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16 これはデートですか?

 オーランド様が誘ってくれた『王妃様のためのバラ園』は、何代か前の王妃様の御心を癒すためにつくられた庭園だ。

 代替わりの度に、その時代の王妃様の好みにあった庭を増設していったそうなので、今ではかなり広大な施設になっていると、次の日に兄が教えてくれた。


 一般に公開すると言っても、それは貴族だけだし、事前に予約も必要なので、バラ園に危険な人物が入り込むこともない。安全性が高いので、護衛の目を気にせず二人きりになりたい婚約者同士には人気のデートスポットらしい。


「飲食してもいい休憩場所が何ヵ所かあるから、みんなそこでピクニックを楽しんだりもしている。午前中に出掛けて行くならバスケットケースに食べ物や飲み物を詰めていくといい。他で食事をする予定がなければだがな」


 私は兄と紅茶を飲みながら、明日の話をしていた。悲しいけど、私の前にお菓子は用意されていない。


「オーランド様に確認してみて、ピクニックでもいいのなら、ペトラお姉様のように私も何か作ってみようかしら」


 簡単なものしか無理だろうけど、オーランド様を想いながら用意するのも楽しいと思う。

 しかし、せっかく作っても、オーランド様がレストランを予約していたら、無駄になってしまう。


 私はすぐに、そのことを確認するため、侍女にお使いを頼んだ。


「お兄様もヒルダ様とお出かけしたら」

「すでに行った」


 さすがは兄。

 こういうことには抜かりがない。流行りはすべて押さえてあるんだろう。


「他にも情報があったら教えてほしいわ」


 私はあごの下で手を合わせて、兄にお願いする。


「そうだった。庭園の中にバラで仕切られた迷路があるんだが、ライラは絶対にそこには入るなよ。あれは下手をすると喧嘩になるからな」

「ヒルダ様と喧嘩をしたの?」

「まさか。喧嘩のもとは迷ってしまって出られなくなった者たちがイライラして機嫌が悪くなるからだ。実際、険悪な感じになって、言い合いをしていた者たちも見たしな。まあ、そこまでになるのは、もともとそれほど仲がよくなかったからだと思う」


 兄とヒルダ様はそれすらも二人で協力し合って楽しむだろうから言い合いになるわけがないし、そもそもこの兄が迷っている姿を私には想像できない。


「オーランド様に迷惑を掛けたくないし、間違って入ってしまわないように気をつけるわ」

「あとは、天気によって肌寒いときもあるから羽織れるものを持って行った方がいいと思う」


 それなら薄くて大きめのストールにしよう。邪魔にならないし、他にも役にたつかもしれない。


「ありがとうお兄様! 本当に明日が楽しみだわ」

「よかったな。ライラの相手がオーランド殿に決まったおかげで、私も心配事がひとつ減ったから、本当に有り難いと思ってる」

「そうですか……」


 でもごめんなさい。

 せっかく安心できたところ、本当に申し訳ないけど、いずれ婚約は白紙になってしまう。


 その後もずっとモンヴール家で面倒を見てもらおうと思ったけど、私が居座るのはヒルダ様にも悪いし、やっぱり、婚約を破棄したあと、他に私と結婚してくれる相手を探さないといけないかもしれない。

 そんな人いるんだろうか……。



 そのあと、私はお兄様にお礼を言ってから、料理長の元に私が作れるものを相談に行った。



 翌日は雲ひとつない晴天に恵まれた。私は、迎えにきたオーランド様の馬車で『王妃様のためのバラ園』へと向かっている最中だ。

 オーランド様から『ライラとピクニックができるなら大歓迎』だと返事が戻ってきたので、早起きして私もお弁当作りをはりきった。


 そうして用意した大きなバスケットだけど、護衛が持っていくというので任せてある。バラ園でも、予定している休憩所に届けてくれるそうなので、私たち自身は荷物を持つ必要がなく、オーランド様の負担にもならないから安心だ。


 郊外に位置するバラ園に一時間ほどで到着すると、すぐにオーランド様が受付を済ませてくれた。そして、私たちは二人で、入口になっている真っ赤なバラでできたアーチをくぐった。


「うわぁ、とってもきれい」


 中に足を踏み入れると、ちょうど見ごろの鮮やかなバラたちが私たちを迎える。

 ここは両側に何色ものバラが植えてあり、それがメインの庭園まで遊歩道のように続いているそうだ。

 親切に道順の立て札があって、これに沿って歩いていけばすべて回れるようになっているらしい。


「オーランド様、足は大丈夫ですか。また来ればいいですし、今日中に全部見る必要はありませんから無理はしないでくださいね」


 それはたぶん、私ではない、誰か別の女性とになるんだろうけど。


「足? 全然平気だよ? ライラの方こそ疲れたらすぐに言って。ピクニック用に頼んでおいた東屋はそれほど遠くないから、そこまでで折り返してもいいしね」

「わかりました。私も無理はしませんから、オーランド様も足が痛んだら言ってくださいね」


「うん? そうするけど、僕は見た目ほどやわなわけではないからね」

「それはわかってます」

「そう? では、行こうか」

「はい」


 綺麗なバラに目を奪われながら、しばらくはオーランド様にぶつからない程度の距離をとって私は歩いていた。


「ライラ、あの……」

「はい」

「手を……つなごうか」

「はい?」


 まさかの、オーランド様からの提案に私は驚きすぎて一瞬固まってしまった。


「はぐれたら困ると思ったんだけど、そんなこともなさそうだから、やっぱりやめておこう」

「いえ! 私、迷子になる自信はあります。ですから、オーランド様がかまわないのなら、私と手をつないでいてください」


 私がそう言って手を差し出すと、オーランド様が恐る恐るその手を取る。


 しっかり握られたその手を見て、私は思わず興奮してしまった。でも、そんなことがオーランド様に伝わったら困るので、一度大きく深呼吸をして心を鎮める。


 だけどこれって本当にデートみたいじゃない?


 そんなことを思って喜びを噛み締めていると、となりでオーランド様も私と同じように大きく息を吸っていることに気がついた。


「あ、バラの香りがする」

「本当ですね」


 オーランド様のつぶやきに私は同意した。ふたりで深呼吸をしたから、同じように香りを思いっきり吸い込んだからだろう。

 オーランド様と一緒。ただそれだけなのに、なんだかとても嬉しい。


 今日は本当にいい日になりそう。そんな予感がした。


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