神様の涙
夜空を見上げるといつも思い出す。
『星空ってのは、神様の涙なんだって! 神様は、いつも起こる事件や事故が悲しくて泣いてる。 その優しい心が夜空で光っているって』
たまたま親と喧嘩した日にちが一緒で、二人して公園から夜空を眺めていたときにその話を聞いた。 今でも夜空を見ると思い出す。
今はどこで何をしているんだろうな。
チュン…チッチチュン。
昨日の夜に開けた窓から光と鳥の鳴き声が漏れてくる。 星空とは違って見えてくる空は鮮やかな空色をしていた。
朝ごはんの準備は自分の仕事だ。 親は夜遅くまで仕事で朝は起きてこない。 一人っ子だから自分の事は自分でするしかないんだ。
朝の五時には目覚めて支度をし始める。 ご飯を炊き、おかずをどうするかを決める。
「確か…魚があったような」
親の分にラップをかけて、朝ごはんを始める。 つけたテレビからは芸能人の不倫の話で持ちきりだった。
ここ、雲乱町は都会というわけでもない。 だけど、周りに畑や田んぼが広がってるわけでもない微妙な場所だ。 大きな観光地もなく比較的静かな町ってところだ。
「やはり…最近は不倫が多すぎると思うんですよね。 どうなんですかね? やはりお金を持ちすぎるとこうなるんですかね〜?」
「あまり…過激な発言は…」
「いやいや…佐藤アナウンサー こういうときは、しっかり言う必要があるんですよ! 不倫なんてしてる芸能人はどうかと思いますよ!」
しっかり言うコメンテーターだなんて思う。 確か星月 要だったか? 最近はしっかりと発言をして意見を出していくことを売りにしているコメンテーターも多くなってきたように思う。
って…時間が少しまずそう。
「いってきます」
まるで家に行っているかのように小さな声で呟いてから家の鍵を閉めた。
鍵の音は俺の『いってきます』よりも強く響いた。
いつも学校には十五分前にはつくようにしている。 雲乱南高校が俺の通っている高校だ。 まぁ その高校を選んだ理由は家から一番近いって言うちゃちなものだけど。
冬休みを待つ学友達の横をはや歩きで通り抜け坂を少しづつ登っていく。
「おはよ! 理朽」
「おはよう 朝から元気だな。 真奈」
坂を登りきってすぐには、いつも通り真奈が待っていた。
彼女は幼稚園からの友達で幼馴染と言うやつだ。 朝から元気一杯に笑顔を漏らしている。 真奈の周りだけはいつもスポットライトがあたっているかのように明るい。
「理朽が暗いだけだよ。 高校生なんだし元気一杯なのは普通でしょ!」
「まぁ 元気なのはいいことだと思うけど。 真奈ほど明るい人もそこまで多くないと思うけどね」
「ふふ〜ん…でしょ!」
「ハイハイ」
歩きながら胸を張ったりドヤ顔を入れたり忙しいやつだな。 元気なのはいいことだと思うがそれに振り回される身にもなってくれ。
心の中だけで今までの不満を垂れ流す。
「やっぱり…うるさい。 君たち静かにする気はないの?」
目の前にいたのは高校生にしては身長が低い。 少年と言えるようなやつだった。 いつも一緒にいる凛だ。 国語辞典を手に持ってこちらに話しかけている。 もちろん辞書を持っている手は震えている。
「あぁ…すべて真奈のせいだ。 怒ってやれ」
「なにぉ…理朽だってうるさいでしょ!」
「ならうるさかったことを認めるんだな?」
「えっ…あの、それは」
「二人ともうるさいよ」
そういう彼は既に辞書をバックの中にしまっていた。 俺達二人を両手で指さしながらどういうふうにうるさいのかを歩きながら説明し始める。 いつも通りの朝が来た。
「それじゃ 本日はここまで。 昼飯ちゃんと食っとけ。 最近は昼を食わないとかあるらしいからな。 それじゃ」
そう言い残して、教壇を降りて教室から去っていく。 ちょうど昼休み。 あまり得意ではない国語で脳内が『寝ろ…寝ろ』と叫びながらそれに理性で抗う時間は終わったようだ。
「お〜い 凛。 一緒に食わないか?」
「そうやって呼ぶなって何度も言わなかったか? 呼ぶときは名字の酒井で呼べと」
凛は俺の返事を待たずにバッグから水色のランチョンマットに包まれた弁当箱を取り出すと机の上においた。 俺は、凛の隣の席を借りて弁当を引っ張り出す。
朝の光が横から差し込む暖かな机の上で喋りながら弁当を広げた。
昼食の時間に変化を加えたのは担任の水野先生だった
「えっと。 今いるみなさんだけでいいので、聞いてください。 朝は紹介できなかったんですけど…転校生が入ります」
「はい。 皆様よろしくお願いします。 私は星月 魅菜です」
「仲良くしてあげてください」
それだけ言い残すとすぐさま教室を駆け足で走り去っていった。 転校生は教室に残されると、周りを生徒たちに囲われ始めた。
「大変だな。 この時期に転校生とは」
「なんだ〜? 凛も同じだったから同情してるのか?」
「そんなわけないだろうって、凛って呼ぶな!」
その時は、転校生が色々な気持ちを運ぶとは考えていなかった。
雨は降らないと天気予報は嘘をついた。 目の前は傘を差しても濡れそうなほどの大雨だった。
