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「さあ、行きましょう」

「ライラ、ちょっと待って、当たってるから」


 オーランド様は怪我をしている場所が靴に当たるようで痛がっていた。オーランド様の足元を見たけど、患部がどうなってるかなんて、靴を履いているからわかるわけがない。


「あ、嫌がっているわけじゃなくて、心の準備が……」


 私が足を見つめて考えこんでいると、オーランド様が慌てたようにそう言った。


 それはわかってる。

 たぶん、歩き出すと痛みが走るんだろう。だから、私が強く腕を引っ張って無理をさせるようなことがあったらいけない。オーランド様に合わせて慎重に行動しなければ。


「よしっ」


 オーランド様が私側に身体をあずけても大丈夫なように、自分の両腕を使って、オーランド様の左腕を抱きかかえるようにしてからめてみる。

 本当は私の肩に腕を乗せてくれた方が歩きやすいんだけど、平然を装っているオーランド様がそんなことをするわけがない。だから、不自然にならない方法が私にはこれしか浮かばなかった。


「大丈夫です。私がオーランド様に合わせますから」

「ライラ? 本当にどうしたんだ。今日の君の言動が僕にはまったくわからないよ」


 私はそんなに不審がられることをした覚えがないんだけど。


「そんなことして、それで僕に合わせるって、本当にそれがどういうことか、わかって言ってるの?」

「はい。私はそのつもりですが」


 そこまで痛いなら、私が背負って帰ればいいとさえ思ってる。だけど、さすがにそれはオーランド様の沽券にかかわるだろうからやりはしないけど。


「とにかくおうちに早く帰りましょう」

「はあ? 飴と鞭なのか……ライラは恋人ごっこがしたいのか、早く帰りたいのか、いったい何を望んでいるんだ? 僕には本当に意味がわからないよ」


 オーランド様の言っている、恋人ごっこは腕を組んでることだと思う。そう言われてみれば、こんなに近づいたのは、初めて会った時以来だ。


 それに気がついたので、私は急に恥ずかしくなってしまう。顔に熱を帯びている自覚があるから、絶対に赤くなっているだろうし、私がドキドキしていることを悟られたくなくて、オーランド様の方を見ることができなくなった。


 それでもオーランド様が転んでしまわないように、腕だけは放さずにぎゅっと掴み続けた。


「ここでこんなことをしていたら、僕の身が持たない。本当に帰るからね」

「はい」


 やっと歩き始めた彼に合わせて、とりあえず私も歩を進めることにした。


 こっちに体重をかけてもいいのに、どうやらオーランド様は私に気を遣って逆側に力を入れている気がする。


 本当に私は役立たずだ。


 それでも、ホールを出て馬車に乗り込むまでは、ずっとオーランド様に腕をからめたままでいた。

 オーランド様が馬車に乗り込んで、席に座ったのを見届けてから、私はやっと安心できたんだけど……。


 足の痛みのせいで動きにくいのだろうか。


 いつも逆側の窓にくっつくようにして、私とは最大限距離を取っているオーランド様が、なぜか真ん中よりに座った。だから今日は私と身体が密着している。


 あまりにもぴったりとくっつきすぎているから、もう少しあっち側にずれてほしいと思っても、足を痛めているオーランド様にそんなことは言い出せない。結局そのまま馬車が走り始めてしまった。


「明後日は『王妃様のためのバラ園』へ行こうと思っているんだけどライラは大丈夫? この季節だけ一般に公開されているんだって。ライラは行ったことがあるかい?」


 いつもと違ってオーランド様が私に話しかけてきた。驚きながらも彼の方に顔を向けてみたら、笑顔のオーランド様とすごく距離が近い。


「バラ園にはまだ行ったことが――うっ」


 返事をしようとしたところで、ちょうど道が曲がっていて馬車が大きく揺れた。踏ん張ることができず、オーランド様の方に私は身体が倒れてしまう。


 オーランド様は受け止めてくれたけど、彼を押しつぶしてしまったらどうしよう。それが一番に頭に浮かんで私は青ざめてしまった。


 気になってオーランド様の顔を見ると、目があった彼は、思った以上につらそうな表情をしていた。やはり私が重かったんだろう。


「すみません」

「僕は大丈夫だよ。それよりライラがバラ園にまだ行ってなくてよかったよ。今はバラが満開でとても素晴らしいんだって」

「私は行ってみたいですけど、オーランド様はバラ園でいいんですか」


 足を負傷しているのに園内を歩けるんだろうか。


「僕? こう見えてわりと花を見るのは好きなんだよ」


 そう言えば、もらった詩にも花の記述が多かったような。

 オーランド様は咲き誇る美しいバラを愛でたいのだろう。だったら無理をして歩かないように気をつければいいか。


「そうですか。でしたら楽しみにしてます」


 私が返事をすると、オーランド様は席の場所を少しずらしていつもの定位置へと座り直した。



 今日はせっかく話しかけてもらえたというのに、そのあとはまたいつものように沈黙が二人の間に降りてしまう。


 すべては、私が体重をかけてしまったせいだ。


 それに本当に今日は失敗続きだった。オーランド様との素敵な思い出作りは、今度こそバラ園で頑張ろうと思う。


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― 新着の感想 ―
[一言] うん。明らかに言葉が足りてなくてオーランド様困惑してるね(笑)
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