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1-34 新しい街へ

 先輩は協会長の事情聴取を嫌がったものか、ちょっと目を離した隙に煙のように消え失せていた。


「これだから上級冒険者、いや踏破者というものは!」


 協会長のダグラスは、些か寂しくなった元は金髪だったらしき殆ど白くなった頭を振った。

 一緒にいたライアンおじさんは笑っていたのだが。


 この二人は、眼鏡おじさんコンビだ。

 ライアンおじさんって、実は協会の偉い人だったのかな。


 今こんな場にいるし、あの法外な値段が付いちゃうはずの超高価な槍だって、たった金貨五枚の安値で決済できちゃう実力だし。


「なあリクル。

 踏破者、しかも彼のように何かに憑りつかれてしまったような特別な者を、他の冒険者と一緒にしてはいかんよ。

 君も決してそうならんようにね」


 ふ、協会長自ら釘を刺されてしまいましたね。

 まあ、そう言われても文句を言えないほど大暴れしてきた事は否定しないのですが。


「はあ、そういえば俺を助けてくれたセラシアさん達は、素晴らしい人達でしたね」


「ああ、さすがにあのクレジネスのような者は滅多にはおらんよ。

 さあ話を聞かせてもらおうか。

 あの魔核は一体何なのかね」


「あれ? 協会でもそれが何かわからないのですか」


「いやそうではないが。

 リクル、あれの正体はね。


 やろうと思えば、あれからダンジョンを丸々一つ作ってしまえるような危険な代物なのだよ。

 どこからあれを手に入れた?」


 俺は思わず目を瞠った。


 まさかと思うが、先輩が脅したダンジョンコアという物は、元は魔物のコア、魔核だったという事?


 これはダンジョンコアの子供のような物だったのか。

 俺はダンジョンから見たら子供(卵?)誘拐犯も同然なのかよ。


 こいつはマジで嫌われたかもしれんな。


「あれは先輩がダンジョンの管理魔物と呼んでいた魔物の中から出てきた物です。

 とんでもなく手強い奴で死ぬかと思いました。

 他の素材も全部そいつの物です。

 バラバラにし過ぎたので碌に残っていませんが」


「ふむ、それを彼が倒したのかね」


「いえ、先輩は毒を食らって途中で倒れましたので、最後はこの俺が戦って倒しました」


 この場にいない先輩に、すべておっかぶせて正直に言わない方がいいかとも思ったが、素材の代金がもらえなかったりしたら嫌なので。


 それに後でバレた時に懲罰があってもいけない。


 これは協会長からの正式な事情聴取なので、この場で嘘を言うと議会証言などで虚偽の証言をしたのと同じような酷い扱いになる。


 へたすると牢屋行きなのだ。

 このヤバそうな物体に関しては気を付けないと、そうなってもおかしくない。


 そのあたりはブライアンや新人研修を担当した協会職員から厳しく叩き込まれている。


 しばらく沈黙が続いたが、おじさん二人がしばらく顔を見合わせてから、協会長がこう言った。


「リクル。

 君は、しばらくラビワンのダンジョンに入らない方がいい」


「え、そんな。

 じゃあ生活はどうしたらいいんですか」


 それを聞いて、二人は爆笑した。

 え、こっちは笑い事じゃないんだがなあ。


「おいおい、お前さんが持ち帰った素材の値打ちがわからんのかね。

 あれだけで一生裕福に食べていけるくらいの稼ぎはあるよ。


 まあ仕事なら、街の外での依頼を受けるとか、他のダンジョンへ行くという手もある。

 悪い事は言わんから、当分ここのダンジョンには入らない事だ」


「お前には中級冒険者の資格をやろう。

 もう十分にそれだけの力があるのは証明した。


 あのクレジネスと遭遇し狙われただろうに、それが殺されずに仲良く地上に戻ってくるわ、中級パーティを十六まとめて単独で蹴散らすわ。

 しまいには、あのような凄まじい怪物まで仕留めてしまったのだから」


 ライアンおじさんと協会長から、そのような嬉しいお言葉を順にいただいた。


「本当ですか!」


 これは実は凄い事なのだ。

 普通は中級になるまで見習いを終えてから三年はかかるのだからな。


 最短でも冒険者になってから四年以上かかるのだ。

 俺は小躍りせんばかりに喜びを全身で表した。


「ああ、しばらく他の街で働くというのなら紹介状も書いてやろう。

 どうだ?」


 俺は考えた。

 それも楽しいかもしれない。


 どうせ、この街で俺は笑われ者なのだし、大勢の中級冒険者の恨みも買ってしまった。


 顔見知りも多くて名残惜しいから、またここへは戻ってきたいけど、しばらくほとぼりを冷ます意味合いで他の街に行くのもいいかもしれない。


 お金もあって中級冒険者資格もあるなら、それでも十分だろう。


 新しいダンジョンへの期待と、新たな出会いへの予感に俺の胸は大きく膨らんだ。


「わかりました。

 先輩、クレジネスが言ったみたいにダンジョンの恨みを買う形になっているのですね」


 協会長は、渋い感じの眼鏡を弄りながら肯定してくれた。


「ああ、そうだ。

 とりあえずの資金を渡したら、残りは協会で預かっておこう。


 お金は入用なら都市間決済の範囲で郵便為替にて送金も可能だから。

 あまり高額だと扱えないけれどね」


「是非、お願いします。

 もし、他の街に行くならどこがお勧めですか」


「それは仕事と物見遊山のどちらかな」


「両方を兼ねて」


 俺はまだ若いのだ。

 金も欲しいが、どうせなら観光できるとか、何かこのラビワンとは違う楽しみのある仕事場へ行ってみたい。


「それじゃあ、北のモンサラント・ダンジョンがいいかな。

 同じ国内なのだし。


 そこには聖なる山があり、そこに繋がるダンジョンがある。

 昔は魔法金属などを産出する鉱山だったものがダンジョン化したものでな。


 古い遺跡にも繋がっているから、内容的にはここよりも面白いものだよ」


「へえ、じゃあそっちへ行ってみます」


 なるほど、あの街か。


 聖なる街などと呼ばれているが、実際には曰く付きの中の曰く付き、俺のような田舎者でさえも知っている世界的に有名な街だな。


 こいつは面白い。


「ああ、これからは陽気がいい季節になるから、北の方は涼しくて過ごしやすい。

 いや羨ましいね」


「それと食い物も美味いし、北方の女の子も可愛いぞ。

 お金もたくさんあるのだし、ついでにお嫁さんでも探してきちゃあどうだ」


「いやー、結婚なんてまだまだっすよ。

 俺なんか半人前もいいところですから。

 でも北のダンジョンか、楽しみだなあ」


「ダンジョンで魔法武具を手に入れられる事もあるし、そこで稼いだお金で魔法金属の武器防具を作ってくる者もおる。


 向こうに出かける予定のパーティがいるのなら、一緒に連れていってもらえるように話してやろう」


「お願いしまーす」


 こうして俺は北のダンジョンの街でバカンス? と洒落込む事にした。


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