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26 オーランド様の太陽

 私は急いで廊下に飛び出したけど、すでにオーランド様の姿はどこにもなかった。


 言葉の真意を確かめたい。

 だけど、婚約を取り消すことを承諾されてしまった以上、私とオーランド様はもう赤の他人だ。

 『あれはどういう意味だったんですか』なんて聞きに行ったとしても、本当に()()()()()()()()だとしたら、自分から言い出しておいて、今さら何の確認だ、って思われてしまうだろう。


 振られたのに、追いかけて縋ったりしたら、もっと嫌われてしまう。恋愛小説ではそうだった。


 うっ、うぐっ


 涙止まれ、これはオーランド様の幸せのためなんだから、止まってよ……。


 私はボックス席のドアのところに座り込んで泣き続けた。

 胸がずきずき痛む。オーランド様を想うたびに心臓を掴まれたみたいにぎゅーってなった。


 ううっ


 ガチャ


 力も抜けてしまって動けなくなっていると、私が寄りかかっていたドアが外側に開いた。

 それがいきなりだったので私は廊下へ転がり出そうになる。


「オーランド様!?」

「ライラお嬢様!? どうされたんですかそのお姿は!?」


 それは、モンヴール家の護衛だった。外で待機していたところ、オーランド様に言われて私を迎えにきたらしい。


「オーランド様は?」

「先にお帰りになると言っておりましたが、それよりライラお嬢様は大丈夫なのですか?」

「ええ……なんでもないわ。だから静かにして」


 私は護衛の手を借りて立ち上がり、そのまま肩を抱えられるようにして、劇場を出た。


 もしかしたらオーランド様が戻ってくるかもしれないと、一時間ほど馬車で待ったけど、結局彼がやってくることはなかった。


 家に到着してから、私は自分の部屋にこもり、ベッドの上でうずくまった。


 こんなにつらいなんて、

 こんなに胸が痛いなんて、

 こんなに涙が止まらないなんて。


「そうだ、オーランド様からもらった詩……」


 私はふらふらしながら、宝箱を取りに行って、ベッドの上に中身を広げる。バラのブローチたちが目に入ると、また涙が滝のようにとめどなく流れ出す。


 それでも、ハンカチで涙を拭いながらオーランド様の詩に目を通した。



 道端の小さな花は

 いつも太陽にあこがれて見つめている

 それは大きく、優しくて、温かい

 太陽が雲に隠れると寂しい

 雨は太陽の涙

 そんな時は小さな花も悲しくなる

 風になって雨を吹き飛ばせたらいいのに

 小さな花はいつまでたっても

 小さな花のままだ



 私は太陽をライラに代えて読んでみる。


 うぐっ……うっ……ぐすっ……


「ごんだに……やざじい……ずるい……」


 コンッコンッコンッ


「ライラ、入ってもいいか?」

「だべっ」

「ライラ?」


 だめだと返事をしたのに兄は勝手に部屋に入ってきた。護衛に今日のことを聞いたんだろう。

 今は放っといてほしいけど、私がこんな状態になっていることはちゃんと話さないといけなかった。そうしないと、オーランド様に迷惑をかけてしまう。


「いったい何があったんだ」

「ごんぎゃくはぎ」

「こんやくはき? ――されたのか?」

「じがう。しでぎだ」

「ライラが? なぜだ? おまえはオーランド殿のことが好きだったのではないのか」

「そでば」

「ちょっとまて、まず鼻をかめ」


 私は兄から渡されたハンカチで涙を鼻を押さえる。


「オーランド様を縛り付けたくなかったの」

「オーランド殿がライラにそう言ったのか? お前との婚約が嫌だと」

「優しいからそんなこと言うわけない。だけど、見ていたらわかるわ。だから自由になってほしかったのよ」

「私が見た感じではオーランド殿はライラに惚れているとしか思えないんだが」


 そんなはずない。オーランド様が私とふれあう時、彼はいつも躊躇していた。


「それは家族がいる時と、二人っきりの時は違うからよ。お兄様たちの前では気を遣って、私と仲の良いふりをしてくれたんだもの」

「そうだったのか? でも、ここに広がっているものはすべてオーランド殿から貰った物だろう? 私だったら好きでもない相手にこんなにたくさんの詩なんて贈らないぞ」


 私がそれだけ贈っているからだ。丁寧にその返事をくれただけだと思う。


「オーランド様がまめなだけだわ」


「――わかった。一応この件は私に預けてくれ。父上たちにも相談しなければならないし、婚約を白紙に戻すとしても手続きが必要だからな」

「お願いします……」

「ライラは今日は何も考えずに寝ろ。いいな」


 そう言って兄が部屋から出ていったので、私は再びオーランド様の詩をひとつずつ確認していった。


 本当に詩の中の太陽が私のことだったら、オーランド様はいつも私のことを考えてくれていたんだ。


 それがたとえ恋でなかったとしても、どれだけ嬉しいことか。


 だけど、そうやって、オーランド様のことを思い出すと、どこにこれだけの水分があるのかと思うほど、涙はいつまでたっても止まらなかった。


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