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07 相談

「持っているドレスが入らなくならなったらさすがに困るかしら。それこそオーランド様と一緒にいる時に破れたりしたら目も当てられないものね。お母さまの言う通り自重も必要かもしれないわ」


 オーランド様の優しさが偽りだとしても、もうそれは構わない。楽しかったことだけ切り取って、私の胸の奥に大事にしまって宝物にするだけから。


「そうと決まれば善は急げね。オーランド様の予定を聞いて、計画を立てないと」


 しかし、いずれ伯爵となるオーランド様はとても忙しい。

 マヌエット伯爵家はもともと豪商で、落ちぶれてしまった貴族家を取り込みながら拡大していき、男爵、子爵と家名を変えながら、恐るべき早さで爵位を上げた家だ。

 そして、オーランド様の祖父の時代にお取り潰しになった伯爵家の後釜に据えられたほど勢いがあった。


 新興の伯爵家とはいえ、財力と派閥に与する貴族家を多く持っているから、発言力もある。


 オーランド様が言った爵位を金で買った家という話は間違いではないが、マヌエット家を妬んだ者たちが貶めるために蔑称で言っていることだと兄が教えてくれた。


 そんなマヌエット家の経営と貴族との交流を、次期伯爵のオーランド様がないがしろにするわけもなく、大きな夜会や舞踏会以外はなかなか会う機会がない。


 だから普段私たちはお互いに詩を送りあっている。

 でもそれは、もちろん恋文などではなく『大輪の花が咲いた』とか『鳥の雛が巣立ちした』など、季節に関したものが多く、このやりとりもオーランド様に負担をかけているような気がしていた。


 それでも、誕生日まではオーランド様に私のわがままに付き合ってもらおう。その代わり誕生日のプレゼントはオーランド様が喜ぶものを用意するつもりだ。


 私と会ってもらえる日を確認するため手紙を書くと、その返事を持ってわざわざオーランド様が訪ねてきてくれた。


「空いている時間はすべてライラのために使うよ。どこか行きたいところがあったら遠慮せずに言って」

「ありがとうございます。普通の婚約者同士が行くような場所に行きたいんですが、お友達もいないからよくわからなくて」

「だったら、僕が調べておくよ」

「お願いします。できれば、私は人が多いところが嬉しいです」

「そうなんだ。わかった」


 予定外にオーランド様と会えた。

 しかも、今日は家族が一緒にいなかったのに、彼は嬉しそうに笑っていた。

 それなのに、私が面白いことや興味を引くことを言えないから、その日もあっさり用事だけ済ませてオーランド様は帰ってしまい、引き留めることもできなかった自分の意気地なさを悔やむ。


「どんなことを話したら男性に喜ばれるのかしら」


 どうせ思い出をつくるなら、オーランド様にも楽しんでほしいんだけど。


 悩んだ末、私は従姉のペトラお姉様を訪ねることにした。


 ペトラお姉様は元公爵令嬢で、王弟である公爵のザックス様に嫁がれていた。お二人の年齢は十五歳も離れていて、婚約が決まったころはペトラお姉様も悩んでいたと聞いている。だけど今は周りがあてられるほど仲睦まじいらしいから、いいアドバイスをもらえると思う。


「ライラが会いに来てくれてとても嬉しいわ」

「私もペトラお姉様と久しぶりにお会いできて嬉しいです」


 七歳年上のペトラお姉様は、人見知りが激しい私を気遣っていつも一緒にいてくれた。夜会やお茶会もお姉様の出席と合わせていたので、同年代の友達がいなくても寂しい思いをしたことがない。


「男性が楽しいと思うこと? ザックス様はお芝居をご覧になるのがお好きだから、わたくしたちは劇場によく行くのだけれど。あとはわたくしとダンスをするのも楽しいそうよ。それとお酒かしら」

「お芝居にダンス、それにお酒ですか」


 お芝居は二人っきりになるからだめだし、ダンスはなんとか踊れるって程度だから自分からは誘いづらいので無理。お酒は夜会でもオーランド様が飲んでるところを見たことがない。


「希少酒をプレゼントしたり、たまにザックス様のためにおつまみを作ったりしているわ」

「ペトラお姉様がおつまみを?」

「料理長に習ってなのだけど、作ると言ってもチーズなんかをクラッカーに乗せたり、ナッツにひと手間加えたりする程度なのよ」


 私は食べる専門だから、料理を作るなんて考えたこともなかった。


「ペトラお姉様が作ったものが食べられるなんて公爵様が羨ましいです。でも、それはご夫婦だから可能なことなんですよね。オーランド様は何を喜ばれるのか私には想像もつきません」

「それなら、聞いてみたらいいのよ。わたくしも今のライラと同じよ。ザックス様のことが知りたくてたくさん質問したわ。あの頃は大人の男性が何を考えているのかなんて、まったくわからなかったんだもの」

「ペトラお姉様もそうだったんですね。だったら私もオーランド様に好きなものとか聞いてみます」


 ペトラお姉様に相談したおかげで、私から話しかける勇気がでそうだ。


「初めて恋をしたころは、わたくしもそんな感じだったかもしれないけど、本当はライラと年が近いご令嬢のほうが最近の流行りを知っていると思うのよ」

「でも……男性のことで私に頼れるのはペトラお姉様しかいませんから……」

「ライラにこういう相談をするお友達ができなかったのも、わたくしが過保護すぎたせいね」

「そんなことありません。ペトラお姉様が一緒にいてくれたおかげで私はずっと楽しかったんですから。それに友達ができないのは自分から話しかけることができない私の性格のせいです」


 ご令嬢たちとは、お茶会で少し話すことがあっても、そのあとの交流が始まらない。

 それは自信がなくて私が殻に閉じこもっているからだ。子供のころ、容姿のことを集団で囲まれて悪く言われてから、令嬢が数人でいるのを見ると緊張してしまう。


 話しかけられても、みんなに喜んでもらえるような話も返せないし。自信を持ちたいと思っても、頑張りすぎるとストレスで過食になるので、悪循環のため、私はいっこうに痩せることができないでいた。


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