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02 事件発生

 その日も『ちょっと知り合いに挨拶してくるね』そう言って放置されてから、かなり時間がたっていたと思う。


「本当に貴女ってどこにいても目立つわね」

「え?」


 声を掛けてきたのは伯爵令嬢や子爵令嬢の一団。この人たちは、テーバー伯爵家のサーシャ様のご友人。なぜか私はサーシャ様に目の敵にされていて、隙あらばこうやって徒党を組んで絡んでくる。


「あら?」


 でも今日はそのサーシャ様本人が見当たらない。


「ねえ、ライラ様。わたくしたちのお話し相手になってくださらない」


 表情や言い方からして、いつも通り好意的な感じはまったくしない。しかし、断りたくても周りを囲まれてしまっては身動きがとれそうにない。

 カール様と離れてから、ずっと兄を探していたのに会場が広すぎて合流できなかった。その前に、私の方が令嬢たちに見つかってしまったようだ。


「どうしたら、そんなに大きくなれるのかしら。教えていただきたいわ」

「皆さんご覧になって。ドレスがはちきれそうよ。ライラ様みたいな方を豊満と呼ぶのかしらね」

「これ、わたくしたちが身に着けているドレスと同じ最新のデザインですのよね。形が変わりすぎて到底見えませんわ」


 そう言いながら、令嬢たちは私に蔑んだ視線を向ける。


 たしかに、私の体型はそこに集まっていた令嬢たちに比べれば、かなりふくよかだろう。

 身体が大きくて目立つ分、ドレスは色を抑えて地味なものを選んでいる。それでよけい野暮ったく見えるのだろうけど、そんな姿形のことより私は壁と同化できる方が嬉しかった。


 そんな私の思いとはうらはらに、そうそうに彼女たちに発見されてしまったようだ。


「ここでは音楽が邪魔ですわね。あちらへ参りましょうか」


 令嬢たちは王宮自慢の庭園を見つめている。そこは大広間のバルコニーから出入りができるようになっていた。

 行きたくなくても、大勢で囲まれた上に腕を掴まれて誘導されてしまえば、私はその場から逃げ去ることができない。


 王女様の生誕祭という晴れの日に、ここで私が騒ぎを起こすわけにもいかないし、彼女たちもひと通り嫌味を言いつくせば解放してくれるだろう。


 そう思って我慢することに。だけど、その日はなぜかいつもの令嬢たちとは様子が違っていた。


 庭園の中でも人がこないような暗がりに私は連れて行かれて、そこで掴まれていた腕を離される。これから今日もずっと嫌みを言われるのかなと思っていたら、


「任せたわよ」


 令嬢のひとりが、小さな声でそう言うのが聞こえた。


 そのあとその令嬢は、私には何も言わず、他の人たちを連れて足早に大広間の方へ戻って行ってしまった。


 こんな場所にひとり放置された意味がわからない。私がその場に立ち尽くしていると、突然別の方向から声を掛けられた。


「モンヴール家のライラ?」


 名前を尋ねられた方向を見ると、暗闇からひとりの男性が姿を現す。


「どなた?」


 本当だったら不審者相手に、こんな無防備に話をしている場合ではなかった。すぐに私も大広間へ帰るべきだったのに、令嬢たちの後を追う気になれなかったこともあって、この時この男から逃げることを選ばなかったのが、そもそも間違いだったのだ。


 今思えば本当に考えなしだったと思う。


「血筋しか取り柄がないくせに、恥ずかしげもなくもったいぶるなんてほんと笑えるよ。おまえが選べる立場なのはモンヴール伯爵家の娘だってだけだからな」


 男がいきなり私の悪口を言い出した。


「そうでなければ、誰が好き好んでお前のようなデブに婚約の申し込みをすると思う。家のためだから、仕方ないと思っていたが、それでも俺が選ばれないのは、カールより劣っていると馬鹿にされているようで腹が立って我慢ならない」

「婚約の申し込み? カール様?」

「ああそうだ。カールを夫にしたところで、本当の意味で妻としては望まれないおまえを、正式に決定する前に優しい俺がかわりに娶ってやると言ってるんだよ。有り難く思え」


 その男はそう言ったかと思うと、いきなり私に抱き着いてきた。


「いや、やめて」


 抵抗してもがいたけど、いくら私が太っているといっても男性の力に敵うわけがない。


「既成事実さえあれば、俺と結婚するしかなくなるだろ。騒いだところで、もう遅い。お前は慕っていた俺と気持ちが昂ってこうなったと噂話が広がることになってるからな。諦めていうことを聞けよ」

「そんな、どうして」

「おい、あばれるな。おとなしくしろって」


 ビリッ!


 それはドレスが破れる音だった。


「うそでしょ!?」


 どうしよう。貞操の危機だ。

 その上、本当にこんなところを誰かに見られたらただではすまされない。


 目の前の男を何とか張り飛ばして逃げないと。そうは思っても焦るばかりで結局どうにもできないし、恐ろしくて涙まで出てきた。視界が曇って前も見えない。


 私は絶体絶命の危機に陥っていた。


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