「水曜日に絡ませて雨を降らせる必要は無いんだけどな」
「そうですね」
独り言のようにボソッと愚痴を放り投げたらボールが帰ってきた。 周りを見渡すと水色の傘が隣に見える。
「おはようございます。 ですかね?」
「ハイ そうですね。 これから同じクラスですがよろしくお願いしますね。 殻敷 理朽さん」
そう言われて傘が少し上向きに上がる。 傘の下から出てきた顔は昨日の転校生だった。
地面にあたって飛び跳ねた雨の冷たさが現状を理解できない脳を冷却し始めていた。
「えっと、噂の転校生さんがなんの用? 俺悪いことしてないと思うんだけど」
「あれ? お母様から聞いてない? 私近くに越してきたんだけど。 回覧板にも入るからよろしくお願いしますねって」
そんな話聞いてない。 昨日は凛と校内でダベってたからその時に来たんだろうが、なんとも面倒くさそうな爆弾を落としていった。
「ごめん。 母親とそこまで話してなかったから。 知らなかった」
「そうなんですか? 駄目ですよ。 きちんと親とは会話をしないと」
「ハイ…すいません」
なぜか雨の中説教をクラスメイトにされることになった。
星月さんと話しながら学校まで向かった。 途中で真奈や凛とも合流して四人だったけど。
「それで〜? 何がわからないんだっけ?」
「いやぁ 凛先生! ここの公式なんですよ。 どうしてこうなっているのかがわからなくてですね」
「教科書にも載ってると思うんだけどな」
嫌がるような素振りを見せながらも教科書をめくり、凛は教えようとしてくれている。
いつも通りの日々だった。 彼女が来るまでは。
「そこは、教科書じゃわかりにくいと思いますよ。 まとめたノート貸しましょうか?」
「それは それは、転校生様が偉そうにどうも」
いきなり顔を出した星月に明らかな敵意を見せる凛。 星月もそんな反応をされるとは思ってなかったのか少し驚いた顔をする。 だがすぐに切り替えたのか二人とも敵意をむき出して向き合う。
「そこまで、怒らなくてもいいんじゃないですか?」
「かかわってくる…あなたが悪いでしょう?」
「そこまで怒るようなことしてないと思うんですけど?」
「ハイハイ。 そこで終わりね。 それ以上はしなくてもいいでしょ?」
二人ともこのままにしてたらヒートアップして止まらないように思えたからここらで仲裁をしておく。 二人も俺に言われて周りを見回して自分の行動について考えたのか口論が止む。
「それじゃ 二人で割り勘でいいから俺におごってよ 喧嘩止めたんだし」
「こんなんでおごると思うなよ」
「え…え? おごらないといけないの?」
凛はいつも通りの流れだからかすっと流していく。 それを知らない魅菜は俺の発言に驚いたのか凛と俺の二人を何度も見る。 俺らの発言からからかわれてるだけだと気づくと急に顔を伏せた。
言えることはこの二人はそこまで仲良くなれないかもしれないってことかな。 凛の初めは同情のような目で見ていたと思うのだが。 口喧嘩が初めての会話とは。
「まぁ ノートは貸していただけるとありがたいです」
「うん。 どうぞ」
太陽が落ちきるぎりぎりまで三人で勉強をした。
「やっほ! 理朽と凛ちゃん!」
「まったく、こんな時間でも元気だな。 真奈は」
校門を抜けて帰る途中に真奈が後ろから声をかけてきた。 俺たちは凛と俺と魅菜の三人で帰りながらも覚えたほうがいいところを教えてもらいながら、歩いていたところだった。
真奈は、明るい人柄から人気もあり信用も高い。 今日も委員会やら部活やらでかなり遅くなっている。
「今日は何だったんだ?」
「え~っと 放送委員会とそのあとにテニス部に顔出しだけして来たよ」
「いろいろ掛け持ちしてるんですか?」
俺と真奈の話に参加してきたのは魅菜だ。 真奈の顔を覗き込むようにしたから質問を入れてくる。 純粋な疑問だけが詰まった顔には見えなかったが。
「そうだね。 気づいたら任せられちゃって。 期待されたらやるしかないもんね」
「その考え方変えたほうがいいんじゃね?」
「まぁ うるさい真奈が疲れて静かになるならいいんじゃね?」
「ふふふ。 皆さん本当に仲良し三人組なんですね。 すぐに話がつながっていく。 いい関係ですね。 そんな関係羨ましいです」
そうやって顔を伏せる。 真奈は何かを言おうとして何も言うべきことがないことに気付いたのか顔を伏せる。 俺と凛でさえ一年は経っている長く付き合っている友達だ。 そんな長い付き合いの友達の流れがいいなって言われても同じように再現することはできないってわかっているからだろう。
俺も何も言えなかった。
「なら 一緒に遊べばいいだろうに。 この二人はうるさいけど、一緒にいたら楽しいよ。 今見たいな流れができるかはわからないけど、いつかはそうなるんじゃないかな?」
凛の発言を聞いた魅菜は、少し考えたかのように頭を動かしたが、数秒で決めたのか顔をこっちに向けてくる。
「じゃあ 今度遊びに行くとき付いて行っていい?」
「いつでもウェルカムだよ。 遊びに来いよ」
