骸骨鮫(スカルシャーク)〜亡霊達の傭兵部隊〜
また短編です。今回はほんの少しダークになっております。
まだ書き足りない設定も多い………
「………めろ、……ざめろ、目覚めろ」
「……んん………」
俺はドス黒い光と共に目を覚ました。目の前には1人の少女が立っている。年は俺とさほど変わらず10代くらい、三つ編みの黒髪に額の傷が特徴的な女だ。顔は、割と可愛いと思う。
俺は寝起きのままぼんやりと両腕を何の気なしに動かす。そして、俺はある1つの変えられようのない事実を思い出して驚きで目を見開いた。
「……! 何で俺は生きてるんだ!? 俺は確かあの時に魔物どもに喰い殺されて………」
「そう、お前はとっくに死んでるんだ。アタシと同じくね」
俺は目の前の少女をじっと見つめる。首元に目を覚ました時と同じようなドス黒い光がある所以外は普通の人間と何ら変わらない。
次に俺は周りを見渡した。薄暗い岩ばかりの場所だ。確かにここは俺が死んだ崖下だ。間違いない。ひゅうひゅうと嫌な風の音がよく聞こえる。
「……それで、お前は俺をどうやって生き返らせたんだ? そして、なぜ俺を生き返らせた?」
冷静に聞いているつもりだったが、語気がどうしても荒くなる。何か裏があるに決まってる。
他人なんて信用するに値しない。生前にあんな悲惨な末路を辿ったのだから当然と言えば当然だが。
「その前にまず服を着たらどうなんだ? いつまでフルチンでいる気だい?」
少女は冷静に今の俺の状況を指摘した。多少、目を逸らしながら。
それで自分が全裸でいることを今更ながら知り、俺は急いで股間を隠した。
服が魔物のせいでボロボロになっており、蘇った時には全裸になっていたようだ。
「そういう大事なことは先に言ってくれ。後、お前。代わりの服は持っていないか? いくら俺でも全裸でいるのはキツイ」
「持ってるけど、1つ条件がある」
「条件?」
俺が思わず尋ねると彼女はニヤリと笑った。
「簡単なことさ。仲間になってアタシのために武器を作って欲しいんだよ。君は武器製成魔法を使えるんだろ?」
「……は? お前ふざけてるのか? 俺は誰の仲間になるつもりはねえぞ」
「じゃあ、服は諦めるんだね。一応君に似合いそうな服だったんだけど残念だよ。そのままフルチンでいるんだね」
「クソっ! ……分かった、分かったよ! 仲間になるかはともかくあんたの武器を作ってやるよ。それで服を寄越せ!」
「ください……だろ?」
「……く、ください………」
「はい、それじゃあ契約成立だ」
そう言って彼女はニッコリと笑いながら俺に服を差し出した。俺にとってはなかなか屈辱的な笑顔だった。
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彼女から渡された服を着た俺は仕方がなく彼女専用の武器を作ることになった。俺は武器製成魔法を使うことが出来る。武器製成魔法というのはその名の通り、鉱物等から武器を作り出したり、強化させる魔法のことだ。鉱物だけで自在に武器を作り出すことも可能なのだが、この魔法には大きな欠陥がある。
それは………この魔法を習得すると他の魔法、攻撃魔法や身体強化魔法が一切使えなくなってしまうのだ。
攻撃手段もないのに覚えれば必然的に1つの魔法しか使えなくなってしまう……それが武器製成魔法だ。そのため、覚える人間は少なく、質の低い鍛冶屋しかないというのが現状だ。
