1-31 ひどい結末
「なあ、先輩」
「なんだ」
なんと彼はもう起き上がって座っていた。
顔色はまだ蒼白だが、俺が六倍のブーストを引き当てた時に彼にもその恩恵を分配しておいたので、俺が戦っていた十分間は『回復力六倍』という信じがたい恩恵を受けていたのだ。
だが常人なら起き上がるどころか、とっくにくたばってしまっている事だろう。
これが上級冒険者、そして踏破者の力。
気持ちいいくらいの強敵と戦い抜いたのだから、彼も今のところ、あの狂気は収まっているはずだ。
少なくとも、今だけはそう信じたい。
というわけで、次に俺は欲で先輩を懐柔にかかった。
「あの獲物の分配はどうするの?」
「そうだな。
俺は強者と戦った記念に、そいつの牙を一本もらおう。。
後は全部お前にやる。
本当はそいつの魔核が必要だったのだが、もういい。
どうせ、ここの冒険者協会に引き渡すのだろう」
「え、なんで?
あいつとは殆ど先輩が戦っていたのに」
「今更、そういう物はいらんよ。
金ならもう腐るほどある。
ああ、今日は本当に素晴らしい一日だった。
なんて幸せな気分なんだろう」
なんか、とんでもない事を言っている狂人がいる!
ついさっきまで死にかけていたくせに、俺が目を疑うほど幸福感に満ちた、その満足そうな笑顔はなんだ。
先輩、やっぱりあんた絶対にありえねえ人だよ。
よく見ると、少し恍惚感に浸っている感じがする。
こいつはまたちょっとヤバイかもしれない。
「あの最後の戦いの時のお前は素晴らしかったなあ。
実に美味しそうだった」
あ、やっぱりね。
次の獲物はもう俺に決定なんだな。
美味しそうって、あんた……。
「さっきのスキルはあんたからの借り物だよ。
今はもうそいつは俺には使えないし。
それに念のために言っておくけれど、あそこまでのブーストなんてめったに決まらないからね。
お互い幸運に助けられて命拾いしたようなもんさ」
「そうか、でも素でも結構いけるだろう。
わかるぞ。
お前、さっきのあの戦いの中でまた強くなったな」
「うわあ、そんな事までわかるのか。
もしかして、エルフみたいに俺のスキルが見えるの」
「そうではないが、お前のスキルは戦えば戦うほど強くなるというものなのだろう。
だから、あの数字が増えていく」
「ああ、そうさ。
だから俺の事は今食わないようにして後に取っておかないと、あんたの嗜好から言ったら絶対に損だぜ」
俺は今、一気にバージョン6.8になっていた。
あいつがいかに恐ろしい奴だったのか数値でよくわかる。
【レバレッジ頑張って6.0】
初めてマシそうな称号みたいなのが付いたな。
基本機能は【すべてのダメージ半分】だ。
こいつにもレバレッジはかかるので凄い力になるのか。
今ならダメージ減少力というか防御も六倍のレバレッジと合わせて、都合ダメージ十二分の一ってところか。
ブーストをかければ、更にこれも強化されるわけだ。
こいつはありがたい。
今度あんな奴とやったら、いやいやそれ以前に、この目の前にいるクレージーな先輩に襲撃されたらな。
この先輩、俺を見かけたら挨拶代わりに笑顔で突然襲撃してきかねない。
俺の成長具合が気になって仕方がないだろうからな。
またえらい人に目を付けられてしまったものだ。
本当なら助けなけりゃあよかったのだが、それはさすがに人としてなあ。
途中までは殆ど彼が魔物と戦ってくれていたのだし。
お蔭で弱点の部位もわかり、スキルのバージョンも上がったから、かろうじて新人の俺が勝てたのだ。
俺は先輩からパクったスキルで止めを刺しただけなのだ。
そろそろ攻撃の派生スキルも欲しい気がしてきた。
いや防御の方がいいのだろうか。
この先輩がいなかったら、そんなつまらない事を考える必要はねえんだが。
でも、あの先輩のスキルはすげえよな。
大概の魔物がイチコロじゃないのか。
だから、踏破者になれたのだろう。
この街はやはりスキルが命なのだ。
先輩も普段は素手にスキルを纏わせているのだろう。
あの戦いぶりからしたら、たぶんクールタイムとかもないはず。
だがここは初心貫徹で特殊技能を入手した。
もう俺だけのオリジナル・スキルで頑張るぜ。
派生スキルは【祈りの力×Ⅹ】というものだ。
これは人の祈る力、誰かを、あるいは神への想う力を強くする。
うーん、これまた微妙な物が出てしまったな。
即戦力のスーパースキルが欲しいのですが。
あの【神々の祝福】は敵の力を弱めるスキルなのだろうか。
特に説明が付属していないようなので、おそらく汎用性が高いタイプのスキルなのだろう。
あの時は、あのダンジョン管理魔物の持つ特殊な力や防御を無効化してくれたのだ。
次はどんな効果があるのか、あれこれ検証しておいた方がいいかもしれない。
俺が手にするスキルは結構有用なのだが、微妙な効果のスキルが多いな。