なんか俺らがいないところで少しづつ決まって行ってるが、いいのかな? これ。 真奈はそこまで考えてないのか凛といつも通りの流れを続ける。
「まぁ これで少しづつ関係が変わっていくのかな」
この時の俺の考えは少し甘かったと。 今では言えてしまう。 だが悪い選択ではなかった。
「あと一週間で冬休みだよ! どこ遊びに行く? 凛ちゃん! 魅菜ちゃん!」
今は昼休み、周りもいつも通りのメンバーごとにまとまって弁当などを開く。 俺らはまた四人で集まって話し合いながら包みを開けていた。 俺は四人の中でも一人だけになっていたけど。
「う~ん。 理朽はどう思う? 僕は、そこまで遊びに行ったことがないから」
「ここで俺に振るのか。 冬休みだろ? 内側で遊べる場所がいいんじゃないのか?」
「ぶ~! そんなの楽しくないじゃん! どうせゲームでもしよう! ってなるんでしょ。 凛ちゃんはできるけど私は苦手なの!」
「私も苦手です。 真奈ちゃん何かありませんか?」
真奈と魅菜は四人で遊ぶことになってからかなり仲良くしている。 俺ら四人で集まる以外にも二人で遊びに行ったりもしているみたいだし。 こういう場合はこの二人が強い。 それにしても冬休みがもうすぐなのか。 時間の流れは速いな。
「確かさ、ちょっと離れたところに新しいショッピングモールができたんじゃなかったっけ? そこで買い物みんなで行かない?」
「買い物するものなんてあるのか?」
「理朽はわかってないない。 一緒に買い物をしに行くことがいいんじゃない!」
「それじゃ 理朽にもわかってもらうためにも無理やりにでも連れていきなよ 僕はゲーム「行くよね? 凛ちゃん」」
「ハイ」
やっぱり男子は真奈の強引さには勝てなかったよ。 冬休みは凛と一緒にゲームをしようって話をしていたんだけど。 これは予定変更が必要かな。 凛と目線を合わせると、あきらめろと悟った目線を送ってきた。 もとからそのつもりだったよ。
「それで、やっぱり男は女には勝てないんだよなぁ」
「だから 俺は凛には勝てないのか」
「んだとぉ。 僕は男だ!」
「ほんと二人ともいつもその盛り上がり方するね」
今日は、冬休み前最終日。 下校中だった。 真奈はまた委員会で遅い。 三人で話しながら帰っていた。
まだまだ時間としてはお昼過ぎ。 冬休みの宿題もあるからと凛とゲームするか宿題を教えてもらうかを天秤にかけつつ話を続ける。
「まぁ 俺と凛ちゃんのいつもの流れなので」
「僕はやめてもらいたいけどね」
「俺と凛の仲だろ!」
「え、あ うん」
この時の俺は、この凛の反応を甘く見ていた。 いきなり振られたから、反応が遅れただけだと。
「さぁ…来た! ショッピングモール」
「まったく…真奈は元気だな。 僕は寒くて凍え死にそうだよ」
「フフ。 凛さん カイロいります?」
「いや さすがにカイロをもらうほどじゃない」
駅からショッピングモールへ向けて歩き続ける中。 三人が先行して歩いていた。 付いて行くだけで楽ではあるんだが、今日やるはずだったイベントが。 凛とショッピングモールでの買い物が終わった後にやれたらやろうって話にはなっているが。 どうしても気になってしまう。
「あ~! 今、理朽。 ゲームの事考えてたでしょ!」
「え、いや そんなわけないよ」
「理朽さん。 言葉遣いが変わってますよ」
「ハハ 理朽。 動揺してるじゃん」
「ハイ。 すいません」
やっぱり勝てないんだよな。
こんな話をしつづけながら歩いているとショッピングモールが大きく見え始めた。 どうみてもでかい。 中には百を超える店舗が詰まっているって凛から聞いたからなんとなく想像はしていたがここまでとは。
三個の円がつながったような形をしていて四階建てのようだ。 階層ごとに入っている店舗の種類が変わっているらしく、最初っから二階を回るようだ。
「二回は服関係。 凛ちゃんも一緒に見てまわろう!」
「僕も? 女性もの着せるつもり?」
凛は普通に細いし白いしで、女性もの着ても似合うと思うけど。 そんなこと言うと普通に怒られるから口には出さない。 真奈は興奮しているのか凛の発言は聞こえていないようだ。
「真奈さん。 あまり強要するのはどうかと思います」
「まぁ 魅菜っちがそういうなら…。 ただ理朽と凛ちゃんも洋服見に行きなよ。 二人ともそこまで持ってないんでしょ? 今日の服装見てもね」
「ぐ…」
凛も早く行こうと俺の腕を引っ張っている。 これ以上ここにいて変な絡み方されたくはないんだろう。 俺もこれ以上母親みたいにいろいろぐちぐち言われたくはない。
俺は何も答えずに、凛を連れて真奈と魅菜の反対側に向かった。
「それで、凛。 どこに行くか決めてるのか?」
「何も決めてないけど。 こっちのほうに男物を売っているはず。 最初に地図を見たときにそういう感じで分かれてたと思う」
「そうなのか。 よく見てるな」
ショッピングモールの地図を見たのは入ってすぐの場所だったから、そこを通った時にすぐに覚えてならほんとうに記憶力が高すぎる。 これが頭の違いか。
