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1-24 狂気と凶器と強気の同居人

「なあ、上級冒険者さんよ」


 俺はゆっくりと振り向いて、じりじりと後ろに下がって間合いを取りながら、その狂喜(ものぐるい)を名乗るお方に訊いてみた。


「なんだい」


 彼はそれを特に咎めようともせずに訊いた。


 くっ、イカれた野郎だな。

 このダンジョンで碌な装備も武器も何もなく無手なのか。

 簡単な鎧さえ着込むわけでもない。


 まあ俺だって新人冒険者の標準装備である革の服と胸当て程度だったんだが。


 襲撃してきた中級冒険者の先輩方のお蔭で、かなり装備は強化できたけど。


 重装の兵士でもなんでもない冒険者とはいえ、防具は大事なものだ。


 だが、こいつは!


 なんというか、こいつの基本装備は布の服だ。


 何か防御の付与はあるのかもしれないが、それがただの服じゃない。

 こいつは派手なんてもんじゃないぞ。


 光沢のある、紫と白の大きめの菱形模様のチェックが入ったシャツに、これまた光沢のある鮮やかなやや明るめのブルーの上着。


 上着の袖は先から肘までの真ん中あたりまでが黒、そしてその黒袖とブルー地との間に細めの金の輪でアクセントが配置されている。


 その黒地の部分に金のカフスをして、上着は太目の黒ベルトにシンプルな角形っぽい感じの金バックルで胸下を締めている。


 上着の襟は大きく折り返し、その裏地は黒に金縁のアクセント、下の裾は表地の縁に太目な白黒チェッカーの帯をあしらってある。


 そして上着よりも光沢のある感じの、目を引く紫と黒のツートンストライプのゆったりズボン、足元は右が白黒チェッカーで左が白黒ストライプの、ズボン下に収めるタイプのショートブーツ。


 おまけに頭には少しぶかっとした感じの御洒落系の黒いシルクハットで、ワンポイントのワッペンが張られている。


 鍔から三分の一くらいまでの高さを占めている、ズボンとお揃いの光沢系のピンク色に近い紫と黒で織りなす斜めストライプが目を引く。


 何かこう拘りみたいな物を感じるような、洒落たというかイカレたというか、まるで【狂気の道化師】とでも表現したくなるような、そういう異常なファッションだ。


 いくら腕利きだといえども、ダンジョンに潜るにはあまりにも相応しくない格好なのは言うまでもない。


 思わずクレジネス・クラウンという二つ名のような仇名を付けてやりたいような異常者だった。


 それでいて、ステッキ一本すら手に持っていやしない。

 だからこそ覚える異様なほどの違和感。


 このダンジョンなる場所にて、敢えてその格好をしている無手の上級冒険者。


 格好が派手なのは、『一目で自分と見分けてもらうため』なのだろう。


 警告色ならぬ警告スタイルだ。

 弱者は俺を見かけただけで失せろってか。


 まさか人間を狩るためだけにダンジョンにいるのではなかろうな。


 顔はなかなか精悍な感じで、しかも各パーツやその配置が整っており、見かけだけは十分に色男であると言える。


 髪は金髪で、帽子からはみ出した部分から見ても短髪ではなさそうだ。


 そして一番気になるのは、その群青色の一見知的に見えない事もない眼だ。


 静かで、特に威嚇するわけでもなく、鋭く敵意を放っているわけでもない。


 だが少し普通の人間とは違う何かを感じる、見ていると自然に不安になってくるような、なんというか他者に対する嗤いのような物を含んでいるような。


 そして、その眼が嗤う時に発する狂気の光。

 いや目だけではなく、そういう心の発露が表情全般に現れているな。


 それは強者が弱者をいたぶる時のような物にも似ているが、こいつが求めるものは、おそらく弱者ではなくて。


 なんて奴だ。


 こんなミスリルの槍一本持ったくらいじゃ、少々バージョンをアップしたくらいでは、まったく勝てる気がしねえ。


 このダンジョンにこんな危険な奴が生息していたなんて!


 ならば、この場をなんとかして切り抜けるしかない。


 どうやって?

 そんな物は決まっている。


 こいつの興味を引いて、というか『俺はあんたに殺されないだけの価値がある男』なのだと、こいつにはっきりと示すしかない。


 でないと、この手のバトルジャンキーは興味を失った対象を、いきなりシリアルキラーのように躊躇いなく殺す傾向が強いのだ。


 いや座学は真剣にやっておくもんだね。

 なんて事を協会の座学でやるんだと思っていたのだが、今は見事に役に立ってしまっている。


「なあ、あんたのスキルは?」


 だが彼は何故か非常に驚いた顔をしてみせた。


「なんで、そんなに驚くんだい。

 そんな物は協会が公開しているから、他の連中は知っているんだろう?


 あんたが知っていて俺だけあんたのスキルを知らないのは不公平じゃないか。

 ハンデをくれよ、先輩」


 だが、彼は笑って目の前で人差し指をちっちっと振ってみせた。


 そして狂気の瞳に悪戯小僧の光を混ぜた。


「俺のスキルは非公開なの。

 すんごいレアスキルなんだってさ」


「あ、そう。

 いいなあ、先輩は特別扱いのエリートなんだね」


 くそ、もしかして、それでこのイカレジャンキーが野放しになっているのか?


 さっきの中級冒険者の追い剥ぎ連中の方が、欲の皮を突っ張らせていた分だけ、わかりやすくてまだマシだったぜ。


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