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1-13 派生スキル【運命のサイコロ】

「六来い、六来い~‼」


 祈るように放ったスキルの、サイコロの目は見事に六!

 それが頭の中で表示された。


「よっしゃああー」


 俺はこのどたんばで拾い上げた命の快挙に、思わず大棍棒を振り上げて叫んでしまった。


 隣で戦っていた二人が何事かと驚き、俺が出した大声に警戒したオーク達も少し下がった。


 おっと。

 でも一瞬だけど、少しは時間が稼げたかな。


 頭の中でサイコロがくるくると回っていて、六つある目が上に出て止まったのが見えたのだ。


 スキルがこのように頭の中で表示されるなんて面白いもんだ。

 この切迫した事態の中でも思わずそう思ってしまうような奇妙な体験だった。


 そして……なんと何も起きなかった。

 相変わらず、オークの海が押し寄せてきてしまっている。


 俺は生き残るために夢中で奴らを殴りつけまくっていた。


「なんじゃ、こりゃあ。

 くそー、もったいつけやがって、何が特殊技能だあ。

 こんな事なら素直に攻撃を上げておくんだった~」


 俺は必死で戦った。

 お蔭で、なんとか周囲にオークの(かばね)を積み上げていく。


 後方にいる二人は倒すどころか、攻撃をかろうじて凌ぐだけでも手いっぱいのようだった。

 傷もどんどんと増えていく。


 俺がいるのでなかったら、二人とも仲間と共に、もう血泥の海に沈んでいる頃だろうよ。


 とにかく俺一人ではまったく間に合わない敵の数なので、俺が真ん中に位置して素早く右に左に大棍棒を繰り出し、一撃を加えて相手が倒れたところを隣にいる二人に止めを刺させた。


 前からも横からも押し寄せてくるので、俺は縦横無尽に動き回った。


 スキルで底上げされているのでなければ、もうとっくに体力切れで魔物の波に押し潰されているだろう。


 怪我人二人は背後の灌木の前に置いておき、オークの死体で自然に俺達の周囲に半円形のバリケードが築かれていく。


 くそ、このままでは直に俺達の墓場となる肉饅頭の出来上がりだ。

 こいつはうまくない。


 こんな狭い場所で、剛力の持ち主であり、また圧倒的なまでに数において勝る連中と、掴み合いの肉弾戦にでもなったら最後だ。


 身動きの出来ない狭い場所で、飛び込んできたオークの強力な腕で捕らえられ、体のあちこちを食い千切られ、剛腕で引き千切られて肉饅頭の具に成り果て、そこで俺達の人生は完全にお終いだ。


 そんな場所じゃ大棍棒だって剣だって振るえやしない。


 俺は自分が倒した敵で作った障害のために足場が狭まったせいで、段々と動きがとれなくなり、ほぼ万事窮すといった状態になった。


 他の二人はもう恐怖に負けて蹲ってしまった。


 そして、ついに俺は狭い場所で半ばバリケードを乗り越えてきている複数のオークの腕に捕らえられてしまった。


 他の二人も同様の有様で、もはや悲鳴さえも出せていないようだった。


「どちくしょーう。誰か助けてくれえ」


「ふふ、呼んだか?」

「え!」


 俺は間抜けにもオークに取り押さえられた格好で、きょろきょろして周りを見回したら、すぐ隣に立つ凄まじい美人の御尊顔を発見してドギマギした。


 一体いつのまに⁉

 金髪翆眼、そのまるで人形のような目鼻立ち。


 こ、これは……もしかして噂に聞くエルフ?


 その希少さから、この街にもあまりいないものらしく、俺も初めて見たのだが、こいつは噂以上の超美形だ。


 北の方にある特別な街にはそれなりの数がいるらしいとは聞くが。


 パッと見に華奢とも言えるような細い腰だが、彼らは普通の人間ではないため、その肉体は強靭で相当の力を秘めているという。


 そして彼女は目にも止まらぬような手刀を繰り出して、俺は自由を取り戻していた。

 

 大量の血塗れのオークの手を体中にアクセサリーとして装備した、実に奇怪な人間オブジェと化して。


 何か声を上げようと思ったのだが、何も意味をなさないような声を出してしまいそうで途中で止めた。


 彼女は何かを放っていた。

 目に見えない近接の魔法のような物を。


 彼女が見えないそれを振るう度にオークが次々と倒れていった。

 魔法の鞭のような物なのだろうか。


 凄い。

 さっきは素手で、いや素手に見えるだけの何かの魔法で苦も無くオーク達を切り裂いていたし。


 俺が必死で築き上げた、俺の腰ほどもあるオークの肉壁の向こう側から、髭面のドワーフらしき逞しいおっさんが、体に似合わぬでかいハンマーを肩に担いで俺を見上げていた。


 この人はいつからいたんだ。

 来てくれていた事にまったく気が付かなかった。


 その向こうには彼に打倒されたらしき、(おびただ)しい数のオークが倒れ伏していた。


 背丈だけなら少し大きな子供並みの小柄な体に、人外の凄まじい膂力を秘めているようだ。

 さすがは人族じゃないだけの事はあるな。


 武器の整備を頼みにいった時にしか、俺は連中の姿を拝んだ事が無い。


「おーい、セラシア。

 こいつら、全滅させておいていいのかのう」


「適当でいいぞ、バニッシュ。

 一時的にとはいえ、ここら辺りで討伐している初級冒険者の獲物が無くなってしまうではないか。

 適度に片付けたら追い散らしておいてくれ」


「ほいよー」


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