俺はある冒険者ギルドの武器製成を担当していた。その魔法を活かして様々な武器を作った。剣、槍、槌、弓………と本当に様々だ。
皆、喜んでくれた。質の高い武器を簡単に作れるのだから当たり前か。俺はそれなりの地位に立てていたと思うが、それは俺だけだった。
連中は俺のことを都合の良い道具程度にしか見ていなかったのだ。特に最近代替わりしたばかりの馬鹿マスターとその派閥は。
それを知ったのは俺が死んだ時だ。ギルドの連中や冒険者どもは非戦闘職の俺を凶暴な魔物の囮にして俺ごと魔物を攻撃して崖から落とした。清々したとばかりに笑うあいつらの顔は忘れられない。
そして、俺はあいつらに恨みを抱きながら崖下にいる魔物たちに喰い殺されて死んだ。
その時に俺は悟ったよ。
他人の為に何かするなんて馬鹿馬鹿しい、くだらない………と。もう取り返しのつかない教訓だがな。
武器を作っている間に彼女に聞いた話によると俺を蘇らせたのは「復活のカケラ」という代物のお陰らしい。復活のカケラは本来、万能薬の材料として神話級の秘宝とされている。だから、普通の人間にはまずお目にかかれない。ではなぜ彼女がそれを持っているのかと言うと………
彼女もまた俺と同様、復活のカケラで蘇った屍人だからである。彼女は最近になってある錬金術師からそれを埋め込まれて蘇った。そして、いくつかの復活のカケラを渡すと奴はすぐに去って行ったらしい。
だが、そんなことは関係ない。せっかく俺は生き返ったんだ。
これからは自分の好きなように生きてやる。
それなのに…………………………
何で俺がわざわざこんな見ず知らずの女のために武器を作らなくちゃならんのだ。誰かの為に力は貸さねえって誓ったそばなのによ……
そんなことを考えながら俺は彼女のリクエストの元、武器を製成した。随分とリクエストが曖昧だったから作るのに苦労したが、やっと出来上がった。しかし、なんだろう? 死ぬ前よりもずっとスムーズに武器を作ることが出来た気がする。
その武器は大刀だ。大刀には無数の刃があり、魔力を通すとチェーンソーのように敵を切り裂く。
彼女に出来上がったそれを渡した。彼女はその武器を受け取ると子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「おー! まさしくアタシのイメージ通りだー! こういうのが欲しかったんだよね。じゃあ、約束通り、アタシの仲間になってよ」
「チッ、誰がなるかよ。俺はあんたの欲しい武器を作ったんだ。これで満足だろ」
俺がそう言った次の瞬間、俺が作ったデカい大刀を首元に突きつけられた。その動きが全く見えず戦慄した。彼女の顔にはさっきとはまるっきり違う種類の笑みが浮かんでいた。まるで肉食動物が獲物をいたぶる時と同じような笑みだ。
「アタシさ、約束を破る人って大嫌いなんだ。だから、もう一度聞くよ。
……アタシの仲間になるよね?」
誘いというよりも脅しにしか聞こえなかったが、俺には承諾の一択しかなかった。
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「ところで、お前の名前は何だ? 仲間になるのなら名前を教えてくれるんだろうな?」
「ん? そういえば名乗っていなかったっけ?
