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05 醜聞が流れる前に

「さて、ライラには、何があったのか包み隠さず話してもらおうかな」


 両親を交えて兄に問い詰められてしまったら、みんなを心配させないような、うまい嘘をつくなんて私には不可能だ。

 それにオーランド様を巻き込んでしまったことを考えれば、すべて話してしまった方がいいだろう。私は庭園に連れていかれたところから、家族に正直に話すことにした。


「あの時男が『噂が広がることになっている』って言っていたから、私が襲われたことは、初めから仕組まれていたんだと思うの」


「なんてことだ」

「可哀そうなライラ。でもドレスは本当に破かれたわけではないのね?」


 話を聞いた父は憤慨し、となりに座っていた母は私を抱きしめた。


「それは本当よ。暴れていたらビリって……」


 もし暴漢からそんな恐ろしい目にあわされたとしたら、私は絶対に男性不信になっていた。オーランド様に助けられた時だって、素直に厚意を受け入れられなかったと思う。


 状況が違ったら、心が壊れてしまっていただろうから、あの時、オーランド様にときめくなんてこともなかったのかもしれない。


「ドレスは不可抗力だったとしても、襲われていたことは確かだからな。妹を助けてくれたオーランド殿にはどんなに感謝しても足りない。本当に恩に着る」


 兄と両親がオーランド様に頭を下げて感謝の意を伝えた。


「僕もライラさんを救えてよかったと思っていますから、頭をあげてください」


 そうは言われても、オーランド様に助けてもらわなければ、私はサーシャ様たちの罠にはまって、あの暴漢と無理やり恋仲にされてしまうところだった。

 そんな男から、私自身と私の未来を救ってくれたのだから、オーランド様へは言葉だけではなく、きちんとお礼をしたい。それは、後で家族と相談しようと思う。



「ライラを襲ったという暴漢のことだが、衛兵が調べているから、すぐに身元は割れるだろう。話からして、たぶんライラに婚約の申し込みをしている中にいるのだと思うが、今回の件、おいそれと抗議ができないからな――どうしたらいいでしょうか。父上」

「そうだな。それを公にするとライラにも傷がつくことになってしまう。そちらは慎重にやらなくてはならないから、裏から手を回すしかないだろう」


 私との婚約を望んでいる貴族家だとしたら、間違いなくうちより格下だ。

 裏からと言うくらいだから、父たちは権力を行使するつもりだろうか。


「暴漢の件は父上にお任せします。それと、デニラ家のカールについては即刻断りを入れましょう。あれは誘惑に弱すぎます」

「ライラに対してとても優しく接していたので、わたくしは好青年だと思っていましたのに」

「もともとが女好きなので、それが優しさに見えていただけでしょう」

「そのようね」


 カール様との婚約の話は、家族一致で除外することになった。


「お兄様はもしかして、王宮でカール様を監視していらっしゃったの?」


 兄は私がサーシャ様から貶められていた時にすぐに現れたし、それにカール様と怪しげなことをしていたサーシャ様のことを知っていた。

 すべてのタイミングが良すぎると思う。


「ああ、テーバー家の令嬢と友人にしては距離が近いことが気になって、彼らを尾行していた。始めは令嬢の方が熱心に誘っていたが、それに乗ったのはカールの意思だからな。ライラのエスコートをしながらまったくけしからん奴だ」


 きっと、カール様たちを追って庭園に出ていたんだろう。大広間でいくら探しても見つからなかったはずだ。


「でも、まだ正式に婚約していたわけではないので、そのことを責めることはできませんし、逆に婚約をする前にわかってよかったと思っているわ」

「そうね。結婚した後で愛人をつくられたら目も当てられないもの。ライラのお相手は、今後きちんと調査してからにしましょうね」


 母が私の頭を撫でながら慰めてくれた。


「それなんだが、ちょっと困ったことになりそうだ」

「どうかしたのお兄様」

「たぶん今夜のことは、尾ひれがついた状態で社交界に噂話が流れるだろう。それもすべてライラの醜聞としてな」


「それはしかたないわ。私は恥ずかしい姿をたくさんの人に見られてしまったのだもの」


「そのことじゃない。ライラを傷物扱いしたいテーバー伯爵家の令嬢の取り巻きどもが、オーランド殿に弄ばれた、もしくはライラがテーバー家の令嬢のように誘惑していた。下手をすると奴らはライラが襲われていたと噂を流すかもしれない。ドレスが破れていたのも、まあ、ライラならあり得ることだと思われるだろうが、中には深読みする輩もいるからな」


「しかし、あの場で僕たちの間には何もなかったことを言明していますよ? それにライラ様が襲われていたところは誰にも見られていないと思いますし」

「そうだとしても、こういった噂話は真実でなくても、面白おかしく広がるものだ。いったいどうしたらいいものか」


 あの暴漢も言っていたけど、男性から恋愛相手としてみられることのない私だから、どちらかというと、ロマンスとしてではなく、血統を餌に男あさりをしてがっついていたことになるんだろうか。

 襲われていたとしても、同情されるのは私ではなくて、暴漢の方かも。

 もともと落ちる評判もないとはいえ、それをネタに社交界で失笑されるのも堪える。


「あの」

「何か思いついたか、オーランド殿」


「はい。でしたら、変な話がでる前に、本当に僕とライラ様が婚約してしまえば問題ないのではありませんか。それこそ暴漢が企んでいたように、お互い恋に堕ちたことにして」


「なんだと!?」

「ライラと婚約?」

「オーランドさん、それは本気ですの」


 オーランド様と私が?


「いえ、口が滑りました。失礼なことを言ってすみません。金で爵位を買ったと蔑まれている家の僕が、ライラ様と縁組なんてできるわけがありません。しかもライラ様のお気持ちも考えず軽率でした」

「そんなことないわ!」


 オーランド様が自分の提案を取り下げようとしたので、私は思わず叫んでしまった。


 この場でその話を出したということは、現時点でオーランド様に婚約者はいないはず。

 それに誰かに強要されたわけでもなく自分から口に出したということは、少なくとも私との結婚を厭ってはいない。

 だからと言って言葉通り私のことを好きなわけがないことも承知はしてるけど。


 それでも父たちさえ説得できたら、オーランド様と結婚できるかもしれない。


 私の場合、どうせ恋愛結婚なんて無理だから、いずれ誰かとは政略結婚することになるだろう。だったら、好意を抱いているオーランド様がいいに決まっている。


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