それにしても、やっぱり人が多いな。 カップルに家族連れ、高校生ぐらいの同性の集まり。 俺と凛はどういう風に見えているんだろうか。
「お…佐々木じゃん。 まだ近くにいたんだな?」
「お~ おひさし~」
「うっは。 こんなところで出会うとか」
俺と凛の前に現れたのは髪をしっかりと決めている男三人組。 似たような服装で合わせていて発言は軽そうだ。 凛は三人組に気付いた瞬間、俺の服を引っ張る。 その手は震えていた。 どうみてもいい雰囲気ではない。
ちなみに佐々木は凛の名字だ。
「えっと。 久しぶりだね」
「そうだなぁ! 佐々木。 久しぶりだし一緒に遊ばないか?」
「え。 いy「嫌なんて言わないよな?」」
今までは、横にいた凛が俺の後ろにまで逃げようとする。 それを三人組の二人が横に回って防ぐ。 俺はどうすればいいのか、わからなくなっていた。
「ちょっとさ。 そこの君。 邪魔だからさどいてくれない? 俺らさ、そこの佐々木に用がるんだよね 君にはないんだわ」
俺の目の前に立っていた三人の中で一番ガタイがよさそうな奴がこちらに向き合って少しづつ歩きながら話してくる。 歩き方は、威圧的にするためか体を大きく揺らして足音も大きく鳴らしていた。
ここで、凛と別れていいのか。 凛も何かわからないが話せないほどビクビクしているし、ここで凛とこいつらを一緒にするのは違うと思う。
「すみません。 今は俺と凛が一緒に遊んでいるので」
「ふ~ん。 まぁ 今日はいいや。 凛、今度な わかってるだろ?」
その一言を残して、二人を引き連れて男は帰って行った。 三人組が帰っていくのが見えたのか凛も落ち着きを取り戻していく。
「一回落ち着いたか?」
「ごめんな。 理朽」
いつもとは違う凛。 いつもは起こらないような空気感。 さっきの選択は当たっていたと思うが、この空気をどうすればいいんだろうか。
「ごめん。 今日は帰る」
そういって近くのエスカレーターに向かって走ってしまう。 さすがにやばいと思って後ろから追う。 意外と早く後姿が少しづつ遠のいていく。
「おい。 凛ちょっと待て!」
その言葉が聞こえたのかエスカレーターの直前で足が止まる。 凛の足が止まることでやっと追いついた。
「なんで…逃げるんだ?」
「ごめん。 巻き込んじゃってごめん。 もう、ごめんね」
「凛。 少し話をしよう。 確か屋上があったはずだ」
このショッピングモールは屋上があり、人工芝が広がっている子供たちの遊びスペースだった。 屋上の中でも一番奥の人が少ないところに二人で歩いていく。 その間に話すことはなかった。 空は青く澄んでいるのに俺ら二人の仲は濁っていた。
一番奥には三人ぐらい座れそうなベンチが何個か置いてあった。
そこの一つに二人で腰を下ろす。 二人の間には人一人分ぐらいの間が空いていた。
「凛。 まずは、大丈夫か?」
「ごめん。 大丈夫。 巻き込んじゃって」
「それは仕方ない。 彼らの事について教えてくれないか? 知らなかったらなんも言えない」
俺は、今回巻き込まれたことについては何も言うつもりはなかった。 巻き込まれたことは仕方ないし実害は結局今のところはない。 怒ることは違うと思った。
ただ、彼らと凛は仲がよさそうには見えなかった。 何かあるなら…。
「あの三人組は、前の高校の人たち…。 僕が一年前に転校してきたのはさすがに覚えているだろ。 僕は彼らに金銭を求められた。 それまでは一緒に遊んでいただけだったんだけど、財布を忘れた。 とか今月厳しくて。なんていう理由をつけられて金について求められることが多くなった。 最後には直接、お金を求められたよ。 そこで大人を頼った。 私は、この学校に移された」
「そうだったのか。 確かに普通じゃないタイミングの転校だったもんな。 夏休みが終わってすぐなんて…」
凛が持っているのはかなり深いものだったな。 金さえ絡んでくるとは、あの三人組はそんなことをしておきながらあんな話しかけ方をしていたと考えると正気を疑う。
「僕は、わからなくなったよ。 あの三人組だって最初は優しかったんだ。 途中からおかしな色の飴玉を押し付けられそうになったり、お金を求められたり。 彼らは何だったんだ。 僕は、なぜそんな関係になったんだろうか。 どうすれば避けられたんだろうか、僕がどうすればいいんだろうか」
どう、その質問に返せばいいんだろうか。 間違った選択をしていないと言えばいいのだろうか。 だがそれによって起きている。 間違ってしまっても仕方ないなんて言うことは言えない。
凛はいつも自分の行動が間違ってないかを考えていたのか。
「僕だって…これ以上はまずいと思って行動をとった。 もともと彼らと付き合っていなければ、こんなことは起こらなかったし…もっと何か対策ができたんじゃないのか? もっといろいろな人とかかわっていれば。 なんて」
「馬鹿ども!」
凛の話を聞いている中、いきなり後ろから声がかけられた。 後ろにいたのは真奈だった。 近くに魅菜は見えない。 一人だけのようだ。
今までの話の流れが読めているのか?
