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1-4 トリアエズカネ

 俺はボヤきながら、ダンジョンへと向かった。

 とりあえずは金、何はともあれ、とりあえず金だ。


 今日からは装備の整備費さえも自分持ちなのだ。

 最初は間違っても装備を破損毀傷するような相手を選んではいけない。


 目端の利かない奴だと、ここで焦って大物狙いに行くのだろうが、ブライアンの教えはそうではなかった。


 ここは、比較的容易に戦えて、装備の損耗も自分の創傷も無くて済み、なおかつコスパのいい相手を選択しないといけないのだ。


 武器防具の整備費用や回復薬などもただじゃないのだから。


「じゃあ、とりあえずは奴らしかいないかな」


 その足でダンジョンへと向かい、冒険者協会の装備課で、ある物を借り受けた。


 それは新人には無料で貸し出してくれる、ありがたいアイテムだった。


 ここのダンジョンは、真下に向かって深く成長していくタイプの完全な地下ダンジョンで、ボス部屋なんて物がある仕様ではない。


 全部上から下まで自分の足で歩いて探索するのだ。


 水や食い物なんかの関係もあるため、金がなくてサポーターを雇えない今の俺では、あまり深い場所へは進めない。


 まだ新人なんだから、そもそもそういう事を考えるだけでも分不相応なのだが。


 彼らを雇う金はおろか、今日の自分の食い扶持にさえ困っているような、みっともない有様だ。


 上級冒険者チームであったブライアンのパーティでは下層にさえ潜る事もあったのだが、その時はもちろん俺自身が荷物持ちなのだった。


 俺は、お目当ての上層魔物のエリアの上っ面を目指す事にした。


 本来なら俺のように、ここのダンジョンに慣れた冒険者が行くべき場所ではなく、田舎から出て来た無知な人間が、いきなり冒険者を始めた時なんかに行く場所なのだ。


 危険が多い上に後で出費の多い毒攻撃などが無く、また強い攻撃力もなく、ソロで戦うのも比較的容易で、なおかつ需要が比較的多く買い取り価格が高めの魔物(ターゲット)


「ま、とりあえずは、こいつらでも狩るしかないわな」


 それは二階層にいらっしゃる、雑魚の中の雑魚たる魔物のスライム様だった。


 ちなみに一階層に魔物はいない。

 魔物は陽光を嫌うので、そのあたりにはどんな雑魚魔物すらいないのだ。


 スライムは、その液体に近いほどの流動性を持つゼリー状の外観(ビジュアル)と、くっつかれたら厄介な性質から比較的嫌われている魔物なのだが、新人には案外と人気がある。


 こいつの素材は食用から工芸素材、防具に使う接着剤系の素材材料など結構用途が広くて、かなりの需要があるので、ランクから考えれば意外なほど高価買取素材なのだ。


 今日は見習いだった同期の新人達が正式なメンバーに昇格したので、今ここはこのように空いているのだ。


 日頃は新人も自主的にこういうザコを小遣い稼ぎに狩っているのだ。


 だが、本日は正規の冒険者となったお祝いに、パーティ討伐以外のお小遣い用討伐にベテランの付き添い付きで行って、少しマシな魔物を狩らせてもらっているのだろう。


 俺は今、そのお零れに預かっているのかと思うと無性に情けなくなってくるのだが、そこはまあ生活第一という事で思いを断つ。


 元々プライドなんか欠片もない貧乏百姓育ちの俺にとっては、実は現状ですらそう困った状況でもない。


 さすがに、今日は潰れたスライムの如くにへこんでいるがね。

 まあこんな魔物でも狩れば、ここでは飯を食うくらいの事はなんとかなるのだし。


 危険を顧みずに強引に行こうと思えば俺は一人で中層まで行けるのだ。

 まあ、絶対に行かないけどね。


 このスライムを狩るには要領がある。


 背中に細い木で編んだ籠を背負い、素早く近寄って金属製のスライム専用掴みで核を叩いて壊す。


 先の部分の背の部分が少し金属の塊になっていて、核を壊しやすい構造になっている。

 ちょっとした、スライム専用打撃武器になっているのだ。


 そして先の平たくなっている部分で、倒したぺちゃんこのスライムを要領よく先っぽで摘まんで背中の籠に放り込む。


 上手に掴まないと籠の中にまで入れられずに落としてしまうし、核の壊しをミスると死にきれなかった奴が背中の籠から這い出してきて、背後から首筋をスライムに食いつかれたりもする。


 それは最悪の事態を招く。

 俺は効率よく確実に壊すやり方をブライアンから学んでいるので問題なく集めていく。


 他のスライム個体の位置に注意深く気を配りながら、ターゲットのスライムに飛びつかれない間合いを保ちつつ、手首のスナップを利かせながら一気に核を砕く。


 その後で確認のためにスライムの核を突いて感触を確かめるのも忘れない。

 こういう地道な作業を怠る奴が、スライムに食いつかれて酷い目に遭うのだ。


 ここいらは岩肌が露出した、いかにもといった感じの典型的なダンジョンだ。

 このような地形は、スライムを集めるにはちょうどいい場所だった。


 よく見えないような草むらに、こいつらに隠れられていられると敵わない。


 俺は、無言でせっせと要領よくスライムを集めていった。


 こうやって地道に仕事をしていると、今日の悪夢のような出来事も多少は薄まりそうな気がするな。

 

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