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17 ふたりの距離

 どうすればいいんだろう。

 オーランド様と手をつないだのはいいけど、私も握り返していいんだろうか?


 ダンスをした時にも手はつないだけど、あれはそうしなければ踊れないからだ。だけど今は、オーランド様が私の手を掴んでいるので、迷子になることはまずない。


 たぶん私はそのままにしていればいいと思う。だけど、自然を装おうと思えば思うほど、腕には力が入るし、手のひらを同じ形でキープすることばかりに気を取られてしまって、右腕がつりそうだ。


「ライラは何色のバラが好きなの?」


 そんなことを気にしていた私に、オーランド様が周りを見渡しながら質問してきた。

 私たちは三百六十度バラに囲まれた幻想的な世界に二人きり。だったらいいけど、デートスポットだけあって、そこら中、男女の二人連れだらけだ……。

 それは、入園できるのが今だけだから、恋人たちが押し寄せるのは至極当然の話。


「真っ赤なバラも好きですけど、白やピンクもかわいいと思います。でもここに来てオレンジのバラもいいなって思いました。あそこにもちょうどありますね」


 道の先にオレンジ色のミニバラが咲いていたので、それに向けて私は指をさした。


「オレンジか。ライラの色だね」

「私の色?」

「僕のライラのイメージは太陽なんだ。だから色でいうとオレンジとか黄色がライラっぽいんだよ」

「太陽ですか?」


 なんかよくわからないけど、そう言えばオーランド様から贈られた詩には太陽という言葉がよく出てきたと思う。

 あれはもしかして私のことなのだろうか? 家に帰ったら、もう一度しっかり読んでみよう。


「オーランド様は何色がお好きなんですか?」

「それはもちろんオレンジだよ!」

「そうなんですか。私と同じですね。なんとなくですけど、男性は白とか薄い紫とかそんな色が好きなのかと思ってました。兄がそうですから」

「いや、そうじゃなくて……」


 オーランド様の左手に力が入った。

 私がいらないことを言ったせいだろう。私といてもつまらないと思われたら、この幸せな雰囲気を壊してしまうかもしれない。


「ごめんなさい、オーランド様はオレンジが好きなのはわかりました。変なことを言ってすみません」


 私が謝ると、オーランド様は右手で自分の頭をかいた。

 オーランド様のおかげで今日はなんとなく本物の婚約者っぽかったのに、私が台無しにしてどうする。話題を変えなきゃ。


「えーっと、今日のランチですけど、私も作るのを手伝ったんです。いろいろご用意したので楽しみにしていてくださいね」

「ライラが? それはすごく嬉しいよ」


 困ったときには食べ物の話に限る。人は美味しいものを想像すると幸せな気分になるのではないだろうか。

 オーランド様の顔に笑顔が戻ったから、あながち間違いでもなさそうだ。


「そう言っても、ゆで卵をつぶしたり、バゲットに食材をはさんだりしただけで、ほとんどが料理長の手によるものなんですけど」

「それでもライラが僕のためにつくってくれたんだよね。本当に楽しみで仕方ないよ」


 こんなに喜んでもらえてすごく嬉しい。


 これも兄のアドバイスのおかげだ。やっぱり、男性のことは男性に聞くのが一番。これからも何かする時は兄に相談することにしよう。


「あ、ライラ、危ない!」


 私が嬉しさで自分の世界に入っていると、オーランド様が、つないでいる手を突然引っ張った。


「「おふっ」」


 私がオーランド様の胸に体当たりしたせいで、お互い変な声が出てしまう。


「ごめんなさい」

「こっちこそごめん。そばに蜂がいたから刺されたら危ないと思って」


 オーランド様に左肩を掴まれたまま私が見上げると、オーランド様は蜂を目で追っているのか視線が私の後ろの方で彷徨っていた。


 それをいいことに私はオーランド様の顔をじっくりと見つめる。はあ、やっぱりこんなに格好良くて優しい人、他にはいない。

 オーランド様と婚約を破棄したら、どう考えたって彼以上の人に出会えるわけがない。そう思うと胸に鈍い痛みが走った。

 私は思わずドレスの胸の部分をぎゅっと掴んでしまう。


「あ、ごめん。蜂はどこかに行ったみたいだ」


 オーランド様はそう言うと、私から手を放した。それは掴んでいた左肩だけではない。つないでいた右手もそれと同時に放たれた。


「ありがとうございます。おかげで刺されずにすみました」

「ああ、だけどまた飛んでくるかもしれないから気をつけながら行こうか。この案内図だと、予約している東屋ももうそこだと思うんだ」

「そうですね」


 歩き出した私たちの間には、二人きりの時と同じような空気が流れていた。


 今更思っても遅いけど、手を握り返しておけばよかった。

 オーランド様から手を放されてしまっても、私が握ってさえいれば、ずっと離れずにいられたかもしれない。


 だけど、オーランド様に私が近づきすぎると、必ず距離を取られてしまう。それが彼の本心だとわかってはいても、ずっと一緒にいたいという気持ちが消えてくれない。


 どうしよう。


 あともう少しで、私は彼に別れの言葉を伝えなければいけないというのに……。


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