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1-45 紅蓮の龍

 そして慌てて戻ってくるなり彼女は顔色を変えて報告した。


「大変、姐御。

 あいつら、全員冒険者崩れよ。

 ラビワンの街を【所払い】になった上級冒険者が四名もいたわ。


 総勢五十七人もいて、全員中級以上の札付きばっかりみたい。

 その中に疾風のカミエがいたの」



 げええ、そいつはマズイ。

 いくらラビワンの近所だからって、なんで元冒険者みたいな奴らが、そこまでの人数いるんだよ。


 中には二つ名持ちもいるのか。


 さすがに俺もそういった個々の冒険者の情報までは詳しく持っていないが、協会の座学で教えていた危険な冒険者の中で、要注意人物として勧告されるタイプの冒険者リストに先輩と並んで名を連ねていたような奴に違いない。


 街を所払いか、一体何をやらかしたのだ。

 あの年中発狂中のような先輩ですら追放されていないというのに。


 初手でミスったらキャラバンが襲われて甚大な被害を受けそうだ。

 だが、姐御様は顔色一つ変えずに、こうおっしゃった。



「小僧、予定通りに行くぞ。

 相手が手強いので、止むを得ず少し危険な魔法を使う。

【気合を入れて】、いいスキルの出目を出すのだ」


 俺のような下っ端が実戦において要求されるものは、いつもこれだ。

 それは即ち、根性である。


「へーい。

 追加のスキルも付けておきやす」


「残りの三人、私が魔法をぶっ放したら、各馬車を回って迅速に襲撃を告げろ。


 彼らに先に知らせると、こちらが気付いたのが敵にバレて、おそらく数に物を言わせた先制攻撃を仕掛けてくるだろう。


 そんな事にでもなれば商人など一溜りもない。

 魔法による先制攻撃でなるべく敵の数を減らし、そして全員で防衛体制を敷かせるのだ。


 だが、お前らがなるべく敵を迎撃しろ。

 さすがに中級や上級冒険者の相手は商人にはキツかろう」



「ラジャー」

「任せておけい」


「こいつは腕が鳴るな。

 さっきは出番がなかった」


 この方達って、もしかして普通の人達より感覚が先輩寄り?

 まあ、あんな殺人鬼なんかじゃなくって漢気に溢れた方々なんで特に問題はないのだけれど。


「では開始する。

 手練れの奴らにはチャチな捕縛系の魔法など通用はせん。


 大型魔法ではなく、広域個別撃破用の大魔法を使用する。

 小僧、先にブーストをかけろ」



「発動。

 あ、すいません。

 ブーストが三倍だけでした~」


「上出来だ。ドラゴンレイン」


 詠唱というにはあまりに短いそれは、あっという間に魔法陣の形へ変換されて大空に展開され、巨大な火焔の蛇を無数に属共が蠢く大地へとお見舞いした。


 なるほど、ドラゴンというのはそういう事か。

 これは火焔龍フレイムドラゴンを模したものなのだ。


 そして俺はコピー魔法を放った。


 三倍にブーストされた姐御の魔法を、さらに6×3の十八倍の威力にした、ブースト重ね掛けテクを使用したダブルブースト魔法を。


 追撃の、オリジナル魔法の威力から五十四倍にも増幅された火焔嵐は、まだその姐御が突き落とした数多の爆炎が燃え盛る中へ、超大規模な追加燃料を投下した。


 まるで真っ赤な炎を纏う伝説の大地の蛇が、天に湧き上がった超魔法陣から終末の使者のように舞い降りるかのような、福音書第七章の黙示録の世界。


 それが大地に次々と着弾して炸裂して大地を舐め尽くし、敵に対して波状攻撃で襲い掛かっている凄まじい火炎爆流の放つ衝撃波と熱風が、こちらにも強烈に押し寄せてきてキャラバン中から悲鳴が響き渡った。


 馬車の片側が半ば浮いており、馬車に括り付けられたままの馬も全頭嘶いて暴れている。


 あっちゃあ~、やり過ぎたー。

 というか、これは調整不可なのだ。


 だって姐御が「やれ」っていったんだからね。


 あの人『いい目を出せ』なんて言っていたし。

 これで、もしも六の出目が出ていたら大変な事になっていた!


「この馬鹿め、このキャラバンごと吹き飛ばすつもりか」


 いつもは温厚な爺ちゃんのバニッシュからも酷く怒られてしまった。


「すいませーん。

 一旦ブーストスキルと合わせてしまうと威力の調整ができなくて。

 自動的にさっき姉御の放った魔法の十八倍の威力になっちまうので」


 つまり、姐御オリジナルの五十四倍の奴なのだった。


「ええい、身内同士で揉めている場合か。

 じきに奴らが来るぞ、全員戦闘準備」


「え、マジで⁉

 あの紅蓮の嵐の中を生き延びた奴がいるのか」


 俺は慌てて馬車から飛び出すと、その前方に陣取ってミスリルの槍を構えた。

 皆も飛び出して各自迎撃に向かった。


 ここに残ったのは姐御と俺だけだ。


 もう各馬車に通達する必要はないかもな。

 こんな物は有事に決まっているのだから。


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