「凛がどこか考えてたのは知ってたよ。 たまに顔を変に伏せるからね。 いつかは話してくれるって思ってた。 そんなことなら、クヨクヨするな!」
「いや、でも僕がすることが違っていれば」
「今そんな選択をしてるから私たちと遊んでいるんだよ! 私達と出会ったことも間違い? 友達になったのも間違い?」
「僕達。 本当に友達なのかな?」
真奈がここまで強い口調を使うことが久しぶりだった。 彼女は誰に対しても優しく動く。 彼女が強い口調を使うときは相手を諭すときだけだった。
「友達かどうかなんて意味ない! 見方によっては友達かどうかなんて変わる。 だから…だから、そんなのは自分で決めればいいんだよ。 凛が悩むようなことじゃないんだよ。 凛が悩むべきなのは、これからどうするか。 どうやって遊ぶかなんだよ!」
「真奈。 なんだよそれ。 そんな選択してもいいのかよ」
凛がいつものように笑いだした。 俺は何もできなかった。 凛を動かしたのは、真奈だったんだ。 いつも、こういう風に言葉で真奈はすべてを丸く収めてしまう。 そのスキルが少し羨ましく思えてくる。
俺じゃ凛を動かすことも凛の主張について触れる事すらできなかったんじゃないだろうか。
凛も見ている感じ今までの考えが抜けきった感じがする。 さっぱりした顔をしていた。
プルルプルル…
「あぁ! 魅菜ちゃんからだ。 ほら凛も理朽も急ぐよ」
「ハイ。 わかったよ。 凛、行こうぜ」
「そうだね。 理朽、真奈!」
屋上からまた服屋まで足を動かす。 魅菜は屋上に来ていたようだった。 少し歩いたらすぐに出会えた。 ここで行き違いにならずに済んだのはよかったと思う。
真奈も凛もすっきりとしたのか行きは寒いっていう話ばっかしだったのが、いろいろな話をするようになっていった。 俺と魅菜は話を広げる凛と真奈の話に合わせて話をしていた。 四人で仲良く楽しく遊べたんじゃないだろうか? 凛の事に気づけなかった俺が言えることじゃない気もするが。
「やっぱり、あの三人はすごいなぁ。 私もそういう友達の関係が欲しい。 遊んでいるといつも思うけど、あの三人には入れないような感じがするんだよね。 でも、理朽君。 かっこよくなってたなぁ」
ベッドの上で小さいテディベアを腕の中に抱きながら、独り言を続けていく。 いつも独り言で話すのは、学校での友達での話。
「あ、そろそろ夕食を作らないと」
ベッドに持っていたテディベアを置いて、ベッドから跳ね起きる。 ベッドには、栞とテディベアがぽつんと残っていた。
「それにしても、凛はいつも悩んでいたんだな。 こうやって落ち着いて考えると気づけなかったのが悔しいような。 悲しいような」
「理朽が悩むといいことないから、いいんじゃないの? 凛ちゃんが悩んでいたのに気づかなかったのは驚いたけどね。 ほら夕食食べよ?」
「まぁ わからなくもないけど、一つだけわからないものがあるんだよ。 なんで真奈がここにいるの?」
部屋で勉強しながら独り言を放っていたら、いきなり扉が開いて真奈が首を突っ込んできた。 真奈が来ることは聞いていなかった。 今日は遅くなるけど夕食はどうにかするってのは聞いていたけど。 まさか真奈を家に呼ぶとは。 高校生の親なのか?
