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14 どっちがつらい?とは聞けません

 レオン様とのダンスを終えてから、私はオーランド様の元へと戻った。だけど、そこに一緒にいたはずのヴァレリア様の姿が見当たらない。


「ヴァレリア王女殿下から『公爵様にご用意いただいた休憩室で休んでいるので、レオン王子殿下に迎えに来てほしい』との伝言を預かっております」

「そうか。放っておいたから、姉上は機嫌が悪くなっているかもしれないな。僕たちはこれで失礼すると思うが、二人はこのあとも楽しんでいくといい」


 レオン様はそう言ったかと思うと、私の左耳に、その端正な顔を近づける。そして私にしか聞こえない小さな声で、とても大事なことを教えてくれた。


「きっとオーランド殿はライラに足を踏まれた痛みで歩くこともままならないはずだ。ライラに同じように踏みつけられた経験がある僕が言うんだから間違いない」


「やっぱり!?」


 レオン様は、私にこっそり、オーランド様の怪我について教えてくれた。それを聞いて大きな声を出しそうになった私は、慌てて口元に手を当てて音量を落とす。


「ライラに心配と罪悪感を持たせないように、必死に我慢して平気なふりをしていると思う。たぶん口では大丈夫だと言うだろうが、そんなことは無視して歩く時はライラがちゃんと支えてやるんだぞ」

「はい……レオン様もそうだったんですね。申し訳ありませんでした」

「いや、僕のことは気にしなくてもいい。そんなにやわではないからな」


 そう言ってレオン様は、私から離れた。でもその前に、私の頭を小さな子どもにするような感じで、ポンポンと軽く二度ふれる。


「ん?」


 そのあと『ライラをよろしく頼む』とオーランド様に一言声をかけてから出入り口の方へ歩いて行ってしまった。


 レオン様より私の方が年上なんだけど……私の言動では、子ども扱いされてもしかたないか。


 ふとオーランド様を見ると、そんなレオン様の後姿を眉間にしわをよせてずっと見つめていた。気を抜くとしかめ面になってしまうくらい怪我がひどいんだろうか。


「オーランド様? 私たちも帰りませんか」

「僕たちはまだ来たばかりじゃないか。それともライラは、今日はもうここにいる意味がないと思ってる?」


 今日の目的はオーランド様とダンスを踊ることだった。だから、確かに目標は達成している。

 だけど、レオン様に苦言を呈されたように、床ばかり見ていたし、オーランド様に怪我まで負わせてしまったので、私が希望していた『オーランド様と一緒にダンスを楽しむ』とは程遠かった。


 そうだとしても、踊ることができなくなってしまったオーランド様に無理をさせるわけにもいかないし、何より、怪我の手当ては早くした方がいいと思う。


「そうですね。私は十分楽しみましたから」

「そうか――ライラが帰りたいと言うなら僕はそれでかまわないよ」


 他人の目がある場所では、いつも笑顔でいるオーランド様が、真顔のまま立ち上がった。私は急いでその横に並ぶ。


 そして、オーランド様の脇にそっと手を入れた。


「ひゃ!? 何?」


 私の行動にオーランド様は驚いて固まってしまった。


 ただ、目だけが、ダンスの時と同じように何度もぱちぱちとまばたきを繰り返しているから、かなり焦っているように見える。


 先に声をかけたら、絶対に断られるのがわかりきっている。拒否される前に腕を確保したくて、私は無言のまま行動に出た。


 その私の思いがけない態度のせいで、オーランド様はいつものように上手に取り繕えないんだと思うけど、その困っている姿で少し悲しくなった。それが私の自業自得だとしても。


「ごめんなさい。えっと、婚約者同士は腕を組むものだと思ったので、つい」


 私が身体を支えることで、オーランド様の自尊心と、怪我の原因になった私を思いやる気持ちを無視することになったらまずい。

 うまい言葉が思いつかなくて、とっさに口から出た言い訳は、たまたま目に入った仲睦まじい男女のそれだった。


 お嫌ですか。

 なんてことも絶対に聞けない。嫌だと言われたら立ち直れないし、オーランド様の杖になることもできなくなってしまう。


「急にどうしたの? ライラは人前でこういう事をすることに抵抗があると思っていたんだけど」

「そ、そうですか? 私も年相応に憧れはあるんですよ」

「でも、こんなところをレオン様に見られたら、ライラは困るんじゃないの」

「レオン様?」


 私が言いつけをちゃんと守らないければ、また怒られてしまうかも。


「そうですね。ですから、このまま一緒に歩いてください。私たちは婚約者なんですから、おかしくありませんよね」

「ライラの言っている意味がわからない」


 私と歩くのはおかしいですか。そうですか。


 わかってはいても、面と言われたら、かなり傷つく。でも今日だけは譲れない。


 オーランド様は不服かもしないけど、私といることで恥ずかしい思いをするよりも、我慢して痛い足で歩く方がつらいはずだ――私はそう思いたい。


 その選択も、私が立ち直れなくなりそうなので、あえてオーランド様に選ぶ権利は渡しません。


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