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番外編 02 ライラとその婚約者

 ことの発端は、ライラがどうやったら婚約者と楽しく過ごすことができるかを、ヴァレリアに相談したからだったらしい。


 それを聞いたヴァレリアが自分磨きを勧めた上で手伝うことにしたようだが、話を聞いたところ、ライラの食事を管理したり、運動メニューを強要したりしている。


 しかも出会ったその日からだというから、呆れて物も言えなくなった。

 自分がライラの立場だったら、やっている素振りをするだけだろう。そう思うからこそ、ライラがヴァレリアの言うことをきいて頑張っていることには敬意を払いたい。

 たぶん、もともと彼女は真面目な性格なんだろう。


 僕は堕落した生き方をしている者は嫌いだが、ライラに限っては不摂生で太ったわけではなさそうなので、彼女がどこまで変わることができるのか興味もあった。




「マイルズ様って本当にライラには甘いのよ。お菓子が食べられなくなったらかわいそうだって、わたくしに文句を言いに来たわ。信じられないでしょ」

「まあ、それは有名だからな。そのせいで、ライラは恋人でもないのに、令嬢たちからいらぬ嫉妬を買っているんだから、同情はするよ」


 同じシスコンとしてはわからなくもない。

 ヴァレリアを泣かされた時は僕だってモンヴール家に怒鳴り込みそうになった。それでもその気持ちを抑えるだけの理性は持ち合わせているから、マイルズ殿ももう少しうまくやればいいものを、とは思う。


「マイルズ様はもう、わたくしには笑いかけてくださらなくなってしまったわ」

「それは、姉上のことを想ってのことだろう? マイルズ殿に優しくされていたら、姉上はいつまでも忘れることができないからって、兄上も言っていたぞ」

「そうよね」


 寂しそうに笑うヴァレリアはかわいそうだが、ヴァレリア以外の女性に惚れている男のところに嫁ぐことにならなくて、本当によかったと思っている。


 王宮にいるのであれば、僕がいくらでも慰めることができるけど、どこかの屋敷で一人涙を流していてもそれを知ることすらできないのだから。


「でも、あれだけ大事にされているライラが、なんであんなに陰気なんだろうな。そういえば夜会でもほとんど見かけたことがなかったし」

「なんでも、子どものころにお茶会で嫌な思いをしたそうなの。それから、どうしても出席しなければいけない時以外は、ほぼ欠席していたみたいなのよ」

「だからなのか」


「舞踏会に出席した時は大抵はマイルズ様やペトラ様と一緒にいたらしいけど、それでも一人になってしまうことはあるでしょ。彼女はいろんな意味で目立つから、令嬢たちに嫌味を言われたみたいだわ」

「確か、姉上の誕生祭にもはめられそうになっていたんだよな。あんな悪辣すぎることができる令嬢たちが、僕には満面の笑みで挨拶してくると思うと誰も信じられなくなるよ」


「レオンの相手はわたくしが吟味するから大丈夫よ」

「いや、僕の場合は相手が他国の王女である可能性があるから、あまり期待しないでおくよ。せめて姉上みたいな女性ならいいと思ってはいるんだけど」

「そうだったわね……」


「僕のことは気にしなくていいから、姉上もそろそろ自分のことを考えろよ」

「ライラたちみたいに、わたくしにもおとぎ話のような、素敵なことが起こるといいのだけれど」


 ヴァレリアが幸せになるためにも、マイルズ殿が霞むくらいの相手が本当に現れてもらいたいものだ。


「そうそう、今度のザックス叔父様主催の夜会で、ライラは婚約者と踊るのを楽しみしているみたいなの。わたくしたちもその婚約者を確認しに行くわよ。ライラを泣かすような男性だと嫌だもの」

「その辺はマイルズ殿に抜かりはないと思うけどな」

「それでもよ」


 ライラの婚約者はマヌエット伯爵家の嫡男だと聞いている。

 あの家は信じられないほどの早さで伯爵家まで上り詰めた。


 己の身分に胡坐をかいた貴族家が、破産して身をもち崩していくのを傍目に、どんどん力を伸ばしていった、国にとっても有益な伯爵家だ。


 それだけの能力と機を見計らう判断力がある者が何代も続いた家。

 それを継ぐ者が、あのライラの婚約者とは。自分に自信がないライラが悩むのもわかる気がする。




 それからあっという間に、その日はやって来た。


 僕はいつもの通りヴァレリアをエスコートしている。僕たちより少し遅れてライラたちが到着して、さっそく挨拶にやって来た。


 オーランド・マヌエットの見た目は、背は高いが線が細い。

 となりのライラが悪い意味で引き立ってしまっていた。


 なんとも言えないが、これでも前よりは身体が絞れているはずだから、無理やりヴァレリアにダイエットをさせられていたけど、ライラにとってはよかったんじゃないだろうか。




「それにしても、なんてぎこちないのかしら、あの二人は」

「ライラもだけど、婚約者の方もだな」


 挨拶をした時はライラのことをスマートにエスコートしていたのに、ダンスを始めてからは双方が緊張しているようで、ガッチガチで見ていられないほどだ。


「初めてライラのダンスを見た時と一緒だわ。ほら、絶対にいま足を思いっきり踏んだわよ」


 僕たちはライラたちを見ながらも普通に踊っている。ライラも練習の成果が出て、基本のステップを踏むだけならそのくらいの余裕があったはずだ。


「ライラの癖が出て、下ばかり見ているな」


 オーランド殿と楽しむために頑張ってきたというのに、これでは意味がないだろう。


 仕方がない。

 僕が一肌脱ぐことにするか。


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