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番外編 04 きっといつか

 最近ライラはとても楽しそうだ。

 バラ園で怪我をしたり、いろいろやらかしたりしてはいるようだけど、どうやら、オーランド殿とはうまくいっているらしい。見た目もかなりすっきりしてきてダイエットの効果も出てきている。


 もう僕たちが心配することはなさそうだと思っていた矢先に、事件はおきた。


「劇場でライラたちが喧嘩をしていたそうなの。オーランドさんがライラを残して帰ってしまった後、泣きはらしたライラが護衛に支えられながらボックス席から出てきたのですって」

「何をやっているんだあの二人は」


「明日のダンスレッスンは絶対にさぼるわよね。話を聞きたいのに」

「こちらから迎えをやれば、嫌でもやってくるだろう。きっとまたうじうじしているだろうから、姉上がアドバイスしてやればいい」

「そうね。ライラは自分に自信がなさすぎるから、彼の本心を確認もせずに、ちょっとしたことでオーランドさんに嫌われたと思って悩んでしまうものね。自分の気持ちをきちんと伝えたこともないみたいだし」


「もうさあ、初々しいとかいって、生暖かい目で見てないで、ふたりに両想いだって教えてやったらいいんじゃないのか」

「きっとだめよ。オーランドさんが言葉にするまで、ライラは信じないと思うの。それに『好き』って言葉は先に人づてで聞くより、好きな人から言ってほしいものよ」

「まあ、ライラだからな。本人からはっきり言われなければ信じそうにないな」


 翌日、迎えの馬車をやって強制的に呼び出したため、ライラは王宮にやって来た。


 泣き続けていたのか、顔全体ががむくんで以前のようにぱんぱんになっている。


 あのマイルズ殿がこのライラの状況を、黙って見守っているのが不思議だけど、ヴァレリアと同じような気持ちなのかもしれない。


 結局、二人が素直になれば、すべては丸く収まるだろうから、周囲が心配したり騒いだりする必要はないのだろう。


 ヴァレリアと二人で、ライラから話を聞いてみると『オーランド殿は嫌々婚約したのだ』と、思った通り、大きな勘違いをしていた。

 婚約を解消するなんて、馬鹿なことを言い出すから、ヴァレリアが興奮している。


 とりあえず落ち着かせて、冷静に話をするようにたしなめた。


 それで、ライラに何が起こったのか確認したはいいものの、いまだに『わたしなんて』と自分を卑下する言葉を口にするから呆れてしまう。


 初めの頃よりは前向きになってきたと思っていたのに、本当に何をやっているんだか。


 僕とヴァレリアとで励ましつつ、思い込みで動くのではなく、オーランド殿に自分の気持ちをちゃんと伝えるように諭した。


 ライラはしぶしぶ『はい』と返事をしたけど、これでもだめなら、僕はもう何も言う気はない。


「ライラはあんな状態だけど、あの二人はただすれ違っているだけなのだから、いずれは通じ合えると思うの。残念だったわねレオン」


「は!? 何がだよ」


「レオンが女性に対してこんなに親身になることなんてなかったもの」

「まさか。悪いけど、ライラは僕の理想と正反対だから何とも思ってない。僕は姉上に協力していただけだ」

「そうなの? わたくしはてっきりライラのことが好きなのだと思っていたわ」


 確かにライラは頑張っていた。その努力は認めている。一途なところも好感は持てる。

 それにダイエットの効果で、目鼻立ちがはっきりしてからは、痩せる前とは別の意味で目を引くようになった。令嬢たちに絶大な人気を誇るマイルズ殿の妹だけはあると思う。だからと言って僕が好意を抱いているかといったら――。


 ヴァレリアが言うように、僕は片思いをしてるのだろうか、ライラに親心のような気持ではなく、恋心を抱いているのか?


 だとしたら僕はいつも、手の届かないものばかり好きになってしまうんだな。


「悪いけど、僕は理想がものすごく高いんだ」

「わたくしの勘違いだったの?」


 僕はごまかすために苦笑いを返した。




 その四日後、ヴァレリア主催の夜会でライラはオーランド殿とやっとお互いの気持ちを確かめ合うことができたようだ。


「あれは絶対にプロポーズしているわよね。わたくしも少しは役に立ったのかしら」

「たぶんな」


 オーランド殿に、ライラのことを諦めないよう、こっそり手紙を出していたらしい。


「幸せそうで羨ましいわ。わたくしにも二人みたいな出会いがないかしら?」

「暴漢に襲われているのを助けてもらうっていうシチュエーションは、僕はどうかと思うけどな」


 僕とヴァレリアは遠目で見守りながらそんな会話をしていた。最近ヴァレリアは物語の主人公のような出会いにあこがれている。


 それは、ライラたちのことを応援しながら、ずっと見てきたからだろう。


「いつかきっと、ヴァレリアにも運命の相手が現れるさ」

「そうだといいのだけれど」


 大好きな姉には絶対に幸せになってほしい。


 だから、任せられる相手が現れるまでは、今まで通り僕が守り続けようと思っている。



 僕自身は、いずれ決められた相手と結婚することになるだろう。実は、僕は政略結婚は肯定派だ。


 恋愛結婚が普通になった昨今、デニラ家とテーバー家のような、馬鹿馬鹿しい潰し合いをみていると、感情だけで動くことに意味を見出だせないからだ。


 それは僕にまだ、諦めきれないほど想う相手がいないからかもしれないけど。


 僕もいつの日か、誰かと向かい合う時がきたら、ライラたちを教訓に、相手には気持ちをしっかり伝えようと思っている。




番外編、完結しました。

ありがとうございました。

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