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12 オーランド様とダンスを

 床を見たらだめだ。

 そう自分に言い聞かせても、オーランド様の顔を見ることができないから、どうしても視線が下がってしまう。だけどこんな陰気な私と一緒にいてオーランド様が楽しいはずがない。

 だから私は頑張って笑わなければ。

 意を決して前を向くと。


 え!?


 何故かオーランド様のまばたきの回数がすごいんだけど。顔も赤いし、なんか手のひらも汗ばんでいるような……。

 あ、それは私の手が湿っているからか? そんなことはどうでもいいけど、もしかしたらオーランド様は具合が悪いの?

 だったらダンスになんか誘ってしまって本当に申し訳ない。


 心配になった私は、オーランド様の顔色を見るために、ステップする時に大きく前に踏み込んで近づいてみた。


「え!? ライラ!?」


 それに驚いて、オーランド様は私から距離をとるため、うしろにのけぞってしまう。


「あ、ごめんなさい……」

「こっちこそごめん。ライラが謝る必要なんてないから。僕が慣れてないだけだよ」


 そう言いながらも横を向いてしまうオーランド様。具合が悪いのかと思ったけど、実は本当にダンスが苦手だったのかもしれない。

 それなのに、私が無理をさせてしまったんだ。


「私たち、そこまでして仲のいいふりをしなくてもいいと思うんです。オーランド様、もう無理はしないでください」

「仲のいいふり? 僕は無理なんて……」

「オーランド様は優しすぎます。仲の良い婚約者を演じるために、そこまで我慢しなくてもいいですから」

「我慢? 僕が我慢しなかったら――君は」


「え!?」


 さっきまで私と距離をとろうとしていたのに、突然オーランド様の様子が変わった。私の腕をつかむ手に力が入る。

 そしてそのまま怖い顔をしたオーランド様に引き寄せられた。なに? どういうこと?


「あうっ!」


「あああ、ごめんなさいオーランド様」


 急変したオーランド様の態度に戸惑ってしまった私は、引っ張られた際によろけて、オーランド様の足を思いっきり踏んでしまった。しかも最悪なことに片足に全体重が乗っていた。


「お怪我されてませんか?」

「僕は大丈夫だから気にしないで」


 そう言っても、オーランド様は無理して笑顔を作っているように見える。やっぱり足を痛めてしまったんだ。どうしよう。


「本当に平気だから。もうすぐ曲も終わる。ライラはそのまま踊り続けて」

「わかりました。これが終わったら、ペトラお姉様に休憩できる場所を聞いてきます」


 その後、一曲踊り終わってから、私はオーランド様と一緒に壁際に置いてあった椅子で休んでいた。


 ペトラお姉様からは中庭に降りていいと言われたけど、怪我をしていることを隠そうとしているオーランド様をそこまで連れていくのはどうかと思ったし、オーランド様自身がこの場所でいいと言ったからだ。


「ライラは何か食べたいものを持ってくるといい」

「いえ、それはちょっと……」

「どうかした?」

「今は食欲があまりないので。私よりオーランド様はいかがですか。私が取ってきますよ?」


 ヴァレリア様に制限されているから好き勝手に食べられない。とはオーランド様には言えない。


「僕はいいよ」

「そうですか」




 やっぱり二人きりだと話がはずまない。

 ホールから流れてくるワルツの音が響いているので、静かなわけではないけど、それでも沈黙が続くと、私が面白い話などできるわけがないのに、何か話さなければいけないと焦ってしまう。


 ヴァレリア様には怒られるかもしれないけど、料理は美味しそうだったし、こっそり取りに行っちゃおうかな。

 食事をしている間、口は食べ物に集中できるから喋らなくても時間が潰せるし。


 私が席を立とうと腰を浮かしかけた時、あちらからやってくるヴァレリア様と目があってしまった。


「どこへ行くつもりでしたの? ライラの分はわたくしがここに用意しましたわ。ほらレオン」

「あっちには美味しそうなケーキもたくさんあったぞ」

「ライラに余計なことは言わないでちょうだい」


 私はレオン様が差し出したお皿を受け取った。


「ヴァレリア様、レオン様、ありがとうございます」


 こちらから頼んだわけではないけど、私の分の食事を王族に運ばせてしまうなんて、不敬すぎて叱られないだろうか。

 それに私のことを嫌ってる令嬢たちに知られたら何て言われることか。


「それを食べてから。もう一度ダンスを踊ってこい。さっき見てたけど、また、だめだめになってたぞおまえ」

「うっそれは……明日からまた頑張りますので今日のところはお見逃しください」

「あんなに頑張って練習していたのは今日のためではなかったのか?」

「それは……」

「ライラ踊ろう」


 口ごもる私を見かねてオーランド様が手を差しのべてきた。


「オーランド様は足を痛めているんですから無理は禁物です。ひどくなったらどうするんですか。私のせいで歩けなくなったりしたら困ります」

「そんなに痛くはないから平気だよ」

「痛めてるって、もしかしてライラに踏まれたのか。僕も何度もやられているから、そのつらさはわかる」

「レオン様……」


 ここで暴露しなくてもいいんじゃないの。


「だったら、ライラ行くぞ」

「はい?」

「僕が相手になってやると言っているんだ」

「レオン様が? ですが……」

「オーランド殿、ライラを借りていくがいいか?」


「――はい」


「代わりに姉上を貸し出すので好きなように使ってくれ。何でも取ってこさせるといい」

「レオン、わたくしは給仕係ではありませんわよ」


 私はそのままレオン様に手を引かれダンスホールへと移動した。

 オーランド様とヴァレリア様は二人にしてしまって大丈夫だろうか。


「あいつは素直になれない性格みたいだからな。俺が手を貸してやろう。まずは嫉妬させてみるか」

「何を言ってるんですか」


 レオン様は勘違いしているようだけど、オーランド様が嫉妬なんてするわけがない。


 新しい曲が始まったので、私はレオン様と踊り始めた。

 私もレオン様相手ならちゃんと前を見てダンスができる。


 オーランド様ともいつかこんなふうに、楽しく笑いながら踊れるようになりたいと思っているけど、もう二度とそんなチャンスは訪れないかもしれない。


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