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27 心配されているのはわかりますが……

 オーランド様に別れを告げてから二日後。


 今日はヴァレリア様とのダンスレッスンの予定が入っている。だけど、気持ちが沈んでいて今は誰とも会いたくなかった。


「今日はお休みさせてもらおう」


 そう思っていたのに。


「王宮から迎えの馬車が来た?」


「ヴァレリア様が絶対に貴女を連れてきなさいとおっしゃったそうなの。一度はわたくしの判断で断ったのだけど、使いの者が動こうとしないのよ」


 困り果てた母が、私にどうするか確認に来たようだ。


「絶対にと言われているのなら、きっと私が出ていくまで帰らないわよね。それにこんなことは初めてだから、何かあったのかもしれない。すぐに用意するわ」

「何事もなければ、ヴァレリア様にご挨拶したあと、あなたは具合が悪いと言ってすぐにお暇したらいいわ。帰り用の馬車も一緒に向かわせておきますからね」

「ありがとう、お母様」


 私はドレスをよそ行きに着替え、髪型を軽く整えてから、迎えに来た馬車で王宮へと向かった。


「本当に何があったのかしら」


 王宮に到着してから私は、顔を見られるのは嫌だなと思いつつも、ヴァレリア様に何があったのだろうと心配もしていたので、うだうだするのはやめてすぐに会いに行くことにした。


 レッスン室へ恐る恐る入ってみると、私に気がついたヴァレリア様がドレスを持ち上げながら走ってくる。


 レオン様もそのあとを普通に歩きながらだけど、とても不機嫌そうな表情をしていた。


 二人のこの態度、ものすごく怖いんだけど。


「ライラ! 貴女オーランドさんと何かあったのですって?」

「なんでヴァレリア様がそのことを知っているんですか?」

「劇場でのことが噂になっているわ。ライラがそんな顔をしているってことは本当なのね」

「本当にすごい顔をしているな」


 泣きすぎて赤く腫れていたまぶたを、タオルを当てて冷やしてみたけど、あまり効果がなかったようだ。


 それよりも、あの時、私の酷い状態を誰かに見られてしまったのか、ボックス席の舞台側から、オーランド様との会話を聞かれてしまったのかもしれない。


 どちらにしても、いずれ公にはなるのだから、遅かれ早かれ、ヴァレリア様たちにも真実が伝わることになるだろう。


「婚約を解消するのがお互いのためだったんです」

「婚約を解消!? もうそんな話まで進んでいるの。ライラは好きになってもらうために頑張っていたのではなくて? だというのに、どうしてそんなことになっているのよ」

「もともと合わなかったんですよ。オーランド様にはもっといい人がいくらでもいますから」

「それはライラの気持ちよね。彼はなんて言っているの?」

「『わかった』って」

「何を考えているの、貴女たちは! なぜみんな、好かれる努力をしないの。障害もないのに諦めるのが早すぎるわよ」


 ヴァレリア様が私の両肩を掴んでぐわんぐわん揺らす。

 なぜかとても興奮しているようだ。


「やめろ、姉上。そりゃあ、好きな男の好みに合わせるため、体形まで普通とは逆の方向に変えようとした姉上から見れば、誰だって努力していないように見えるだろう」

「それにしたって、ライラとオーランドさんは何の問題もないのよ」

「たしかにな。僕もちょっと解せないところはあるんだが、姉上がここでいくら熱くなってもどうにかなるわけでもないし。話をするなら落ち着いてからにしろよ」

「そうね。わたくしとしたことが……取り乱してしまってごめんなさいね」

「いえ、私なら大丈夫です」


 結局、ダンスのレッスンはみっちり受けさせられて、そのあと私はヴァレリア様とお茶をすることになった。

 なぜかレオン様も一緒だけど。



 うわー、ここからの景色もすごく素敵、あの青い花はなんだろう。うちの庭にも植えてもらおうかな。

 なんてこの部屋から見える庭園を見つめて私は現実逃避をしていた。

 ヴァレリア様の雰囲気では、すぐに帰してもらえそうにないからだ。


「青は冷静になれるのですって。ここなら丁度いいでしょう」

「そうですね……」


 私が窓の外を見ていたからだろう。ヴァレリア様にそんなことを言われてしまった。


「わたくしはライラがとても羨ましいの」

「私がですか?」

「ええそうよ。わたくしは少し前まで、政治的な問題で、いつ他国からの申し込みがあってもいいように婚約者をつくれずにいたわ」


 昔と違って、今は小さなころから婚約することがあまりない。

 家や親の事情でそんな人がいないこともないけど、相性があわない組み合わせで結婚することで、夫婦仲が険悪だったり、愛人をつくったり、家の中で問題が発生するケースが多発したからだ。そのため候補程度にして交流を続けることが多くなっていた。


「わたくしと合いそうな年代のお相手が、もういないということで解禁にはなったのだけれど、その時には、わたくしのお慕いしていた方には両想いのお相手がいたの。それに気がつかなければ、政略結婚に悩んでいたわたくしが、好きな人にそれを押し付けることになるところだったのよ。でもライラは違うでしょう」


「オーランド様は私のことなど好きではありません。立場は違ってもヴァレリア様と同じですよ」

「オーランド殿の好きな人って誰だよ」


 レオン様に聞かれたけど、私は返事に困ってしまった。オーランド様の口から、女性の名前が出たことはないからだ。

 私にわかるはずがない。


「ほら、心当たりもないのではないか。ライラの場合、姉上とは全然状況が違うと思うぞ」

「でも相手が私なんてオーランド様に申し訳なさすぎます」

「なぜ、ライラはそこまで自分の評価が低いのかしら」

「僕も『私なんて』って言うやつは好きじゃない。そう思うなら、なんで胸を張れるように頑張ろうとしないんだ」

「それは……始めから無理だと思っているからです」

「だろうな。だけど、ライラはダンスが上手くなったよな。僕たちともこうして仲良くなっている。やればできないこともないんだ」


「そうよ。それに自分の気持ちも伝えずに振られたつもりになっているなんて、経験者としてはちょっと腹立たしいわ。振られるならちゃんと振られてきなさい。もしそうなったら、わたくしがいくらでも慰めてさしあげるから」

「――はい」


 二人の手前、そう返事はしたけど、なんて無体なことを。

 あの日、身が切られるほどの思いをしたのに、それをもう一度なんて、絶対無理だ。


 おかげで私は、どよーんとした気分で家に帰ることになった。



 ところがその日の夜。


「これはいったいどういうことなの?」


 オーランド様から私あてに、両手でも抱えきれないほどのオレンジ色のバラの花束が届いたのだ。

 しかもそこには『最愛のライラへ』のカードが添えられていた。


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