1-48 スイッチ・ファイター
「ふう、危なかった。
もうちょい奴のスキルをパクるタイミングが遅かったら負けていたかも」
「そうでもないさ」
背後からマウロスが声をかけてくれたが、その姿と来た日には。
もう全身傷だらけの一言だ。
防具はボロボロで、身体中がまた創傷だらけだ。
だが、その瞳の力はむしろ誇りを増している。
彼の超戦士的な戦いぶりは見ておきたかったな。
多分滅多に見られるようなものじゃなかったはずだ。
まあ俺の三倍ブーストが彼らにも飛んでいるのだから、そうそう負けたりはしないだろうさ。
「まあ、わしらが来たんじゃからのう。
さすがの奴も上級相手に五対一では分が悪かろう。
リクルよ、お前もスキル込みであるならば、もうその実力は上級クラスじゃ」
そう言いながらも、バニッシュも満身創痍の有様だ。
上半身など、ほぼ何もかも剥ぎ取られて逞しいドワーフの筋肉を見せつけており、古傷と共に生傷が数えきれないほどみえる。
俺のブーストで、頑丈さや回復力も三倍になっていたはずなのだが、向こうも手強い奴らだったらしい。
「へえ、リクルが疾風をやったんだ。
凄いじゃない」
一人だけ無傷のエラヴィス様が飄々とした感じで腰に手を当てて仁王立ちしていた。
そして、俺の傍に立って上半身を屈めて人差し指を立てて顔を差し、ウインクしながら顔を覗き込むようにして言ってくれた。
「お姉さん、見直しちゃったぞ!」
「いや、セラシアさんから貰った魔法でなんとか。
あと直前の戦闘でスキルのバージョンが一つ上がっていたんで、あれこれとギリギリでしたね」
「そういや、お前。
途中から魔法をスイッチしていたのだな。
今、気がついたのだが」
「ああ、試してみたんですよ。
それができるかどうか。
うまい事、遠距離大規模魔法から近接物理魔法に切り替えられました。
あと奴の斬撃の方が有利と思ったので乗り換えてみました。
自分の技を四十二倍にされて食らったので、カミエの奴もさぞかし驚いた事でしょうね」
「リクル、またパワーアップしたんだね」
「はは、殺されかかったんで一気にバージョンが上がりましたよ。
こんな事は、ラビワンでクレジネス先輩やダンジョン管理魔物の超怪物とやりあった時以来ですね」
「うわ、命懸けの超進化かあ。
それ、あたしなら絶対に嫌だなー。
うーん、頑張ってね」
今は【レバレッジよくできました7.5】。
基本能力として【攻撃力補正×2】があり、これで最大、ルーレット六倍の出目で84倍の攻撃力が発揮される。
いや、7.5なのだから90倍なのか。
特殊技能は、【邪気の封印】。
こいつは日頃の使い勝手としては、あまり良い物ではないと思うのだが、まあ特殊能力なのだからいいか。
こんなスキルがなんで出たのかな。
まさか、あの邪まな先輩を封じるため⁇
「みんな、よくやった」
「ううう、いやあ死ぬかと思いました」
俺、もう少しで真っ二つにされるところだったよ。
一瞬の遅滞もない好判断が俺の命を救ってくれた。
それは日頃の弛まぬ鍛練と、指導者からの容赦ない拳骨を伴う厳しい習練の中でしか身に着かないものなのだ。
ああ、ブライアン。
何故俺を追放したんだ。
俺は今、こんなにも鍛練の成果を出しているのに。
まあ何故もへったくれもないのだがな。
冒険者にとってスキル外しほど辛い物はこの世に二つとない。
「はは、カミエを倒したなら上出来だ。
あれも冒険者としては腕が良かったのだが、犯罪性向が強い奴で協会からは目を付けられていた。
そして、ついに尻尾を掴まれて追い出されていた訳だ。
似たような仲間を集めて徒党を組んだか。
久しく噂は聞いていなかったのだが」
獣戦士マロウスからも褒められた。
嬉しいね、なかなか彼のようにマッチョ一本ではやれない、しがない人族の小僧なものだから。
ブライアンのパーティにも獣人の人はいたが、彼もやはり物凄かった。
いつもは絶対に褒めてくれないけど、もう三回くらい死ぬかと思うほどの根性を入れてブライアンも唸るくらいのいい仕事した時だけは、さすがに彼も褒めてくれたよ。
このマロウスもきっと、そういう人なんだろうな。
「北方の街道が物騒というのも、奴らのような無頼の者が一枚噛んでいたのだろう。
他にも、ああいう連中がおるのかもしれんな。
カミエめ。
あの人数で、ラビワン近郊で何を企んどったものだか」
「いやー、こっちは相性が良くて助かったな~。
魔法使いだったけど指向性の強い魔法を使う魔法使いで、動き自体もトロかったから。
リクルのくれた三倍ブーストの恩恵もあったしね。
でもさすがは上級冒険者、魔法使いのくせにやたらと近接もこなすし。
前の雑魚盗賊みたいにはいかなかったわ」
「それにしても……」
セラシアはあたりの惨状を見て、軽く溜息を吐いた。
まあ、見事なまでの焼け野原だ。
たまたま奇跡的に街道部分が、ほぼ無事だったのが何よりだ。
しかし、ここを通りがかった人が見たら、いつもの通い道と明らかに異なる地獄の情景に、さぞかし吃驚する事だろう。
まるで魔法使いを帯同した、ちょっとした戦場跡のようだ。
いや、そいつはそう間違った表現ではないのかもしれない。
それほど大規模な、上級冒険者同士の大戦闘、紛れもない死闘であったのだ。
「まあ、報告だけはしておく。
あれだけの大盗賊団が相手だったのだ。
これくらいは冒険者協会や、周辺の代官や領主にも大目に見てもらおう。
ベーゼル達も証言してくれる」
「ああ、そういやキャラバンの人達は、皆無事だったかなあ」
これで死人が出ていたら俺だって泣く。
「大丈夫、全員無事です。
馬も含めて怪我人もいませんし、積み荷も馬車も無事です。
まるで奇跡のようですな。
いやはや、物凄い戦っぷりでした。
まるで神話の中の戦いだな」
振り返ると、報告のためにキャラバン隊長のベーゼルがやってきていた。




