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22 どうなっているの?

 バラ園の管理室には救護室も併設されていた。


 私の怪我は常駐の医師が薬を手際よく塗った上、包帯でぐるぐる巻きにされる。ちょっと大げさだと思うほどだけど、貴族の中には手当てを簡単に済ませると文句を言う者がいるらしい。


「カール様はどうなりましたか? あとサーシャ様も」

「僕が説得したら渋々連れて帰ったよ。喧嘩をしたくらいでこんな郊外に令嬢を置き去りになんかしたら、カール殿は立場が悪くなるだろうし、令嬢の方も帰る足がないからね」

「そうですか」

「それにしてもテーバー家の令嬢は本当にひどいことをするな。前からあの態度はどうかとは思っていたけど、あれではカール殿でなくても嫌気が差すのも仕方ない。ライラを彼女と二人にしてしまって悪かったね」


 私はカール様がサーシャ様に頬を叩かれていたのを思い出した。本当に喧嘩で手が出る人がいるんだと、今になって驚いている。


 だけど、こんな素敵な場所でデートしていたのに、それを台無しにしてしまったサーシャ様は、今ごろ自らの行いを悔やんでいるんじゃないだろうか。


「いいえ。私はブローチが見つかったから、もうそれでいいです」

「そのことなんだけど、もうそんなもののために無茶はやめてくれないか。バラの棘で傷だらけになった君を見て僕は血の気が引いたよ」

「『そんなもの』なんかではありませんわ。これはオーランド様にいただいたんですもの」


 私は胸のあたりにあるバラのブローチを両手で包んだ。


「そう言ってもらえると嬉しいけど、代わりはいくらでもあるから」


 そう言いながらオーランド様は、私に赤やピンク、そして白などのバラのブローチを上着のポケットから出して見せる。


「こんなにたくさん?」

「ライラの好きな色がわからなかったから、すべての色を用意しておいたんだよ。よければ全部もらってもらえると有り難いんだけど」

「いいんですか?」

「もともとライラに贈るためのものだったんだから、受け取ってもらえたら嬉しいよ」

「本当に? 私こそすごく嬉しいです」


 カラフルなブローチをひとつずつ見せてもらう。それぞれ意匠が違うから、何件もの店で集めたんだろう。オーランド様のまめさには脱帽するしかない。


「これは帰りに渡すからね」


 すべてをストールにつけるわけにもいかなかったので、オーランド様はまた自分の上着のポケットにブローチをしまった。


 いっきに私の宝物が増えた。家に帰ったら大きな宝箱を用意しないと。


 今日はカール様たちとばったり出会ってしまうというアクシデントと、自分の不注意で怪我をしてしまったけど、なんて幸せ日なんだろう。


 でも、もしかしたら、アクシデントが多発したおかげで、オーランド様との距離がいつもより近くなったのかもしれない。

 それならひどいことはされたけど、あんなサーシャ様にも少しは感謝できるというものだ。


 ああそうか。

 私のことを嫌っている人と一緒にいると、その分オーランド様が優しく接してくれるんだ。思い返せばいつもそうだった。


 オーランド様には心配させることになってしまうけど、それもあと少しだけだ。このまま私のわがままのために付き合ってもらってもいいだろうか。


 その日私は、今まで避けていた夜会にも積極的に参加することを決心する。

 オーランド様が出席する夜会には彼が嫌がらない限り、必ず一緒に行こうと誓った。



 オーランド様に家へ送ってもらうと、オーランド様にはまったく非がないというのに、彼は私の怪我を家族に謝罪した。


 私が経緯をみんなに説明すると、家族の怒りの矛先はテーバー家に向かう。


「まあ、あの家は我々が放っておいても自滅するだろうから大丈夫か」

「たぶんそうなるでしょうね」


 兄とオーランド様が何を話しているのかは私にはわからない。

 オーランド様が謝った時に、過保護な兄が勘違いして仲違いすることになったらどうしようかと思ったけど、二人の様子を見て、それが考えすぎだったことに、私はほっとしていた。



 それから一週間ほど過ぎたころ、オーランド様のエスコートで私はある侯爵家の夜会に参加することになった。


 腕の怪我は治るまでオペラ・グローブで隠すことにしたけど、濃い色を着けるとなんとなくほっそり見える気がするから、結構気に入っている。


 人から悪口を言われても今日は気にならない。だって、その分オーランド様の優しさで幸福感を味わえるんだから。


 そう思っていたけど、今夜はいつもと様子が違った。


 サーシャ様の取り巻きの令嬢が数人参加しているのに、なぜかみんな、いつものような冷たい視線を送ってこない。

 珍しいこともあるものだと、首をひねっていると、オーランド様と一緒にいるというのに、その中のひとりから声を掛けられた。


「ごきげんよう、ライラ様。それ新作のドレスですよね。とても素敵ですわ。最近のライラ様はとても幸せそうですから、私もあやかりたいと思っていますのよ」

「あ、ありがとうございます。貴女もそのドレス、お似合いですよ」


 嫌味かと思ったけど、朗らかな雰囲気だし、いったい何が起こっているの?


「今までライラ様にはきつく当たってしまって、ごめんなさいね。私たち勘違いをしていたものですから」

「勘違い?」

「ライラ様がサーシャ様からカール様を奪ったんだって、サーシャ様ご本人から聞いていたので。でも、それももう関係ないことでしたわね。ライラ様にはマヌエット様がいらっしゃるんですもの」

「はい」

「これからは仲良くしてくださいね。お二人の邪魔をしてはいけませんから、今日はこれで失礼しますけど」


 そう言って去っていく令嬢のうしろ姿を見つめていると、また別の令嬢から同じように声を掛けられ謝罪された。


 本当に意味が分からない。


 それでも、二人目は『ライラ様はレオン様と親しいそうですね。是非紹介していただきたいわ』という一言があったため、やっと事情を把握することができた。


 彼女たちはレオン様狙いなんだろう。

 公爵家の夜会で私とレオン様が踊った話をどこかで耳にしたのかもしれない。

 でも私を頼られても困るんだけど。


「派閥の家の令嬢たちがああでは、テーバー家は本当に終わりのようだね」

「テーバー家? レオン様ではなくて?」

「レオン王子? 彼女たちが手のひらを返したのは、デニラ家とテーバー家が婚約破棄で争っているからだよ」

「婚約破棄って、カール様とサーシャ様がですか?」

「そうみたいだね」


 バラ園のあの出来事がきっかけだったのかもしれないけど、まさかそんなことになっているとは。

 そこまで拗れてしまっているなんて。


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