18 そんな勘違いをされていたとは
オーランド様が予約した休憩所は、五段ほど階段を上がった先にある、高床式のガゼボだった。
「結構高いですね」
そこからは園内が遠くまで望めるので、満開のバラが絨毯のように見えて、まるで絵本の中にいるような気分だ。
「ライラ! 危ないから、あまり身体を乗り出さないで」
「あ、はい、気をつけます」
見る位置を変えて、すべての方向から景色を堪能したあと、私たちと入れ違いでモンヴール家の護衛が置いて行ったバスケットケースを私は広げ始めた。
そして造り付けのテーブルの上にクロスを広げて、食べ物を順に並べる。
「とっても美味しそうだね」
「本当に美味しいんですよ。うちの料理長の腕は私が保証します」
本当に何を食べても美味しいから、私の食欲はとどまることがなかった。
「そうなんだ。それで、ライラが作ったのはどれ?」
「作ったというか、ただ挟んだだけなので、胸を張ってこれですって言えるものではないんですけど」
そう言いながら私はオーランド様の目の前に、バゲットが入っている籠を差し出す。
それにはハムやチーズ、他にもいろいろな具材が挟んである。見た目や、選ぶことを楽しめるように、料理長と相談しながらたくさんの種類を作ったのだ。
「ゆで卵をつぶしたって言ってたよね? これ、ひとつもらうよ」
「はい、どうぞ」
たまごサンドを手に取ったオーランド様を横目に、私は携帯ポットからお茶をカップに注いで、オーランド様と自分の分を用意する。
「ありがとう、ライラも一緒に食べよう」
「はい。では、私も同じものを」
たまごには私が調味料で味をつけた。だから、私好みではあるけど、それが一般的に美味しいと思われるかはわからない。オーランド様は気に入ってくれるだろうか。
「いただきます――うん、美味しい。結構胡椒がきいてるけど、それがいいよ」
「本当ですか? オーランド様のお口に合ってよかったです」
それから二人で、美味しい料理を頬張りながら、バラの花を上から観察して、感想を交わしながら過ごした。
おかげで、今日は食べすぎちゃったけど、一日くらいはヴァレリア様も許してくれるだろう。
「ライラはすごく美味しそうに食べるよね。だから、料理を作った人は嬉しいんじゃないかな」
「だって本当に美味しいんですもの」
私がそう返事をすると、オーランド様が少し首をかしげる。
「でも、最近は食が細っているんじゃない? 何か……悩んでいるなら、僕が相談に乗るよ。僕に話せることであればだけど」
ダイエットの成果が出て、痩せ始めただけなのに、それをオーランド様は何か勘違いをしているようだ。
「えっと、私は食べられなくなったわけではありませんよ」
「そう、でも……」
私を見つめながら納得がいかないようなオーランド様。
「私……ダイエットしてるんです」
「ダイエット? つらいことがあって食事が喉を通らなくなったわけでも、悩んでやつれたわけでもないの?」
「はい。そんなこと一度もありません」
少しだけ体重が落ちただけなのに、それをまさか、やつれたなんて勘違いされるとは思ってもみなかった。
「なんだ、僕はてっきり」
「てっきり?」
「僕との婚約のことを悩んでいるのかと思ったから」
「あ、それは……」
何て返事をしたらいいのかわからず、私は口ごもってしまった。
「返事ができないってことは、やっぱりライラは――」
オーランド様が何かを言いかけた時だった。
「ライラ? ライラだよな?」
私たちがいるガゼボの斜め下から誰かが私の名前を呼んだ。
こんなところで知っている人に会うなんて。私は上から声をかけた主を探す。
「あっ」
そこでこちらを見上げていたのは、ヴァレリア様の誕生祭を最後に、まったく姿を見ることのなかったカール様、その人だった。




