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1-36 馬車ターミナルにて

 それから協会長の方へ顔を出した。


「おお、来たか、リクル。

 実はセラシア達が北へ行きたいそうなんで、お前も同行させてやってくれと頼んでおいた。

 出発は明日の朝からだそうだが大丈夫か」


「はい、いつでも行けます。

 へえ、あの人達と一緒なのか。

 そいつは心強いなあ。


 もちろん、簡易式ではありますが剣の研ぎも終わっていますし、もう支度の買い物も終わらせました。


 さすがはミスリルです。

 あの程度の戦いではビクともしていないし、槍は自動的に復元しますから」


「そうか、さすがはブライアンの仕込みだけあるな」


 ブライアンは協会の人には物凄く受けがいい。


 彼の育てた冒険者は上へ上がる確率も高いし、何よりもその後の生存率に関しては、他の指導に当たる上級冒険者とは一線を画するほどの定評がある。


 そして彼が育てた人間は、厳しく育てられただけあって割合ときちっとしているし、後身の人もよく育てるのだ。


 人は親を見て育つものだ。

 いきなり新人の身の上から上級冒険者に育てられた者は、特にその傾向が強い。


 俺は更にそのブライアンの評判を高めた形になるのかな。

 一年分いただいた拳骨の恩くらいは返せただろうか。


「行きは馬車をチャーターして、キャラバンに参加して護衛任務を受けるそうだ。

 最近、北の街道は物騒らしくてな」


「へえ、そうなんですか」


「ちょうどいいから、お前も参加して護衛の仕事を覚えさせてもらいなさい。

 またこっちへ帰って来ても、迂闊にダンジョンに入らない方がいかもしれんしな。

 彼らには私から言っておこう」


「そうしまーす。

 中級冒険者ったって、まだ新人だから覚える事は山盛りですよ」


「いい心がけだ。

 リクル、お前なら絶対に上級まで行けるだろう」


 この栄えあるラビワンの協会長より、非常にありがたい御言葉をちょうだいしてからセラシア達を捜したのだが、協会には見当たらない。


 今はあれこれと出発の準備や荷造りをしているのかな。

 上級冒険者である彼らは装備も多そうだ。




 翌朝、まだ夜が明けきらないうちに、俺は大きめの背嚢を亀の甲羅のように背負い、それに他の荷物まで括り付けてある。


 ミスリルの槍を手に馬車の集合場所の馬車ターミナルへと向かい、早めに立っていた。

 まるで軍隊の歩哨のようだが、俺はブライアンにこうするように躾けられていた。


 まだ肌寒い季節の、未明の馬車ターミナルには本日出発するキャラバンの馬車が次々と到着している。


 そして、あちこちで白い呼気を立ち上らせながらの、商人同士の立ち話(ビジネストーク)が始まっていた。


 彼らの仕事は、まずそこから始まる事が大半なのだから。


「早いのう、坊主」


 振り向くと、ドワーフのバニッシュが茶色の丈夫な大蜥蜴の革とミード兎の薄ピンクの襟のついた外套を着込んで立っていた。


 朝はまだ肌寒い。

 俺は若いのもあるが、寒さには比較的強い方だ。


 農村じゃ早朝から仕事が山積みだ。

 この程度で寒いなんて言っていたら農民は食べていけない。


「出発前からこうする癖なんです。

 おはようございます」


「ええ心がけじゃ。

 伊達に新人で中級にはなっておらんのう」


「ありがとうございます」


「向こうへ着いたら外套を買った方がええな。

 マントは雨なんかには強いが、向こうは少し寒いから動きやすいタイプの外套がええのじゃ。

 どうせダンジョンに潜る気なんじゃろ?」


「はい、頑張らないと。

 こっちのダンジョンはしばらく出禁のようなので」


「はっはっは、若いもんは、それぐらいヤンチャでええ」


 いや、ヤンチャなのは、あのセンパ……。


「おはよう、二人とも。

 今マロウスとエラヴィスが馬車を回してくる」


 セラシアも種類不明の高級そうな毛皮の外套を着込んでいた。


 普段は細身のエルフが、もこっとした外套を着込んでいるので、なんとなく違和感があるが、まあすぐ見慣れるさ。


 ここから当分の間は彼女のパーティで御世話になって、ダンジョン以外の業務も勉強していくのだ。


「ああ、お前の分の外套を用意させておけばよかったな、すまない」


「いえ、まだ若いですし、農村ではもっと薄着でした」


「ああ、そうだな。

 お前はなんというか、少し知的な感じなので農村生まれだとは思えなくてな」


「そうですか?」


 ブライアンから、あれこれと「自分の頭で考えろ」と叩き込まれていたせいかもしれない。


 後は五人兄弟の長男だからかな。

 村の教会では、引率して連れていった妹弟達に学習室で本を読んでやったりしていた。


 他の子供達も一緒に聞いていたので、中には俺の事をリクル先生と呼ぶ年少の子もいたのだ。


 いつか土産に本でも買って、あの懐かしい教会へ行こう。

 他にも御土産をたくさん買って。


 俺が村を出る時に神父様は苦しい教会の財布の中から、いくらかの餞別をくださった。

 お蔭でラビワンへの道中は一度も飢えずに済んだのだ。


 家から持っていく食べ物だけだと、途中で行き倒れになる奴もいるのだ。

 皆、歩いて旅するからな。


「おっはよー」


 馬車の手綱を握ったエラヴィスが、もこもこに着込んだ姿でやってきた。


 このお姉ちゃん、なんか軽い。

 ダンジョンで治療をしていた時は、もっと神聖で重厚な感じがしたのに。


 そういや、この人はパーティで一人だけ人族なんだよな。


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