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プロローグ 03

「ぐっ、ま、まさかここまでとはな、この私をここまで追い詰めるとはな、、

おい!、待てっ、や、やめろ!っ〜〜、

どこまで私を苦しめる気だ!もういい、終わらせてくれ、、」


そんな悲痛な声が廊下に響き渡った。


ここは、ヴァルハラ国の本丸であり、城内。

ヴァルハラ国の王が御坐す場所、廊下は隅々まで掃除がいき渡っており、白亜の柱、真紅のカーペット、そして、天井からの遮光が神秘的な雰囲気を醸し出す。


そんな場所に、似合わない声。しかし、その声の主こそこの城の主人にしてヴァルハラの主その人だった。宮仕えのメイドも困惑の表情。そこに、何処からともなく現れた一人の少女。その容姿は、可憐の一言に尽きた。メイド達が思わず見惚れる中、少女の表情は険しい。


少女は、勢いよく主人の居る部屋の扉を開ける。


「リュカ!?大丈夫?」


彼女の目に映ったのは、ベットの上でうつ伏せの主、そして、その主人の足裏を押している同僚。ギィと扉の閉まる音が響き渡る。


どういう状況なのだろうか、おそらく、主は愚昧なる同僚に足裏をマッサージされ、あまりの痛さに悶えている状況だろう。そう、彼女は推測した。

ふっと内心安堵の息を吐き出す。十周年記念日というこの日に敵対組織が奇襲を仕掛けてくるという状況も十分に考えられた為だ。(まあ、城内には蟻一匹通さないようにはしているけどね)


「ねー、ソフィア。二人きりで何しているのかな?」


彼女の同僚、ソフィアに声色を低くして尋ねる。すると、ソフィアはいたの?と言わんばかりんの視線を向けてくる。宝物を扱うようにそっとリュカの足を置き、こちらに向き直った。リュカはというと依然としてうつ伏せのままである。

 

「あら、ヴァレンティーナ御機嫌よう。私は、リュカ様にマッサージをして差し上げていたの。

そのマッサージというのはねー」


と怒涛の如くマッサージと美容、体内から美しくなどと情報が耳から耳へ駆け抜けていく。

要は、主の疲れを取っていたのだという。


彼女ヴァレンティーナは、少し不快げに顔を歪ませる。

それなら、自分も主のためにしてあげたかったと内心思う。この建国日のために、人である主がストレスを抱えていたのは当然のことであった。自分に頼んで欲しかったという思いが湧き出る。


ドヤ顔で見てくる同僚からプイっと目をそらし、テテテと主の元へにこりと微笑みながら近寄る。

そして、なぜソフィアなのか、自分に頼んで欲しかったという思いでリュカを見つめた。

半眼で、ことのあらましを教えて欲しいと。


リュカは、一つ咳をして早朝から今までの流れを語るのだった。






数刻前に遡るー

リュカは、身体のダルさとともに目を覚ました。まだ、日が昇ってないのだろうか、周辺は薄暗く辛うじて部屋の全体像が認識できる。窓は、初夏の暑さを紛らわすために両開きにしており、カーテンの隙間から入ってくる風が頬を撫でる。


「んっ」


猫のように伸びをして、欠伸を一つする。いつの間にか眠っていたらしい。目の前には、書類の山。

近頃、仕事が忙しくてあまり眠れていない。ふと、窓に視線をよこす。

薄暗い青色で塗りつぶしたようなうす暗い街の中で、ポツポツと灯火が灯っている。一つ一つの灯火に想いを馳せる。食材の準備だろうか、寝付けなのだろうか、酒を引っかけているのだろうか、、、。


少女は、にいっと笑った。彼女が治める国を微笑ましく眺めながら。


今日は、ヴァルハラの建国から記念すべき十年を祝って大々的に祭を行う。

この地は、首都であり、領土はここだけではない。リュカ直属配下らに治めさせている自治区から種族関係なくこの地に集結する。その数、数十万にも昇る。

リュカは言うまでもなく、国民全体が記念すべきこの日を待ちわびていたのだった。



そこへ、ガチャリ、ドアが開かれ現れたのは純白のドレスに身を包んだ美女。この視野が狭い薄暗い部屋でもその美貌は隠せないでいる。手には、盆があり、その上には花の水やりの為と思われる可愛らしいじょうろがのっかっている。目が合うと、可憐に艶の黒髪を揺らし微笑む。

彼女の名は’’ソフィア’’。私の側近のうちの一人。外見からは想像できないが悪魔である。


彼女と今日の催し、スケジュール、警備のことについて確認していく。今回の祭りは、建国以来の大イベントとなる為、念入りな準備・打ち合わせが必要であり、この日のために一年の準備を擁した。それの最終確認である。

  

「ーっとこんなところか」

 

ちらりと、外を見ると日が山々の隙間から顔をのぞかせるところであった。その頃には、城から伸びる大通りには魔物の賑わいが咲き、街を一望できるここからも確認できるほど街は活気を帯びている。

