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08 思い出作りのはずが

「ねえライラ。午後からヴァレリア様がいらっしゃる予定なの。お話ししてみる気はない」

「ヴァレリア様って第一王女様ですか? 私なんて恐れ多くて」

「お優しい方だから身構える必要はないし、心配いらないわよ。それに、ライラと同じようにご自分の境遇に悩まれていらっしゃるから、話が合うかもしれないもの。この機会にお会いしてみたら」

「そうですか。ペトラお姉様がそうおっしゃるなら」


 ヴァレリア王女様はザックス様の姪にあたる。結婚前からペトラお姉様とも交流があったので、公爵家にはよく遊びに来るそうだ。

 ペトラお姉様は優しくて面倒見がいいので、王女様も頼りにしているんだと思う。


 午前中に帰る予定だったけど、公爵家で昼食をペトラお姉様といただいてから、やって来たヴァレリア様に私は紹介してもらうことになった。


「わたくしの従妹にあたるモンヴール伯爵家のライラです。年齢も近いしお話が合うのではないかしら」

「モンヴール伯爵家の長女ライラと申します。よろしくお願いいたします王女殿下」

「マイルズ様の妹さんですわよね。わたくしも貴女とお話してみたかったの。わたくしのことはヴァレリアでいいわよ」

「はい。こんな機会をいただけてとても光栄です」 


 ヴァレリア様は私より一歳年上だけど、のんびりとした口調といい、その儚げなお姿の通り、柔らかな空気をまとっている方だ。


 私が同席してもいいか事前に確認していたおかげか、はじめから和やかな雰囲気でよかった。兄のマイルズが王太子殿下と交流があるので、ヴァレリア様とも顔見知りらしい。


 初めの二時間ほどはペトラお姉様を中心に三人で世間話をしていた。



「ねえ、ペトラ様。わたくしライラに聞きたいことがあるの。二人きりにしてもらっていいかしら」

「私にですか?」

「ヴァレリア様、この娘は人見知りが激しいので……ライラ大丈夫?」


 これまでの間、私がふられた話にうまく応えられなくても、ヴァレリア様はずっと優しく耳を傾けてくれた。緊張はすると思うけど、話を私から提供するのではなく、ヴァレリア様の知りたいことに答えるだけなら大丈夫だと思う。


「はい」

「それでは、わたくしは席を外しますわね。何かあったら呼んでくださいね」

「わかりました」



 ペトラお姉様が退室したあと、部屋の中に沈黙が流れた。私から話を促すことができなくて、とりあえずカップは空になりかけていたけど、手持無沙汰で紅茶をゆっくりと飲むふりをしていた。


「あの」


 五分ほどたったころ、ヴァレリア様が私に問いかける。


「はい、なんでしょうか?」

「とても不躾だと思うのだけど、あなたの噂話のこと聞いてもよろしくって?」

「噂話……あ、ヴァレリア様のご生誕祭の日のことでしょうか? あの時は騒ぎを起こしてしまって大変申し訳ございません」

「それは全然いいの。それより、兄からその時の話を聞いてとても気になっていたものだから」

「王太子殿下にですか?」


 そう言えば兄が庭園に王太子殿下がいたようなことを言っていた気がする。


「ライラは貴女の危機を救ってくださった方とご婚約されたのでしょう?」

「はい、そうです」


 ヴァレリア様が言っている危機が、暴漢に私が襲われたことなのか、令嬢たちにはめられそうになったことなのかはわからないけど、王太子殿下から聞いているなら尾ひれのついた噂話ではなくほぼ真実を知っているはず。


「まるで、物語のようね。それで仲睦まじいなんて羨ましいわ」


 ヴァレリア様の頬にうっすら赤みがさす。この様子だと、お姫様が騎士に救い出されるような素敵な物語を想像しているのだと思うけど、私の場合、自分のせいでドレスが破れるなんて失態をおかしているので、そんな憧れの眼差しを送られても、ただ恥ずかしいだけだ。


「ご想像とは違って婚約者になったオーランド様とは羨ましがられるほどの仲ではありません。どうしたらオーランド様に喜んでいただけるのかわからなくて、今日もペトラお姉様に相談していたくらいですから」

「そうなの?」

「はい。男性はどうしたら楽しいと思ってくださるのでしょうか。婚約者としては優しくしてくださいますが、私と一緒にいても楽しそうには感じないので」

「それはライラと二人でいる時ってことかしら。だとしたら、ライラに会いたいと思ってもらえることが一番いいのではなくて? 好きな人と一緒なら何でも楽しく感じるわよね」

「そうだと思いますが、私を好きになってもらうなんてとても」


 自信なく視線を下に向けた私。するとヴァレリア様がソファーからいきなり立ち上がった。


「きっとライラは自己評価が低すぎるのだわ。それに好きな人に、好きになってもらう努力はした方がいいと思うの。それの努力って案外楽しいと思うのだけど?」

「そうでしょうか?」

「ええ、わたくしにも覚えがあるもの間違いないわ」

「ヴァレリア様も?」

「ねえ、これから、わたくしにライラの恋のお手伝いをさせてもらえないかしら」


 すごく楽しそうなヴァレリア様。

 これを断るなんて私にはできそうもない。


 ヴァレリア様にちゃんと伝えていなかったのがいけなかったんだけど、オーランド様との思い出作りが、いつの間にか私のことを好きになってもらう話に変わってしまった。


 やる気満々のヴァレリア様。これから、どうなってしまうんだろう。


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