「ホラホラ 考えてないで飯飯!」
「ハ~イ」
こういう時は逆らわないのが一番いい。 逆らっても何もできないと思うが。
「まさか、真奈があんな風に話すなんてね。 正直そんな話し方をするとは思ってなかった。 それも“友達なんて“って言うとは」
ベッドに入って今日の話についてすべて振り返ってみた。 あの三人組に出会うとは思ってなかったけど、それのおかげで真奈の事をもっとよく知れたと思う。 それは今日の中で一番よかったんじゃないかと思う。
「凛ちゃん! 御飯ですよ~!」
「わかった」
その日は突然やってきた。 夏休みの中頃。 いきなり真奈からメールが飛んできた。 『魅菜ちゃんが何か隠してるっぽいんだよね。 凛ちゃんと理朽はわからない?』
いきなりのメッセージにも驚いたが内容も驚いた。 魅菜が何かを隠しているっていうのにも驚いた。 俺はそんなこと気づけなかったからな。
真奈が気づいたならそれは間違いないんだろう。 嘘をついて混乱させるような奴ではないからな。 真奈はそれによく周りを見ている。 だからこそ周りに好かれるんだろう。
『何かあるとは思ってたよ。 ただ何かってのはわからないな』
「まさか…凛も気づいていたなんて。 俺鈍すぎ? それにしても凛も隠していたし…以外と秘密が多いメンバーだったのかもな」
俺も真奈も触れられたくはない過去がある。 それをどうすることもできないと気持ちの整理はつけてないことはないが、それでもほじくられると何が起こるかわからない。 意外と様々なものを整理して、隠して友達付き合いをしていたんだな。
『やっぱり…聞くしかないかな。 凛ちゃんありがとうね』
『まぁ これぐらいならな。 ヘヘへ』
凛も真奈もいい雰囲気で連絡をしているのはいいんだろうな。 あのショッピングモールに遊びに行ったのは全然よかったんだろうな。
魅菜が隠しているらしいことも遊びに行ったら大丈夫になったらいいな。
「みんなで遊びに行こう! 今度は勉強会だ!」
「真奈? どこでやるんだ。 僕の家は無理だし、理朽の家はほぼダメだぞ?」
「そうだな。 俺の家は、使えない。 場所もないし許可も取れない」
「私の家なら大丈夫だよ。 理朽君も凛ちゃんもダメなら仕方ないしね。 ただ今日すぐはダメ。 やっぱり片付けないといけないしね」
久しぶりに集まったのは、俺の家のすぐ近くの公園だった。 一週間に一回は集まって話し合いをしていた。 こんなことがあったよ~とかこれしない?とかそういう情報共有を電話やメールでせず現実で会って話をしていた。 メールで、魅菜が何かを隠していたという話をした二日後だった。
隠していることを探ることはどうかと思っていたが、真奈も凛も好奇心のままするようだった。
「いきなりで驚いたよ 真奈ちゃん! いきなり勉強会を、しかも場所をどうするかも考えずに言うなんて」
「ごめんね! でもいきなり思いついたから」
「まぁ 真奈が思い付きで行動するのはよくあることだよ。 僕はそんなことしないけど僕じゃないからね」
「まぁ することに、何も反論はないよ。 明後日なら大丈夫だと思うから明後日にこの場所に一時集合でどうかな?」
俺が考えを巡らせている間に少しづつ話が進んでいた。 魅菜の家で明後日にすることになっていた。 ていうか、女子の家に行くのが久しぶりじゃないか? 凛の家に遊びに行くことはあるが、最近は真奈の家に遊びに行くこともなく大体外で遊んでいた。
「理朽? 大丈夫か?」
「あ。 大丈夫。 冬休みの予定はほとんどないからね」
「なら明後日にみんな集合をよろしくね! それじゃ! これから学校だから!」
真奈は、言うことだけ言うとバッグを取って公園を走って出て行った。 凛は魅菜と話を始めたため一人になった俺も公園から出ていこうと思ったが。 すぐに呼び止められた。
「理朽も話に参加しろよ。 僕が一人で女子と話せるとでも?」
「それは自慢げに言うことじゃないだろう」
呆れながらも三人で話をつづけた。 結局話し込んでしまい三時間ほど話し続けてしまった。
「「「お邪魔します!」」」
「はい どうぞ。 お茶は用意するよ。 紅茶だけど冷やす?」
「理朽以外はホットで!」
なぜホットかアイスかを先に言うのか。 まぁアイスでいいんだけど。 魅菜の家に三人で入っていった。 かなり広く綺麗で最初に思いついた感想は高そうだなぁ。 っていう小学生の感想文並みのものしかなかった。
「それで準備しちゃうから、そこの部屋入っちゃって」
そうやって指を差されたところは、ピンク色の扉の部屋だった。 魅菜はそのまま廊下の奥に進んでいく。 真奈を先頭にピンク色の扉を開ける。 扉の奥はピンクの扉とは違って木の丸い机に黒いソファなどかわいらしいものよりかは普通に使いやすそうな物で統一されていた。
「あ、驚いたかな?」
そういいながら魅菜が大きいポットをおぼんにのせて部屋の中に入ってきた。 おぼんを机の上にのせると部屋の端から折り畳み式に机を取り出す。 確かにその机だと四人は難しいかもとは思っていたけど。 折り畳み式の机を用意してるなんて準備が良すぎる。
「魅菜ちゃんの部屋。 もうちょっとかわいい感じのイメージがあったんだよね~。 しっかり者のカイちゃんは意外と部屋の中はピンク一色でかわいい部屋だったし」
「まぁ 私はあんましそういう部屋が好きじゃないんだよね」
「へ~ そうなのか。 僕もこういう部屋なんだよなぁ…」
