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26.私と後輩の年末

 私は意外と緊張しない方だ。

 変に度胸がいいと友人に言われたこともある。

 そんな私が、少しばかり緊張していた。


 吐く息が白い年末。明日は大晦日。

 そんな年の瀬に、私は最近増えた友人の家を訪ねることになった。

 会う相手は納谷君の妹。場所は納谷君の家だ。


 忙しそうな日に訪ねることになったが問題ないらしい。一応、お土産も持った。

 別に納谷権一郎本人に会う予定はない。妹さんと楽しい時間を過ごせればそれで満足。

 

 そう理屈はわかっているのだが、何故か緊張するのだ。

 今年は転校という大きな環境の変化があったが、二学期になってそれが加速した。


 部活に入部し、納谷君と会った。

 毎日顔を合わせるうちに段々と気安くなった。連絡先を知って嬉しく思えたのは自分でも驚きだ。

 

 園芸部の人達とも知り合った。伊那さんには驚かされたけど、面白い人達だ。それに貴重な経験をさせてくれる。

 文化祭ではつい本気を出して動いてしまった。

 納谷君はあの時の私を見て、一時期尊敬の念が態度に混ざった気がするけれど、すぐに元通りになった。

 私の寝顔を撮られるという不覚をおかしたのは反省点だ。削除させたけど、なんかまだクラウド上とかにありそうな気がするし。


 家族からの頼みで第九の合唱にでることになったのが、あんな結果になるとは思いもよらなかった。

 納谷君兄妹を家族に紹介したおかげで、家庭内でたまにからかわれるようになったのは隠しておこう。

 納谷君、変に外面がいいから大人に評判いいのよね……。


 正直に思おう。

 私はほんのちょっとだけ、納谷家訪問であの後輩に会うことを期待している。

 会ったところで何があるというわけじゃないんだけど、どうやらそういう心境らしい。


「まったく……。自分ながらよくわからないわね」


 目的地に着き、一言呟くとインターフォンを押す。


『あ、二上先輩! いらっしゃいませ! どうぞどうぞ』

 

 スピーカーから元気な女の子の声が聞こえてきた。

 私の訪問を待っていてくれたのだろう。良い子だ。


「こんにちは。貴恵さん。あ、これ良かったらどうぞ」

「え、お土産? 流石二上先輩、丁寧ですね。上がってください。ごん兄もいますよ」

「……お邪魔します」


 後輩の可愛らしい妹の発言に、一瞬だけ反応してしまった。よし、ばれてない。

 貴恵さんに従って、部屋に案内して貰う。


「安心してください。わたしがごん兄を呼び出してみせますから。その方が先輩も嬉しいでしょ?」


 階段を登りながら、軽く笑みを浮かべながら貴恵さんがそう囁いた。

 この子、私の本心を悟ってる。恐ろしい子……っ。


「あ、あのね貴恵さん。別に私は……」

「今はそれならそれでいいです。わたしは応援してますから」

「……覚えておくわ」


 短いやり取りで、私達の間で同盟が成立した。


「待ってましたよ、二上先輩! どうぞどうぞ。あ、隣はごん兄の部屋ですけど気にしないでくださいね!」

「ありがとう、貴恵さん。お兄さんのことは気にしないから安心して」


 自室の前でわざとらしく喋った貴恵さんに合わせて私は返事をした。

 数分後、納谷君はしっかりと罠にかかってくれた上、私に楽しい時間を提供してくれた。

 

 ちなみにこの帰り、駅でうかつに「結構好きよ」とか漏らしてしまって、自宅に私は帰って悶絶するのである。

当初の目標地点まで書けましたので、これにて一度完結とさせていただきます。

思いの外、沢山の方に読んでいただけたので嬉しく思います。

読んでくださって楽しんで頂けたなら幸いです。


一応、セカンドシーズンを予定しております。

一話完結かつ短めの作品なので、書き溜めてから更新を書けたいと思いますので、少しお待ち下さい。


また、近いうちに明るいノリのファンタジーを書く予定です。見かけたら読んでいただければと思います。


それでは、ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう少しこの生暖かい物語を読みたいです。 気が向いたらで良いので、宜しくお願い致しますm(__)m
[一言] え まじ終わり?
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