28 再会
オレンジ色のバラを見ながら、私はとても悩んでいた。
お礼をしようにも、手紙に何を書いたらいいのかわからないからだ。『ありがとうございました』の一文だけというわけにはいかないだろう。
なぜ私に送ってきたんですか――デニラ家とテーバー家の様に、モンヴール家ともめたくないから?
このバラには何か意味があるのですか――私が気にかけているだけで特別な意味はない?
最愛のライラへとは――最も愛しているライラ? 意味がわからない。ライラと私の名前が入っているんだから、相手を間違えているわけじゃないと思うけど。
「あ、わかった。あの日よりも前に予約してあったのが届いちゃったんだわ」
それなら辻褄があう。
「うーん、でも、そうだとしたら返事をだしても、オーランド様が困惑するわよね」
悩んだあげく、とりあえず保留にした。
ところが次の日、今度はピンクのバラの花束が届く。そして『僕の太陽へ』のカードもついていた。
「なんで? どうして?」
しかも、その次の日には真っ赤なバラまで。
結局あれから毎日贈られてきて、私の部屋には五色のバラが飾られている。
さすがにお礼の返事を棚上げにはできなかったので、とりあえず無難に
『素敵なお花をお贈りいただきありがとうございました。おかげ様で私の部屋はとても華やかになっております。暑さも続いていますので、くれぐれもご自愛ください』
と感情はなるべく入れないようにして、あえて事務的な文で送ることにした。
このバラたちについて、兄や母に聞いても、それがオーランド様の気持ちだと言われるだけ。
「やっぱりモンヴール家ともめたくないと思っているのね。そんなこと気にしなくてもいいのに」
だから、気持ちは伝わっているから、もう贈ってこなくていいと返事を書こうと思っている。
「ライラ、用意はできているか?」
「はーい、今行きます」
今日はこれから、ヴァレリア様主催の夜会に兄と一緒に出席することになっている。ヒルダ様の都合が悪いので、相手のいない私が兄のパートナーとして行くことになっていた。
ヴァレリア様も今はお相手を探している最中なので、今夜招待されている子息令嬢は二十歳前後の比較的若い世代が多いらしい。
兄と大広間を回っていると、いつものように令嬢たちからの冷たい視線が突き刺さる。
でも今日は、なぜか男性もこっちをチラチラ見ているような気がする。オーランド様とのことが噂になっているみたいだから、たぶんそれでなんだろうな。
「ライラは一流の講師にダンスを習っているんだったな。相手が私では不服かもしれないが一曲踊らないか」
「不服なわけないじゃない。お兄様がパートナーだったら楽しく踊れるもの」
私は兄とダンスホールに移動して踊り始めた。数ヶ月前と違って身体がよく動く。部屋でひとりうじうじ悩んでいるより、こうやって身体を動かすことで少しは気が晴れるように思う。
でも、私はどうやら、とても未練がましいらしい。曲に合わせてくるくる回っている時、これだけ招待客がたくさんいるというのに、私の目はその中からしっかりとオーランド様の姿をとらえてしまっていた。
「なんでいるの?」
今回、オーランド様も招待されているだろうと思って、事前にヴァレリア様に確認しておいた。その時には欠席だと言っていたのに……。
ターンして、オーランド様が見える位置になるたび、見てはいけないと思いながらも、私の目はオーランド様の姿を追ってしまう。
「あっ」
どうして!? 私は自分の目を疑った。
オーランド様のそばに、あの夜私を庭園に連れて行って、暴漢に声を掛けた令嬢がいたからだ。
なんであのふたりが一緒にいるの?
そっちに気を取られて、ダンスがおろそかになったため、兄にグイっと引っ張られる。
「それほど気になるなら、ダンスが終わってからオーランド殿のもとに行ってきたらいい」
「いやよ」
今だって、また泣き出しそうなのに。オーランド様と向き合ってしまったら、私は平常心でいられる自信がない。
「それに話すことなんて何もないわ……」
「すぐそこにいるのだから、バラの礼くらいは言っておいた方がいいと思うが? それに、なぜ贈ってくるのかも知りたいんだろ、ライラは」
「それはそうだけど……」
曲が終わると兄が私の腕を掴んで、オーランド様のところに行こうとした。
「やっぱり、いや」
子どもが駄々をこねるようにその場で歩くのをやめた。そんな私を見て、兄がため息をつく。
だって、どんな顔をして会ったらいいのかわからない。
「そうか。だったら――オーランド殿、ちょっとこっちに来てくれないか!」
な、なんてことを。
私は兄から逃げ出そうと、腕に力をいれた。だけど、どうやっても振り払うことができない。
最悪の別れ方をしたオーランド様との再会が夜会だなんて。街で偶然会うよりあり得たことだけど私には心の準備ができてなかった。




