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11 夜会が待ち遠しくなるなんて

「最近楽しそうだなライラ。私が相手をしてやろうか」

「おかえりなさいお兄様」


 あれから、ヴァレリア様たちのダンスの練習時間には必ず私も参加するようにと言われているので、真面目に王宮に通っている。

 そのおかげでダンスの基本をしっかりと教わることができた。少しずつ先生にも褒められるようになってきたので、それが嬉しくて自宅でもひとり自主練習に励んでいる。


「今日は公爵家の夜会に招待されているのだったな。私は行けないがオーランド殿が一緒なら大丈夫か」

「ええ、今までは自信がなかったので、オーランド様とダンスはしたことがなかったんですけど今日は誘ってみようと思うの」

「どのくらい上達したか、私が確認してやるとするか」


 そのあと私と踊った兄はすごく驚いていた。

 王宮でも先生たちから合格点をもらっている。だから今なら人前でも恥ずかしがらずに踊れると思う。


 夜会がこんなに楽しみになるなんて、これもオーランド様のおかげだ。



 夕方になって、オーランド様が迎えにきた。

 夜会もお茶会も、帰りはすべて私の都合に合わせてくれるというので、今は毎回マヌエット家の馬車で送り迎えしてもらっている。


「オーランド様? どうかなさいました?」


 私のドレス姿を珍しく見つめるオーランド様。


 食事制限とダンス、あとヴァレリア様から渡された運動メニューのおかげで今までのドレスからサイズダウンしている。だから、胴のあたりが前よりは少しはすっきりしているはずだ。変化はわずかだけど、それに気がついてくれたのかな。そう思ったんだけど、なぜかオーランド様は眉間にしわを寄せていた。


「ああ、なんでもないよ」

「そうですか」


 痩せたね。なんて、女性の体型についての言葉は、誉め言葉として伝わらない場合があるから、もし気づいたとしても言うわけないか。


 馬車の中では相変わらず会話はほとんどなかった。それでも今日はオーランド様と踊れることが楽しみで、口元が思わずほころんでしまう。



 本日の夜会はザックス様とペトラお姉様が主催だから、いつもより気が楽だし、ヴァレリア様とレオン様もいらっしゃるらしい。

 馬車から降りてさえしまえば、隣には優しいオーランド様。この幸せはちゃんと胸に刻んでおこうと思う。


「公爵様、ペトラ様。本日はお招きいただきありがとうございます」

「オーランド君とライラ、今日は楽しんでいってくれ」

「ありがとうございます」


「ライラ、今日のドレスはとても似合ってるわ。あれから少ししかたってないのに、見違えるほどなのは恋をしてるせいなのかしらね」

「やだ、からかわないでペトラお姉様」


 オーランド様に気を使われちゃう。


「そうそう、ヴァレリア様たちも、もういらっしゃっているわよ」

「そうなんですね。探してみますね」


 ペトラお姉様たちへの挨拶を済ませたので、私はオーランド様にヴァレリア様たちを紹介するため探し始めた。

 ヴァレリア様たちは、王族主催でなければお茶会や夜会には滅多に出席しない。なので、こんな機会はとても珍しいのだ。


 今回はお二人の叔父夫婦がホストだし、もしかしたら少しは私のためもあるのかな。なんて自惚れるくらいは仲良くしてもらっている。


「ライラは王女殿下や王子殿下と友達なんだ。すごいね」

「親しくなったのは最近ですよ。こんな私にいろいろと力になってくれて、お二人ともすごく優しいんです」

「そうなんだ」

「あ、あそこにいました。オーランド様にご紹介しますね。行きましょう」



 ヴァレリア様とレオン様は一対のお人形のようで、どこにいても目を引いた。今までだったら生きている世界が違うと思って、近づくこともできなかった人たちなのに。


「こちらがヴァレリア様とレオン様」

「そちらがオーランドさんね。わたくしはヴァレリアです」

「ライラの婚約者はマヌエット伯爵家だって聞いてたから、どんな奴かと思ったけど、案外普通そうだな」


 普通って……。


「レオンの普通は誉め言葉ですわ。ライラが萎縮するような方だと心配になりますけど、オーランドさんなら安心できそうですもの」


「ありがとうございます。お会いできて光栄です。王女殿下、王子殿下」

「オーランドさんはライラの大事な方ですもの。そんなに堅苦しくしなくてもよろしいですわよ」

「いえ、恐れ多いです」


 たぶん、オーランド様はふたり相手に対してとても恐縮している。少なくとも私にはそう見える。


 考えてみたら、私だって、逆の立場で突然王族を紹介されたのであれば、二人を前にして絶対に緊張していると思う。


 オーランド様にも楽しんでもらいたいから、あまりお二人と一緒にいない方がいいのかな。


 そう思っていると、ホールにファーストダンスの音楽が掛かった。そうだ、今日はダンスを誘おうと心に決めていたんだった。


「オーランド様」

「なにライラ?」

「この曲が終わったら、私とダンスを踊ってもらえませんか。最近ダンスの練習を頑張っているので、人並みには踊れるようになったんです」

「――ダンス?」


 オーランド様の返事には間があった。


「あ、ごめんなさい。ダンスがお好きではない方もいらっしゃいますものね」

「いや、こっちこそごめん。次の曲だね。ライラと踊れるなんて嬉しいよ」


 そう言ったオーランド様だけど、一瞬躊躇したことに私は気がついてしまった。


 それは、馬車の乗り降りで、いつも私の手を取るときにみせる戸惑いと同じ。

 本当は、オーランド様は私にふれたくないのかもしれない。


 今日、初めてオーランド様と踊れることを、ひとりで勝手に楽しみにしていたけど……。


 馬鹿だな私。


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