三人で家具やら部屋の配置やらで、盛り上がる。 こういうときは、俺が入れなくなるのでなんとなく寂しくも感じる。 俺の部屋はほとんど母親が買ってきたもので構成されているので、なんとも言えない。 自分で家具を買ったことがないからな。
「まぁ お金はかなりもらっているからね。 一人暮らしだし」
「一人暮らしなの? 私は親と一緒に暮らしているよ。 なんで一人暮らしなの?」
「おい 真奈。 そんなこと聞くことじゃないだろう」
さすがにそれは止めに入った。 もしかしたら触れたらいけない感じの話かもしれない。 高校生で一人暮らしなんて今の時代ではそこまでいない。 何かきちんとした理由があるはずだと思う。
「いいよ。 三人なら大丈夫だと思うし」
「いいのか? 僕はそういう隠し事はしておいたほうがいいのもあると思うけど?」
凛もさすがに少し止めに入った。 聞いてはけないようなことのように聞こえる。 僕ら三人ならいい。 それは、あまり話したくないことであるってことだろう。
「大丈夫。 まぁ 簡単に言うとね。 私の親って結構複雑なんだよね。 父親は結構テレビにも出るコメンテーターをしているんだよね。 母親は一般人だけどね。 ここまではなくはない話なんだよね。 わかるとは思うけど父親はあまりよく帰ってこないんだよね」
凛と真奈も言われていることをどうにか理解しようと頑張っている。
「それだけならまだよかったんだけどね。 母親は、私の事をまったく気にしてなかったんだよね。 あの父親のことは好きでいたが、私の事なんてどうでもよかったんだよね。 食事も作らないこともあったし、選択すら自分でしなかった。 私はお手伝いさんか何かにしか見えてないんだろうね」
「だから高校生で一人暮らしなのか?」
「そう。 私が買い物に行ってる間に、父親が帰ってきたらしくてね。 家事をしていないことをそこで知ったみたいなんだよね。 それで今はこの状況だよ」
聞いてみるととんでもないことだった。 まったく家事をしない母親に、家に帰ってこない父親。 家族としてはほとんど崩壊しているのが聞いているだけでもわかる。
俺の家もほとんど、家にはいないがきちんと連絡は取ってるし夕食は親が作って朝食は俺が作っているように家族と協力している。
「なんかつらいことを聞いたかな? ごめんね。 魅菜ちゃん。 何か大変なことあったら手伝うから相談してね?」
「ごめん。 僕も、きちんと止めなくてね。 辛かったら言ってくれ。 なるべく力になるよ」
「ごめん ありがとう。 やっぱり相談してよかったわ」
俺は二人が気づいていない一つの事に気付いた。 話し方が柔らかくなったな。 俺も何か言うべきかと思ったが、二人が言ったことがすべてだろうな。
ただ俺は、本当にそれでいいのかが心配になった。
「本当に、魅菜は家族と離れていていいのか?」
「それについては仕方ないかなって。 何もできないと思う。 父親もこれ以上動けないだろうし、母親は変わらない」
「ごめん。 ここで話を切ろう。 さすがにね」
凛もこれ以上に魅菜の家族の話を続けるのはあまりよくないと思ったんだろう。 しっかりと話を切ろうと言い出した。
言葉は出なかったが、コクコクと顔を動かした。
その日は、盛り上がることもなくみんなが静かに勉強をつづけた。
「理朽お願い」
魅菜の家から帰るときに真奈が俺に向けて話しかけて来た。 凛ちゃんは途中で分かれたから今は隣にいない。
真奈は今日の話で何を感じたんだろうか。 魅菜についての話だとは思うが。
「今まで黙ってたけど、私は感情の揺れとかその人の私への好感度が見えるんだ。 だから、魅菜ちゃんをもっと見てあげて。 かまってあげて。 お願い」
「え、お おう」
いきなり明かされたのは、真奈が見ている世界についてだった。 幼馴染としていつも付き合っていたがそんなことは一切聞いたことがなかった。
だが、それが本当なら魅菜は何かあるってことだろう。
「それじゃ。 早めに帰らなきゃいけないから帰るね!」
「わかった。 お疲れ!」
「明後日でも二人であのショッピングモールに遊びに行ったらどう?」
それだけ残すと走って自宅の方向に向かった。 俺の返事も聞かずにパッパと帰った。
「そんなん言われてもどうしろっての」
「それで、今日は何をするの?」
「そうだなぁ。 ショッピングモールに行くことだけしか決めてなかった」
結局、真奈に言われたとおりに魅菜を誘ってあのショッピングモールに来ていた。
真奈にその話をしたら「本当にしたの!? 冗談のつもりだったんだけど」って話が帰ってきて「えぇぇ」ってただただ驚きの声を漏らすしかなくなっていた。 誘ったから途中でやっぱなしって言うこともできず、この日が来てしまった。
「決めてないなら。 前の時は服屋周りしか見れてないからそれ以外をいろいろ見ようか」
「そうだね。 じゃあ 一階から行ってみるか」
そういってショッピングモールの奥へ進み始めた。 二人で横並びで歩くのは少し気恥ずかしかった。
「一階には食事系のショップが詰まっているんだね。 結構いろんな地方のお店が入ってるみたい」
「あそこには北海道とか青森。 あっちには沖縄や京都のもあるからなぁ。 やっぱりかなり大きめのショッピングモールだからかすごいな」
そうやって周りを見回すと、一つだけ人が集まっているところが目に留まった。 あれは何をしているんだろう。 人気店かなんかなのか?
