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06 あなたのために

「ライラ様?」


「オーランド様がお嫌でなければ、今日みたいなことを避けるためにも、私の方からお願いしたいくらいですもの」


「避けるとは?」


「たぶん、私が婚約者を選ばないことで、中途半端な状態にしていたから、保留にされた相手とその方を慕っているご令嬢、そしてそれに付け込もうとした人からこんな仕打ちを受けてしまったと思うんです」


「それはライラ様が悪いわけではありませんよ」


「オーランド様は庇ってくださいますが、そうとも言い切れません。だから、結婚相手が私で申し訳ありませんが、個人としてではなくモンヴール家の娘として考えてもらえませんか」


 モンヴール家との縁組でオーランド様に箔がつくなら、それは悪い話ではないはず。


「そんな申し訳ないなんて言わないでください、僕はライラ様を妻として迎えられるなら、これ以上の喜びはありませんよ」


 その相手が私であっても、どうやら許容できる範疇らしい。

 家族の手前オーランド様が自分の本心を馬鹿正直に話すはずもなく、社交辞令としては大げさすぎるけど、ありがたく受け取っておくことにする。


「オーランド殿は謙遜しているが、新興とはいえ、マヌエット家の経営方法はうちも見習いたいくらいだからな。ライラを嫁に出すとしても申し分ない。二人がそれでいいと言うなら私は賛成だ。どうでしょう、父上」

「そうだな。オーランド君は誠実そうだし、なによりライラが乗り気なら、それでいいのではないか」


 本当にオーランド様と婚約ができるの?


「ちょっとお待ちになって。オーランドさんには申し訳ありませんけど、先ほど言ったように誰であろうと調査はさせていただきたいわ」

「お母さま……」

「あとでライラが泣くようなことがあったら、わたくしは嫌なのよ」


 婚約者候補からひどい目に合ったばかりだから、二度と同じ目には合わせたくないという母の気持ちはありがたい。


「それはご存分に。僕に隠すようなことは何ひとつありませんから、何を調べられても問題ありません。十分確認していただき、結婚相手として合格点をいただいてからの方が、こちらも胸を張ってライラさんを迎えられます」

「では、念のため確認をさせてもらって、問題がなければ正式に婚約ということでよろしいか?」


「はい。お願いします」

「はい。お父様」


 あとでお母さまから、今回の事件が『実はオーランドさんが仕組んでいたということも考えられる』といわれた時はハッとさせられたけど、それがないとは言い切れないのが貴族。

 だから、兄がすべての伝手を使ってオーランド様のことは調べ上げたらしい。


「マヌエット家の商売はやり方に少々強引なところもあったが、それは問題になるほどのことでもない。ライラが嫁いだとして不幸になることはないだろう」


 そうして、私は事件の日まで一度も話したこともなかったオーランド様と、とんとん拍子で婚約することになった。巻き込んでしまったせいで、私と婚約しなければならなくなったオーランド様には申し訳ないけど、私は彼と結婚できるなら嬉しい。


 出会ったばかりだけど、たぶん、抱きしめられた……間違えた、抱き着いたあの時に、私は恋に堕ちてしまったんだと思う。



 しかし、オーランド様と婚約してから、幸せかというと、実はそうでもなかった。


 特に二人っきりになるのがつらい。

 オーランド様は、夜会や家族の前では婚約者としてとても気づかってくれるから、それが演技だとわかっていても、優しくされることに幸せを感じている。

 だから、モンヴール家に来たときは家族に一緒にいてもらうし、出掛ける時も劇場のボックス席や、レストランの個室は避け、常に人の目のある場所を選んだ。


 だけど、それがオーランド様にとって偽りの姿であることは事実。

 私は虚構の幸せにしがみついていて、そしてそれをオーランド様に押し付けているのだ。


 婚約の打診を自分でしたくらいだから、好きになってくれるかもしれないという儚い幻想があった。しかし、そんな想いは早々に打ち砕かれていた。


「今日はここで。皆さんにはよろしくお伝えください」

「はい。本日はありがとうございました。お帰りはお気をつけてください」


 馬車の乗り降りには手を貸してくれるけど、婚約者らしい会話はまったくない。

 そのままオーランド様はドアを閉めて乗った馬車は遠ざかっていった。


「オーランド様のために、ほとぼりがさめたら私から婚約破棄を言い出したほうがいいのかしら。オーランド様ならすぐに相手が見つかると思うし」


 兄には申し訳ないけど、結婚は諦めてそのままモンヴール家に置いてもらおうと思う。


 明日は、料理長にシフォンケーキを焼いてもらってクリームをたっぷりかけよう。大好きなものを食べている時は、この悲しみを忘れられるはず。




「ライラ、この前ドレスを破いたばかりじゃないの。食べ過ぎはだめよ」


 ワンホールのケーキを食べつくした私に、母は苦言を呈してきた。


 だけど、生涯モンヴール家にいることを決めたので、結婚式に向けてのダイエットもやめてしまったし、結婚は諦めたんだから、食べ物だけは我慢したくない。


 とは言っても、もうすぐオーランド様の誕生日だから、その日までは素敵な思い出をたくさんつくろうと思っている。


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