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09 私はダイエットをするらしい

 私の恋を手伝いたいと言うヴァレリア様の申し出を承諾したため、彼女はその日のうちに動き始めたらしい。


 おかげで次の日、モンヴール家は朝から慌ただしかった。


「これはどういう事だ?」


 兄が困惑しながら両手で持ち上げているのは、うちの料理長宛に送られてきた大きな封筒。

 いったい何十枚の手紙が入っているのかと思うほどの分厚さ。しかも送り主の封蝋が王女様のものとくれば驚かないわけがない。


「なぜヴァレリア様からうちの料理長に手紙が?」


 すぐに応接室へ料理長を呼んで、中身を急いで確認してもらったところ、それは料理の献立表とレシピだった。


「今日からライラ様のお食事はこの通りにと書かれておりますな」

「あ……」

「ライラ、おまえはヴァレリア様がこんなものを送ってきた理由を知っているようだな」

「それは、私のためを思ってご用意してくれたんだと思うの……たぶんダイエットのお手伝い?」


 昨日の今日で? これだけのものを私のために作成したの? ヴァレリア様はどれだけやる気になってるの?  


「どうしたらよろしいのでしょうか? 書簡には『おやつや甘いものはいっさい与えるな』とも記されておりますが」


「そんなあ」


 まさか食べ物を制限されてしまうの? 私の一番の楽しみなのに。泣いてもいい?


「とにかく私は王宮に行って、詳しい話を聞いてくる。とりあえず料理長には悪いが、一応ヴァレリア様のいう通りにしておいてくれ。王女様直々のお達しだから無視するわけにもいかないだろう」


 モンヴール家に山のように送り付けられてきた書類は、すべてダイエット食についてのものだった。

 このままだと私の食事は、王女の命令によりすべて管理されたものとなってしまう。


「ライラ、すぐに用意をしろ。一緒にヴァレリア様に会いに行くぞ」

「はい。お兄様」


 兄のこの素早い行動。私はそれほど情けない顔をしていたんだろうか。



 王宮には向かったものの事前に面会の予約も入れていないのだから、すぐにヴァレリア様と会うことができるわけはない。

 ヴァレリア様の時間があくまで兄と一緒に王宮内にある庭園を散歩しながら待つことにしたけど、同じように庭園内を歩いているご令嬢たちとすれ違うたび、私たち二人は交互に見られ、その視線がとても痛かった。


「相変わらずお兄様はおもてになるのね」

「まさか。私のような冷たい男を好きだという物好きは、ヒルダくらいしかいないさ」

「そんなことないと思うけど。それでも好きな人から好かれているのが一番幸せだもの。いいわねお兄様は」

「ライラもそうだろう」


 兄は家族と一緒にいる時のオーランド様しか知らないから。


「ええ……」


 返事をした私に優しく微笑む兄。

 確かに兄が私と婚約者のヒルダ様以外に微笑んでいる姿は見たことがない。


 兄は見た目や家柄で騒がれることを私と同じくらい嫌っているからだ。見た目については意味が真逆だけど……。



 もうすぐ正午にさしかかろうとしたころヴァレリア様の時間がとれたようで侍女が私たちを呼びに来た。


 午後も時間が詰まっているので、ヴァレリア様の意向により、昼食をとりながらの面談になるようだ。


 その後、用意された私の席だけに、野菜中心の料理が運ばれてくる。それでも、とても美味しいから、さすがは王族の食事といったところなんだけど。


「あんな素晴らしい献立表をお送りいただき、ありがとうございました。昨日の今日でしたのに大変ではありませんでしたか」

「いいえ、あれは数年前にわたくしのために王宮の料理番が作ったものですのよ。ちょうどライラに使えそうだったのでお送りしましたの。ですから感謝されることほどのことはしておりませんわ」

「そうだったんですか」


 スタイルのいいヴァレリア様にとってはダイエットなんて必要ないと思うけど、美しい人は美しくあるために努力を欠かさないというから、そういった物も用意してあるのだろう。


「それで、お二人おそろいで、わざわざそのお礼にいらっしゃったということかしら?」

「いえ、ヴァレリア王女殿下に確認したいことがありまして、お送りいただいたあれらは命令と受け取るべきでしょうか。ライラに甘いもの抜きはかわいそうです」

「ちょっとお兄様」


『おやつや甘いものはいっさい与えるな』を聞いたときは私も気を失うかと思うくらいショックだったけど。そのことで、ヴァレリア様にわざわざ苦情を言いにくるなんて、とても不敬なことだと今頃になって気がついた。


「あら、子供でもあるまいし、甘いものくらい我慢できますわよね? マイルズ様は本当にライラには甘いのですね」


 ヴァレリア様のご厚意に兄がたてつくようなことを言うから、優しいヴァレリア様の語尾がちょっときつめな感じに聞こえる。

 わがままだと思われるようなことを言いにきたから怒らせてしまったのかも。


 それは甘いと甘いを掛けているんですね、なんておちゃらけたりもできない雰囲気だ。もし、言える雰囲気だったとしても私は口に出せないけど。


「マイルズ様はいい加減、妹ばなれした方がよろしくってよ。お兄様もそうおっしゃっていましたわ」

「なんですと」

「ごめんなさい、それは私の方が兄ばなれできていないから放っておけないんだと思います。兄が失礼なことを言って申し訳ありません」


「ライラはいいのよ。マイルズ様、ライラがダイエットを頑張ると言っているのですから、兄である貴方が邪魔するのはどうかと思いますわ。ライラは婚約をしたのですもの。女性は好きな方に一番美しい自分を見てもらいたいと思うものですわよ」

「それは……」


 あれ? 私、ダイエットを頑張るなんて言ったっけ? 言ってなくてもオーランド様に好かれるためには、やっぱり見た目からってことなのか。


 食事のあとのデザートは私に合わせて今日はヴァレリア様も断ったらしい。

 突然押しかけたせいで食事の楽しみを奪って申し訳ない。


「とにかく、ライラのことはわたくしに任せていただきたいわ。こういう事は男性ではわからないでしょうから」


 兄はヴァレリア様に対してもいつものように冷たい表情のままだ。


「お兄様」

「なんだライラ」

「私、ヴァレリア様にこのままお願いしようと思うの。一人では絶対に無理だもの」


「ライラがそれでいいというなら、ここで私が文句をつけるのは無粋だろう」

「では、話が決まりましたわね。ちょうどよかったわ。これからわたくし、ダンスの練習時間なの。ライラをお借りしますわ」


「え!?」


「ライラが驚いてどうしますの。ダイエットは食事と運動ですわ。さあ、行きますわよ」


 私はヴァレリア様に腕を掴まれた。このままレッスン室へと連れて行かれるようだ。


 そんなヴァレリア様に氷のような眼差しを向ける兄。


「私は大丈夫だから、お兄さまは先に帰ってください」


 私のためにこれ以上兄に敬意を欠いた態度をとらせるわけにはいかない。そう思って兄に声を掛けたら、あれほど冷たかった兄の表情が、悲しそうなものに変化してしまった。

 私のことをそこまで思ってくれているのに、ヴァレリア様の気持ちも無にはできない。本当にごめんなさい。


 だけど、どうしてこんなことに?

 私はオーランド様が喜ばれることを知りたかっただけなんだけど?


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