「あそこは何か人気があるお店か何かなのかな?」
「さぁ? わからないなぁ。 行ってみる?」
「行ってみようか」
二人で離れないように慎重になりながらも人込みをかき分けて集団の中に入り込んでいく。 近づけば近づくほどざわざわとした声が大きくなっていく。
やっと人込みの切れ目が見えてきた。 人ごみの真ん中には、カメラやマイクなどの機器を持っている人が集まっていて撮影をしていた。
「あそこに星月 要がいるらしいよ」「えっそうなの」「あのおっさんかぁ」「じゃあ テレビ局の撮影か」「どうする? 動かないなら違いところ行かない?」「それで何の撮影かな?」
周りのざわつきから星月 要が撮影の中心にいるのがわかった。 まぁ 新しくできたショッピングモールの紹介とかなんだろうなぁ。 う~ん これ以上近づいても何もなさそうかな。
「どうする? 星月 要の番組っぽいけど」
「え? 父さんの?」
魅菜の父親は星月 要だったのか。
人込みから離れると、驚いた顔で固まっていた魅菜も離れてから落ち着いたのか元に戻った。 いつも通りの笑顔が浮かぶ。
「ごめん。 心配させちゃって。 大丈夫だと思ったんだけどなぁ。 全然。 会いたいけど会いたくない」
「まぁ ごめん。 知らなかったとはいえ」
「いや わるくな「魅菜か?」」
二人で話しているところに一人の大人がいきなり入ってきた。 ぴっしりとしたスーツを着込んだ男性。 そう星月 要だった。
星月 要は魅菜を見ると驚いた顔を表したがすぐにその表情を隠した。 そこには久しぶりであったことを喜ぶ顔ではなく、仕事のようにキッチリと決めた顔をしていた。
「久しぶりだな。 魅菜。 元気でやっていたか?」
「お久しぶりです。 父さん。 私は大丈夫です。 父さんのほうこそ最近は忙しそうですが大丈夫ですか?」
「あぁ それはもちろん気を使っている」
まるで他人のような。 そんな会話が目の前で繰り広げられる。 本当に親子なのかと聞きたいぐらいだ。
「魅菜。 本当に君の父親なのか? 彼は?」
「そういえば、君は誰だ?」
「すみません 父さん。 彼は学友の殻敷 理朽君です。 最近はよく遊んでいて「そうなのか。 学友か」」
「ハイ そうです。 初めまして」
「娘がお世話になっているみたいだな。 私はそろそろ仕事に戻る。 君が魅菜の学友というなら任せた……。 そろそろ戻らないと起こられるだろうからな」
最期に離れるときに少しだけこっちを流してみていた。 彼が「任せた」の後に言ったセリフは俺だけにしか聞こえていないみたいだが。 魅菜は遠ざかっていく星月 要を見て少しだけ手を伸ばしたが途中で手を止めた。 俺はそのあと魅菜に何を言えばいいのかわからなかった。
彼女の中では会いたかったけど会いたくないという微妙な感情の父親と突然出会ってしまった。 魅菜の中ではあの会話でよかったのだろうか。
魅菜は父親と別れた後からショッピングモールを抜けて歩き続ける。 かなり長い間歩いている。
「ごめん。 やっぱりちょっと辛い」
「そうか。 どこか行くか?」
「公園行かない?」
そういって近くの駅から家の近くまで帰った。 その間話すことはなく、俺も魅菜も表情は固まったままだった。
公園には電車から十数分でたどり着いた。 俺の家の近くの公園だ。
公園には誰もおらず静かな遊具がたたずんでいた。
「ねぇ。 星空についてどう思う」
「星空? きれいに見える。 冬だからかな?」
「そうだね」
魅菜の目には少し涙が浮かんでいた。 俺は、星空を見上げるとやっぱり思い出す。 神様の涙の話を。 あの日からはつらいことがあっても逃げずに頑張ってたと思う。 俺が辛くても頑張って優しさを配ればいつかは星のように輝けるかなって。
「父さんからもらった最後のプレゼントが星の国って言う絵本だったんだ。 そこのセリフには一番頭に残っているセリフがあるんだ。『星空ってのは、神様の涙なんだって! 神様は、いつも起こる事件や事故が悲しくて泣いてる。 その優しい心が夜空で光ってる。 いつかは人間のやさしさがあふれて神様と同じように優しい心が夜空を彩るように』っていう星の国の王様のセリフ。 理朽は知ってるもんね。 ねぇ 理朽、私はどうすればいいのかな?」
なんとなく気づいてはいた。 いや考えてはいた。 ただそのあとに続く悲痛な質問に俺はどう返せばよかったのだろうか。 その答えはいまだに出ない。
「どうした? 理朽。 なんかわからんとこあったか?」
「そういう時はこの真奈が教えようか?」
「いや 真奈の教え方はわかりにくい」
「なら私が教える?」
「いや そういうことじゃないから。 魅菜も真奈も凛ちゃんも新設に教えようとしてくれてありがとうな」
人には様々な苦悩や気にしていることがある。 たまにはそういうことを聞くのもいいことかもしれない。 逆に聞かないほうがいいかもしれない。




