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23 婚約破棄は簡単じゃない?

「あの日、喧嘩はしていましたけど、二人は仲がよかったんですよね。婚約破棄まで話が及ぶなんて信じられません」

「ライラはそう思うのかもしれないけど、もともとあの二人は合うわけがないんだよ」

「そうなんですか?」

「令嬢の方はカール殿を好きだと言っても容姿しか興味がなかったんだと思う。彼は社交的でいろんな人と付き合いがあったし、異性の友達も多かった。彼が軽いのは見ていればわかるはずだ」


 たしかに、カール様と夜会で会っても、男女関係なく声を掛けられると、すぐにどこかへ行ってしまった。


「令嬢はそんな彼が他の女性と挨拶するだけでも許せなくて、その度に怒っていたらしいんだ。軽い男と嫉妬深い女性なんて初めから無理に決まっている」


 私はいつもサーシャ様から睨まれていたけど、同じようなことが他でもあったんだろうか。


「それは私に限らずということですか」

「そうらしいね。彼にとってその嫉妬や束縛は鬱陶しいものだったんじゃないのかな。令嬢の方も、ちやほやされることに慣れていただろうから、優しくされるのが当たり前だと思っていたんだろうね。それなのに、デニラ家から嫌われて、カール殿にも冷たい態度をとられたから、こんなはずではなかったと思ったのかもしれない」

「でしたら、婚約破棄でもめることはないような気がしますけど」


 二人の気持ちが一致しているなら、ただ白紙に戻せばすむことなのでは?


「もめているのは先にその話を言い出したのがデニラ家だったからだよ」

「テーバー家の面子がつぶれたということでしょうか」

「それもあるけど、デニラ家が慰謝料を払うつもりはないと強気に出たらしくてね、そのせいで瑕疵が令嬢の方にある印象がついてしまった。それと格上に楯突くことができたのは、テーバー家を抑え込めるだけの情報をデニラ家が握っていると周囲に思われてしまったんだ」

「それは本当のことなんですか」

「どこの貴族家も、人に知られたくない事情の一つや二つあってもおかしくはないよ。テーバー家はただでさえ少なくなっている派閥の貴族家が他に移り始めてね、焦って今度はデニラ家の醜聞を騒ぎ立て始めた。僕は静かにしていた方が利口だと思うんだけど、黙っていられないほどプライドが高いんだろうね」

「二人だけの問題じゃなくなっているんですね……あっ、だったら私も」

「何?」

「ごめんなさい。なんでもありません」


 すっかり忘れていたけど、私もオーランド様に慰謝料を払わなければいけないんだ。

 それは、私が用意できるわけもなく、モンヴール家からということになるから、二人だけの問題ではない。

 婚約破棄の話を進めるには、事前に父には相談しないといけないんだ。そのことに今更ながら気がついた。

 そうしたら、絶対に兄も交えての話し合いになるだろう。あの兄を口下手な私が説得できるわけがない。


 婚約破棄って実はとてもハードルが高いんじゃないの?

 いったいどうしたらいいんだろう?


「彼らの問題は、僕たちには関係ないからどうでもいいよね。ライラ、気分を変えるために踊らないか」

「え?」


 悩んでいると、なぜかオーランド様からダンスに誘われた。


「でも、またオーランド様の足を踏んしまうかもしれませんよ」

「レオン王子とは話をしながら楽しそうに踊っていたよね。下手なわけないと思うんだけど」

「あの、それはレオン様だからです」

「レオン王子は特別ってこと?」

「いえ、そういうわけではなくて、レオン様だと緊張しないので」


 と言うよりも、オーランド様相手だから、私は必要以上にどきどきしてしまうのだ。だから、レオン様とだけではなく、兄とだって問題なく踊れる。


「王族なのに……そうなんだね」


 あれ? 待てよ。私はハプニングを望んでここに来たわけだから、ちゃんと踊れなくても、オーランド様に怪我さえさせなければ大丈夫なのでは。


「オーランド様、やっぱり踊りましょう」


 私はオーランド様の手を掴んでダンスホールの輪に誘った。


「急にどうしたんだ」

「最近、踊ることが好きになったんです。上手ではありませんが、お相手をお願いできますか」

「そうなの? 僕でいいなら踊ろうか。それに――」


 オーランド様が、私の引っ張っている自分の手を見ながら、口の中で独り言をつぶやいた。

 音楽で聞き取りにくかったけど『我慢も慣れてきた』たぶんそう言っていた。


 オーランド様は何を我慢しているんだろう。

 ダンスがあまり好きではないのかと思っていたけど、今日は先にオーランド様から誘われたのだから、やっぱり私と手をつなぐことなのだろうか。

 だけどそれも、そうなら誘わなければいいことだと思う。


 ここ最近は何かと接触が多かったから、手をつなぐことくらいは前より我慢ができるので、婚約者っぽいことをしようとしてくれているの?


 もしそうなら、そこまでしてくれるオーランド様とは真面目に向き合わなければ失礼だろう。


 その後、ホールに流れた一曲を、初めから終わりまでレオン様との特訓を思い出しながら踊りきった。

 オーランド様への気持ちも押し殺し、私はやっとのことで、オーランド様とちゃんとしたダンスを踊ることに成功した。


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