アタシの名前は……フカヒレだよ」
「そうか、俺はウノ、ウノ・ブラッドムーンだ」
「よろしく、ウノ。
……そうだ! 折角だし、アタシたちのチーム名を考えなきゃね」
「チーム名?」
「そう、アタシは傭兵部隊として好き勝手に暴れようと思ってるからさ」
傭兵部隊か。まぁ、その方が色々と都合が良いか……
「それなら、こんな名前はどうだ?ーーーーーーーーーー」
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「き、貴様! 雇われ傭兵風情がこの私に危害を加えようとするとは覚悟が出来ているんだろうな!?」
そんな怒声を上げているのはかつて俺が所属していたギルドのマスターだった人物だった。虚勢を張ってても下半身が濡れていたら脅しにもなりゃしない。それにあんたご自慢の兵隊どもは俺の手で皆グチャグチャ、バラバラになって転がっている。
「おいおい、その雇われ兵どもに良いようにやられてるのはお前らだろうが。俺たち骸骨鮫に依頼をすればギルド間戦争にも簡単に勝たせてやったのによ。
………って、ああ、ごめん。金ないんだっけ? お前ら」
俺が死んでから蘇るまで2年程経っていたらしい。その間、俺がいた元ギルドはなぜかどんどん力を落とし衰退していき、最近では犯罪行為も平気で行われる犯罪者ギルドにまで堕ちていた。そして、いくつかの犯罪者ギルドを巻き込んで他のギルドに宣戦布告をし、戦争を起こしてしまったのである。
俺たち骸骨鮫はあれから復活のカケラで屍人の仲間を集めて総勢10人の少数精鋭の傭兵部隊となり、各地で暴れている。そんな中、俺たちはとある正規ギルドから犯罪者ギルドの殲滅を依頼された。流石正規ギルド、破格の報酬を提示してきやがった。フカヒレの姉御が即決するわけだ。俺も昔のギルドにはたっぷり礼をしたいし文句はねえよ。
ギルドマスターは俺の顔を見ても誰か分かっていないようだ。まぁ、無理もないか。復活のカケラを埋め込まれた影響で若干姿が変化しているし。白い髪、赤く染まった眼、身体中にある緑色の模様……もう生前の頃とは全く別人だしな。気付かないのも無理はない。
「しっかしまぁ、随分と無様なもんじゃねえか。かつて俺を魔物と一緒に攻撃して崖に落とした奴らがこんなあっさり死ぬなんてな」
俺がそう言うと、ギルドマスターの表情が変わった。顔を青ざめブルブルと震え出した。
「お、お、お前、まさか…………ブラッドムーン…………なのか?」
俺がニッコリと頷くとギルドマスターは今度こそ恐怖で顔を引きつらせた。
「頼む。助けてくれ。2年前のことは私が悪かった! だから………」
「バーカ」
ザシュッ!
次の瞬間、ギルドマスターは何も言わない骸と化して、転がった。
「復讐は何も生まないと言うけど、あれは嘘だな。俺は今、とてつもなく気分が良いよ」
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俺がギルドから出ると、他の皆が勢揃いしていた。
「ウノ、酷いじゃないか! アタシ達の分も残しといてよ」
フカヒレがプリプリと怒っている。
「悪かったって。フカヒレの姉御。昔の古巣だったからつい力が入っちまって」
「……たく、しょうがねえな。まぁ、アタシ達も他の奴らを皆殺しにしてきたからそれで勘弁してやるか」
周りには他の犯罪者ギルドの旗の残骸や死体がゴロゴロと転がっている。
俺は苦笑いした。そして、半日で殲滅させた骸骨鮫は依頼主である正規ギルドの所へ向かった。
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こうして、骸骨鮫はギルド間戦争を終結させた部隊として名を爆ぜた。絶大な力と共に。いつまでも。
………………と思っただろう?
残念ながら、これには続きがある。
骸骨鮫は報酬を出し渋ったとして依頼を出したギルドでさえも滅ぼしていったのだ。更にその力を恐れていくつかのギルドが連合として討伐に向かったが、骸骨鮫はそれを簡単に返り討ちにした。
やがて彼らは村、街、国をも巻き込み、多くの者を惨殺して回った。彼らの歩く先には骸の山が出来ていく。
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「いやはや、まさかこれほどとは………
あくまで動物実験のつもりで渡したのですが、これは想定外でしたね。失敗作でさえあれほどの効力とは。ですが、お陰で良い実験体が沢山作れそうだ。戦争で唯一評価できる点は合理的に死体が沢山手に入ることですから。これで開発が思う存分出来ますよ。ホント感謝してもしきれませんね、骸骨鮫の皆様には」
最後の声は誰だったのか? 誰も知りません。
ちなみに、復活のカケラは蘇った人間の身体能力や魔力を大幅に強化させる効果もあるのです。だから小人数で一国ともやり合えるのです。
他のメンバーは全く登場していませんが、構想は考えています。
続編希望の方はどうぞ感想まで。