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13 やればできる

「僕はどうしてもの事情がない限り、公の場では踊ったりしない。だから、ライラは僕に恥をかかせないようにちゃんと踊るんだぞ」


 だとしたら、ただでさえお互い違う意味で目立つのに、レオン様と私は、今までダンスをすることがほとんどないもの同士ってことで、絶対に人の目を引くではないか。


「そんな……でしたら、やめませんか。レオン様が私となんて踊ったら、ダンスが下手以前にフロアに立っただけで笑われてしまいますよ」

「それはかえって好都合だ。誰かを蔑むような奴は全員顔を覚えておいて、兄上にも知らせる」

「レオン様ご自身が笑われるわけではないのにですか?」


 失笑されるのは私。

 レオン様は元々美しすぎるから、引き立て役にもなりはしない。私の容姿でよく隣に立てるなと馬鹿にされるのがおちだ。

 その相手をしているレオン様も、不思議がられるとは思うけど。


「僕たちはそうやって臣下を見極めていかなければいけないからな。ほら曲が始まるぞ」


 レオン様はそう言いながら私の手を取って、人の輪の中に加わった。

 それが曲の出だしと同時だったので、こちらを見て何かをつぶやき始めた周りの人たちのざわめきがかき消される。レオン様はタイミングを計って私をエスコートしたんだろう。

 そうでなければ、悪口が耳に入った私は、また逃げ出していたに違いないから。


「オーランド殿と踊っていたライラは本当に無様だった。まるでライラのダンスを初めて見た時のようだと、姉上も心配していたぞ」


 レオン様は、難しいステップを踏みながらも余裕で私に話しかけてくる。


「前が……見られなかったんです。恥ずかしくて」

「僕とはこうやって平気で向かい合っているのに」

「レオン様はダンスの先輩兼先生ですから。それに真面目に取り組まないと機嫌悪くなるじゃないですか」

「僕はできることを努力しないで言い訳ばかりしている者が嫌いだからだ」

「それって私のことですよね」


 私には兄だったり、ペトラお姉様だったり、逃げ込む場所があったから、二人の陰に隠れることがいつも当たり前になっていた。


「自覚があるのならそうかもな。でも僕は変わろうとして頑張っている者は応援する。ライラも僕に見限られたくなかったら、そのまま努力は続けろよ」


 ダンスについては、これまで生きてきた中で一番というほど頑張った。だからレオン様は、懲りずにずっと付き合ってくれていたんだと思う。


「はい。ありがとうございますレオン様」


 私への返事なのか、その美しい顔に笑顔を浮かべるレオン様。

 王族は雲の上の人だと思っていたから、今まで興味を持つことがまったくなかった。だから、レオン様のことはよく知らなかったけど、たぶん、この見た目も性格も完璧な王子様に、片思いしている令嬢は多いんだろう。


「は!」


「なんだよ、いきなり」

「すみません。なんでもありません」


 その憧れの王子様と踊っている私って、間違いなく羨望の的だ。また、敵視してくる令嬢が増えるかも。 


「いや、今日は叔父上たちが文句を言うような輩は招待していないはずだ。だから大丈夫だぞ」


「そうなんですか。それはよかったです。ってなぜ私が思ったことがわかったんですか」

「僕の笑顔に見惚れてから、少し考えて、それでやばいって顔をしたからだ。僕に惚れてしまったかとも思ったが、ライラにはオーランド殿がいるからな」


「見惚れてはいません」


「ライラ、その発言は失礼だと思わないのか」

「あ、そうですね。申し訳ございません」


 レオン様が片眉を上げながらおどけて言うので、私も笑いながら謝っておく。


 レオン様は王子様だというのにとても話しやすい。

 ううん。多分私が話しやすいように、そうしてくれているんだろう。ほかの人と話をしていたレオン様は、私と接する時とは態度が違ったから、きっとそれぞれに合わせているんだと思う。


 レオン様はすごい人だ。


 その後もたわいない会話をしていたけど、下を向くことはなかったし、ステップも一度も間違えることなく、レオン様と一曲を踊り終えることができた。


 うん。やればできるんだ。私も。


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