24 理想の王子様は大変らしい
オーランド様との楽しい思い出がどんどん増えていく。
「ヒルダお姉様から教えてもらったことは、あとはお芝居を見に行くことよね。最近はオーランド様と二人きりでも前よりは困らなくなってきたから、行ってみてもいいかしら」
今回も兄に相談だ。そう思って私は兄の書斎に突撃した。
「お兄様ちょっといいかしら?」
「ああ、もうすぐ片付くからそのへんに座って待っていてくれ」
「お仕事中にごめんなさい」
私は謝ってから、打ち合わせ用のテーブルセットの椅子のひとつに腰を掛けた。
実はこの一人がけの椅子はお気に入りだったりする。クッションが固いからあまり沈み込まないので座りやすいのだ。
ただ幅が私には少し狭いので、自分の部屋のものと交換してほしいとは言い出せなかったんだけど、痩せた今ならちょうどいい。兄に強請ってしまおうか。
そんなことを考えているとそこに積まれている本からはみ出しているメモが目に入った。
それは、何年か前に流行った恋の詩集。メモには『マイルズ様のことが頭からはなれません。お慕いしております。ヴァレリア』
「は!? ヴァレリア様がどうして?」
驚いて思わず叫んでしまった。
「ライラ? あ、そんなところに置きっぱなしだったか」
「えーっと、これって?」
「一時期、ヴァレリア様との婚約の話がもちあがったんだ。私が振られて、なかったことになったから、この話は内緒だぞ。ライラは知らなかったことにしておけよ」
それはヒルダ様に? それともヴァレリア様に?
そう言えば、初めてヴァレリア様に会った時、恋の話をしていたような……まさかあれは兄のことだったの?
「気になるー」
「別に何もなかったからな。王太子に頼まれて優しく接していたらヴァレリア様がちょっと勘違いをしただけだ。すぐに目が覚めたらしい」
「ふーん。なんとなく状況がわかったわ」
滅多に笑いかけないこの兄が、ヴァレリア様だけに優しくしていれば、自分だけ特別だと思ってしまってもしかたがない。
妹の欲目もあるけど、兄は独身子息の中で格好いい男性ベストテンには入っていると思うから。
でも一番はオーランド様だけど。
もともと兄には幼いころから付き合いのあるヒルダ様がいた。
だけど、この話はヒルダ様と正式に婚約する前にあったものなんだろう。兄は振られたと言っているけど、ヒルダ様の存在を考えると、ヴァレリア様の方が諦めたんじゃないのだろうか。
あの何ひとつ欠点のないヴァレリア様ですら叶わないことがあるのかと思うと、恋って本当に難しいと思ってしまう。
「それで? ライラの用事は?」
「今度オーランド様とお芝居を見に行こうと思っているんだけど、何がいいと思う?あと、何を持っていったらいいか教えてほしいの」
「ライラの場合は、悲劇より喜劇の方がいいんじゃないか。絶対に泣くだろうからな」
「そうね。そういうこともちゃんと考えないといけなかったわよね」
「あと、オーランド殿がもし寝ていたとしても何も言うなよ。疲れているとどうしようもない時があるからな」
「それは、つまらないからではないのね。わかったわ」
「席を立つタイミングはオーランド殿に任せろ。何か用意している場合もあるから」
「それは小説で読んだことがあるわ。それは、ハッピーエンドのお芝居を見たあとにプレゼントを贈ったり、プロポーズをしてたわ」
「そういうこともあるってだけだ。必ずしもそうとも限らないから勝手に期待をして失望はするなよ。男だって、いつまでも理想の王子様であり続けるのは大変なんだからな」
「お兄様でもそうなの」
「完璧な人間なんてどこにもいない。だからライラも理想と比べて自分を低く見ることはないんだぞ。ライラにはライラのいいところがちゃんとあるんだからな」
「そう?」
と言いながらも、私のいいところってあるの?
とりあえず次は私から、オーランド様をお芝居に誘ってみよう。
「日にちが決まったらお兄様に予約のお願いをしてもいい?」
「ライラのためなら一番いい席を用意してもらうから任せておけ」
オーランド様はどんな演目が好きなのかしら。




