多に見られる物じゃないよ」


 もう、この人は本当に~。

 なんて暢気な事を。


 あまりにもポールさんらしくて責める気にもならない。


「ああ。

 ポールさん、いい根性していますねー」


「そりゃあそうさ。

 それくらいじゃないとキャラバンなんかで旅はできないさ。


 それよりもベーゼル。

 さすがにこの戦闘は皆も衝撃だったようだ。


 馬達もね。

 このまま行くのは少し無理があるだろう。


 一度休憩所に戻ろう。

 皆が落ち着くまで少し時間をくれ」


 う、あのポールが真面な事を言っている!


 だが話を聞いていたベーゼルも、もっともな話だと感じたようだ。

 キャラバンの人達も、まだ武器を手にしたまま座り込んだりしている。


 そりゃあそうだろうなあ。

 俺だって、自分が戦ったのは別としても凄い衝撃だったわ。


 特に自分がぶっぱなした特大魔法のアレの威力が。


「その前に。

 エラヴィス、もう火も収まった頃だろう。

 もう一度見回ってきてくれ。


 私の魔法の探索には引っかかっていないが、念のために目視で現場を見てきてくれ。

 背後から生き残りに追撃されては叶わない」


「ラジャー」


 俺も、もう生き残りがいるとは思えないのだが。

 特に生き残りの気配は感じられない。


 それでも、こうするのは必要な事だ。

 俺もブライアンから、くどいほどそういう作業をさせられた覚えがある。


 その作業をやっていなかったら全滅していただろうシーンが一年間で三度もあった。


 世の中は、ほんの些細な心掛けを実行するだけで、それを無傷で済ませる事が可能なのだから。


「わしらが帯同しておるキャラバンでよかったのう」


「うむ、まったくだ。

 それに今日はリクルが一緒だったからよかった。


 そうでなかったら、生き残りがもっといてキャラバンにも被害が出ていただろう。

 あれだけ数がいては、さすがにな」


「リクルって、今はソロで活動しているけれど、ソロよりもパーティプレー向きの能力よね」


「ええ、もうずっとこういうパーティ路線で行こうかなと。

 今回もバージョンが上がって、攻撃威力が勝手に上がってましたしね。

 そういう自動的なスキル補正機能もあるようなので」


 とりあえず、エラヴィスの偵察でも異常なしとの事なので、キャラバンは馬の足取りも御者の気持ちも重い有様で、元来た方向へ向かってテンションの低い蹄鉄の音を響かせた。


 せっかく来た道を大トラブルで一旦引き返すのだから無理もない。

 皆も疲れた表情で馬車を駆っている。


 セラシアも疲れたものか、目を閉じて軽く寝息をたてていた。

 多分、これは彼女にしてはかなり珍しい事なのだろう。


「彼女は元来エルフの魔法使いで、あまり肉弾戦向きではないからの。

 さすがに、あれは堪えただろうよ。

 寝かせておいておやり」


「そうですね。

 おそらく追撃はないでしょうから」


 俺達は最後尾でキャラバンの殿(しんがり)を務め、うちの馬車は比較的元気なエラヴィスが操り、マロウスは馬車の屋根の上で、獣人の鋭い感覚で周囲の警戒をしていた。


 俺も何かあればすぐ出られるように、五感を研ぎ澄ませた状態で、まるでダンジョンの中で魔物の襲撃に備えるかの如くに戦闘態勢で扉側の席で警戒している。


 バニッシュは何かあれば咄嗟(とっさ)に御者台へ移り、エラヴィスが偵察に向かう予定だ。


 幸いにして何事もなく、俺達は無事に休憩所まで舞い戻った。


 そして今から休憩所より出発しようとしていた、遅めに出発していたキャラバンは、俺達の話を聞いて顔を引き攣らせ、これからの出発を延期した。


「やれやれ、先程は盗賊が退治されたと聞いて安心していたのに、今度は冒険者崩れの御登場か。

 しかも特級の上級冒険者パーティをここまで痛めつけるなんて。


 わしらは、あんた達と一緒に行きたい。

 わしらがあんた達のキャラバンより先に行くなんて無理だ。

 うちのキャラバンに街道の露払いは出来ん」


 全部で四商隊いたが、その責任者全員が同音異口でそう申し入れてきた。


 ベーゼルとセラシアはそれに同意したが、セラシアは彼らの前に立ち宣言した。


「悪いが、今日はここで野営させてくれ。

 あれだけの戦闘を連続でこなしたのだ。

 少し休んでいかないと出発できない。


 そうなるともう予定地まで今日中に着くのは無理だ。

 明日も行程は半日に留め、本来一日目に予定していた宿で泊まる事を提案する」


 そして半ば白くなりかかっている口髭を、経験や知識と共に蓄えてきただろう、やや年配の商人は、「当然の事だとは思うがあくまで確認のためだけ」というような感じに尋ねてきた。


 彼の腹も既に決まっているのだろう。


「ふむ。

 それは日程が一日延びると言う事かな」


「その通り。

 日程は一日延びる事になるが、そこは了承してもらいたい。


 まだ旅は始まったばかりだ。

 ここまでで既に不測の事態があったのだから、それも止むを得まい」


「わかった。

 あんた達が万全でない状態でないのはありがたくない。

 みんな、そうしよう!」


 彼は歳と比例して仲間の信頼を得た重鎮らしく、そのように仲間に呼びかけてくれた。


「それでいい。

 彼らと一緒に行かせてもらえるだけ、実にありがたい。

 ここのところの物騒な噂は気にかけておったのだから」


「それにしてもなんということだ」


「だが疾風が退治されたのはいいニュースだ。

 あいつがあのまま野放しになっていたらと思うとゾッとする。

 あの男は、ラビワンでも札付き中の札付きだったのだからな」


 先輩とどっちが?

 と聞いてみたかったのだが、さすがにそんな事は聞けない。


 俺はまだ先輩恐怖症が抜けていない。


 このようなクレジネス・シンドロームを患っている人は他にもいるのではないだろうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 先輩と疾風はダンジョンで出遭ってたらどうなったのだろうな
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