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1-37 旅の仲間

「まだ早朝は寒いねー。

 みんな早く乗って乗って、そこの坊やも」


「お邪魔しま-す」


「時に君」


 一人だけ外套を着ずに、ピチっと体の線に沿った革のチョッキや上着を着込んだだけの、黒い熊っぽい体毛で毛深い獣人マロウスが訊ねてくれる。


「なんでしょう」

「馬車の旅は初めてかね」


 ああ、そういう心配をしてくれているのだな。

 見かけよりも繊細な人なんだなあ。


「ええ、それなりに一応用意だけはしてあります」


 俺はそう言って、背嚢から取り出した酔い止めの薬をずらっと石畳の上に並べた。


「あら、これはまたいっぱい持ってきたのね。

 高級ハーブ系に魔法薬に、こっちは錬金系医薬か。

 また高そうな物ばっかり」


 御者台のエラヴィスも感心した声を出してくれた。


「途中で売っているとは限りませんので、念のため。

 聞いた話だと、こういう事は各自の体質によるので、屈強な冒険者でも駄目な時は駄目だそうで、自分も初めてだと馬車酔いの耐性に自信がないですね。

 そういう事で少し良い物を用意してきました」


 一応は、そういう態勢のような物にもレバレッジがかかっているはずなのだが、さっき言った通り初めての馬車旅ではまったく自信はない。


「賢いわねえ」


「いえ、前の職場では準備がなっていないとすぐ殴られましたので。

 お陰様で生きたまま中級冒険者に上がれました。

 一年間殴られまくっただけの甲斐はありましたよ」


「へえ、無慈悲にパーティを追い出されたのに恨んでないの?

 よく殴られていたんでしょ」


「あの人は見込みのない人間は絶対に殴りませんので。

 同期の女の子は一回も殴られていませんでした。

 あの子は、それで俺が殴られているのを見ては、よく唇を噛んでいましたので」


 まあ、俺は俺で殴られる度に唇から零れる血を舐めていたわけなのだが、あいつも思うところはあったのだろう。


 そして頑張った分は素晴らしいスキルに恵まれたのだ。

 逆境から成り上がりを求める魂の下克上?


「あらまあ」

「へえ、こいつはまたスパルタじゃのう」


「鉄は熱いうちに鍛えろってか」


「いいじゃないの、お蔭で鍛えられたんだからさ」


「まあ、あの同期の女の子も素晴らしい特上のスキルを手に入れたので、この先も頑張れるのじゃないでしょうか」


 追い出された俺の分までな。

 あんな形で俺がいなくなってしまったので奴は大いに不満な事だろう。


 しゃかりきになって歯を食いしばりながら頑張って、いつか俺を追い越すのを目標にしていたみたいだからな。


 別れ際にも、あいつだけは物凄い眼で俺の事を睨んでいた。

 無理もない。


 並みの成績の女性冒険者が、新人の中では成績トップであった俺のような男を追い越すのは、半端ではないとかいう言葉では済まされないほどの猛烈果敢な努力と運が必要だったのだ。


 彼女は運に恵まれ、その機会をようやく得られそうだったのに、肝心のこの俺に運がなかったんだからな。



 そして馬車はキャラバンに合流した。

 もう指定の停車場には既に五台が止まっており、そして今六台目が合流した。


 そして少し歳のいった感じの男性が声をかけてくる。

 背が高くパリっとしてはいるが、白い物が混じった髪などは人としての年輪を感じさせた。


 だが、それすらも貫禄を表すかのようだった。

 なかなかの人物とみた。


「やあ、セラシア。

 君が来てくれて心強いよ。

 最近はやけに街道が物騒でね」


「久しいな、ベーゼル団長。

 ちょうど、北のダンジョンの様子を見がてら、よい武器を見繕いにね。


 久しぶりにバニッシュが武具を打ちたいって言うし。

 今回はもっぱら素材探しがメインかな」


「ほお、それはまた」


 あれ、もしかしてバニッシュは鍛冶師として有名なのかな。

 バニッシュはどこ吹く風だが、キャラバンのベーゼル団長はどことなく羨望の眼差しだ。


 馬車は全部で十台のうち、残りは後四台の予定だったが、やがて次々と馬車が合流した。


「あと一台か、相変わらずあいつが最後だな」


 すると、少し急ぎ気味に走らせている馬車がこちらへとやってきた。


「遅いぞ、ポール。

 お前はいつも遅い。

 それに出発前に馬を酷使するな」


「悪い悪い、団長。

 いやあ可愛い子ちゃんが放してくれなくってねー」


 なんか、またチャライ感じの人が来た。

 風のように軽いというか、まるで流れる雲のような感じだな。


 これまた軽やかに御者台から降りて来た、一際お洒落な格好をした色男風の彼は、俺を見つけるなりこう言った。


「あー、君のことは知ってるぜー。

 確か『レバレッジたったの1.0』君だあ」


 そして、彼の隣にいた派手っぽい感じの女の人と、団長が同時に彼の頭をはたいた。


「う、あれを見てましたか。

 でも今は『レバレッジ頑張って6.8』君なんですよね!」


「何だい、そりゃあ。

 まあいいや、俺はポール・リビングストンだ、よろしくな~。

 おー、愛しのセラシア姫、今日もまた見目麗しい」


 そしてまた女の人に頭をはたかれている。


「リクル、こいつはこういう奴なんだ、まあ気にするな」


「あはは、旅の仲間は楽しい人がいいですよ。

 俺、リクルです。

 よろしく、ポールさん」


「おう、こちらこそヨロシクな~」


 彼はウインクして俺の差し出した手を力強く握ってくれた。


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