ふと、腹が空いていることに気がつくが、まだ朝食には早すぎる。むむっと腕を組み朝食まで何をしようか考える。

執務をしようにもやる気が起きないし、かと言って、このまま何もしないのも暇である。

どうしよう、そんなことを考えていることを知ってか知らずか横から声が掛かる。


「リュカ様、少し世間話をしませんか?」


そう言うなり少し近くに寄ってくる。リュカはその提案に飛びついた。


「では、何から話しましょうかー」





ソフィアは、和やかな雰囲気で時にはケタケタ笑い、時には真面目になったりコロコロ表情が変わる目の前の少女を眩しいものでも見るように目を細める。

彼女は、リュカを心の底から愛している。いや、彼女だけでは無いだろう、すべての配下一人一人が目の前の少女に忠誠を誓っている。それは、少女の光り輝く魂に惹かれるからなのだろうか。


悪魔は、魂を喰らう者。それを糧とし成長または嗜好の対象となる。そのため、彼らは魂の質がわかる。

人間でいえば、美味しいもの、まずいものの違いと言えばいいのだろうか。下賎なもの、気高いもの、綺麗なものなど様々である。


だが、少女は違った。魂の輝きが他のものとは比べ物にならない。それに、色が無色透明、見えないのだ。

こんなことは、天文学的年月を生きてきた彼女にとって初めてだった。

少女を手に入れたい、そう思った。しかし、少女とともにいることで知ってしまった。この自分の魂が共鳴し暖かくなるような心が満たされる気持ち。ここが、自分の居場所なのだと。

そのことから比べれば、魂の色など関係なくなっていた。


主のためなら世界を敵に回してもいいと考える。それは、盲目的な愛情。

この少女を守ってやらねば、という母性本能?なのだろうか自分でも分かっていない。


彼女は、今の和やかな日々の幸せを噛み締めながらある一抹の不安を抱えていた。



「リュカ様、私は最近、夢を見るのです。同じ夢を何回も。夢だと分かっているのですが、、」


そこで言い淀む。言葉に出すのも恐ろしい。



目を開けると、いつも冷たい闇の中。光が無い。始終自分が何かに怯えて震えている。永遠と感じられる静寂の中、居るのは子供のように震える自分のみ。何かを失った喪失感、代わりに、ぽっかり空いた胸の中に深い悲しみが満ちていく。力任せに飛び回ってみるものの出口が見つからない。

冷たい、悲しい、切ない。こんな思いをするなら消えてしまいたい、そう思えるほどに。



「でも、、目を覚ます間際、暖かい光が差してきて私の手をぎゅっと掴むのです。」


そう言って、彼女はリュカの手を掴む。握られた手は、冷たく震えていた。

リュカは、少しでも彼女を安心させたいと思った。そして、そんな状況にある仲間であり家族でもある彼女を救ってやりたいと強く思った。リュカは、不敵に笑い、その想いの丈をそのまま言葉に出す。


「フッ、この私がお前を救うなど朝飯前。待っていろ。海の底でも、世界の裏側でも救い出してやる。だからー


              ー安心して待っていろ。」


ソフィアは花の綻ぶような笑みをうかべ、目を潤ませる。彼女は思う。嗚呼、何に私はこんなにも怯えていたのだろうと。目の前にいるでは無いか。自分が認めた唯一の人間。


「はいっ、こころよりお待ちしております!」


そして、少女にとって悪夢が始まる。発端は、彼女の発言からだった。


「救ってくださるお礼を先にさせてくださいっ。既成事実というやつですっ。」


彼女は、意地悪をするような笑みを浮かべる。


「最近、リュカ様は就寝時間が短いように思われます。悪魔である私どもは、睡眠を必要としない身ですがリュカ様はそうではありません。体内の修復機能が追いつかず血の循環が悪くなり、コリが溜まっているのでは無いのでしょうか?その解決法として、私自らが、私の手で血の巡りを良くすることが最良かと。また、美容効果もありますがどうでしょう?」


「ふむ(ふふっ、おせっかいなやつだ)、ではよろしく頼む」


このころの自分を殴りたくなるのは3分後のことであった、、。






「ーとまあ、こんなことだ。」


ヴァレンティーナに語り終わった。どうやら、怒りを鎮めてくれたようだ。こいつは、昔より少し丸くなった。少し自分の業による性分もあるが、仲間を思いやることができるようになってきた。今度、何か頼もうかなど心のメモに残しつつ、こいつもおせっかいだなと苦笑いするのだった。



すると、コンコンとノックが聞こえる。失礼しますと入って来たのはスラリとした体躯の青年。整った顔に微笑を浮かべている。


「リュカ様、朝食の準備ができました。冷めないうちにどうぞ召し上がりください。

それとー、そこの二人はなんでここに居るのかな?」


青年は、油を売っている暇があるのかと二人に視線を向ける。その表情は、微笑とは程遠い。



ここに揃った三人、いや三柱が私の側近だ。一人一人が私の仲間であり家族。私をあの地から救ってくれた者達。

リュカは、あーだこーだと、三人で口ゲンカしているのを微笑ましく眺める。

そこには、穏やかな朝のひと時がそこにあった。



しかし、破滅の足音は刻一刻と確実に彼らのもとに忍び寄っていた。 






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