第66話 10人で買い物
いつもの買い物回です(笑)
「さっきの人、ボクの正体を知ってるのかな」
「多分わかってたと思うけど、それで何か言われたり、リリが困ったりする事は無いよ」
自分が異世界人だというのは家族以外には話してないので知られていないと思うが、初めて会った時にこの街に来てゼンジが開発した見本や私生活まで把握している事を告げられた。しかしそれを知っていたからこそ、ニーナとホーリを紹介してくれたのだし、その情報で自分の立場が不利になったり何かを強要された事はない。
「……セルージオさんなら、知られてもきっと大丈夫」
「……困った事があったら相談に来ていいって言ったのは本気だと思う」
「あの奴隷商はゼンジの事をかなり気に入っておるようじゃし、もしかすると姿をごまかさず堂々と歩いても何も言われんようになるかもしれんな」
「そうなったらボクすごく嬉しいよ」
奴隷商に気に入られると、この国での生活がしやすくなると聞いているが、ニーナとホーリを引き取って以降は愛称で呼ばれるようになったり、声をかけられる機会が増えた。何かしら街の住民に影響を与えているのは確かだが、それはより良い方向に向いているので、リリの事もそうなれば嬉しい。
「わたくし達の国の事も教えていただけて良かったですわ」
「わたくし達の他に双子が居なかったと聞いて一安心ですわね」
「急に他の国で生活していくのは大変だもんね」
「お姉ちゃん達みたいに、この街に来てくれたらゼンジが何とかしてくれそうだけど」
「俺にどこまで出来るかはわからないけど、目の前で困ってる人には手を差し伸べてあげたいな」
「そのお陰でボクはこうしてみんなと出かけられる様になったんだから、ゼンジにはすごく感謝してる」
「ゼンジさんは頼まれると断れない性格ですから、きっと大丈夫ですよ」
一番濃密な時間を過ごす事が多いだけあって、ハルは善司の気質を的確に見抜いていた。それだけでなく、自分のして欲しい事を先回りして叶えてくれるのも知っている。2人きりの時間の時は、それが次々と叶うから、とても幸せなのだ。
「守備範囲の広すぎる変態じゃから、またとんでもない人物を連れ込みそうじゃな」
「小さいものから大きなものまで揃っていますけれど、今度はどんな人なのでしょうか」
「わたくし達を超える人材にも来ていただけると嬉しいですわ」
「3人は何の話をしてるんだ?」
「「さぁ、何でしょうか?」」
「ゼンジの性癖の話ではないか?」
元の国の内情を聞く事が出来たヘルカとトルカは、憂いが無くなった事で本来持っていたお茶目な性格が出てきており、チサと一緒になって善司にからかうような視線を向ける。
そんな3人に少し苦笑を浮かべる善司を、他の6人は楽しそうに見つめていた。
◇◆◇
善司たちはいつもの服飾雑貨屋に入り、店員に挨拶をして売り場へと向かっていった。三組目の双子がこの街で暮らし始めたのは噂になって広く伝わっているので、また来店してくれるだろうと考えていた店員は、チサと同様に目を惹くリリの姿を見て少し言葉に詰まったが、テンプレ対応で迎える事ができた。
「ボクの家は鍛冶屋だったから、長そで長ズボンの格好ばかりしてたんだ。
スカートって穿いたこと無いから、みんなに相談に乗ってくれるかな」
「任せて!」
「可愛いの選んであげるね」
「……リリお姉ちゃんは格好いいのも似合うと思う」
「……大人っぽい格好も見てみたい」
「あっちに置いてあるのと合わせてみましょうか」
ハル達に連れられてリリは店の奥の方に入っていく、残されたヘルカとトルカは久しぶりに入った、おしゃれ着を取り扱っているお店を見回している。
「皆さんが普段着ている服を見ると、何となく想像できるのですが……」
「ゼンジさんの好まれる服装をお聞きしても宜しいですか?」
「スカートを選んでくれると嬉しい」
「ゼンジは本当にスカートが好きじゃな、何か思い入れでもあるのか?」
「う~ん、特に思い入れがある訳ではないけど、やっぱり自分とは違う格好の姿を見たいからかな」
「確かにゼンジがスカートを履いている姿を想像すると、怖気が走るの」
「そうでしょうか? 案外似合いそうな気もしますけれど」
「髪の毛を伸ばして、しっかり化粧をすればいけるかもしれませんわよ」
「どう外見をごまかしたところで、喋ったら台無しじゃろ」
「俺にそんな趣味はないから、その話題はこれくらいにしてくれ」
自分の女装姿で盛り上がり始めた3人を、善司は慌てて制止する。本人が納得してそんな格好をする行為を否定はしないが、自分でやってみたいとは思わない。いま目の前にいる女性たちは、元の世界だとディスプレイやテレビの向こうでしか見たことのないほど、可愛かったり美人だったりするので、やはり着飾った彼女たちと一緒に過ごす方が断然有意義だ。
善司の慌てる姿が面白かったのか、ヘルカとトルカは笑顔を浮かべながら並べてある商品を物色し始めた。
「あの2人の雰囲気が急に変わったの」
「セルージオさんに自分の国の話を聞けて、心配事が無くなったんだろうな」
「奴隷商の持っとる情報じゃから、まず間違いないじゃろう」
「やっぱり自分たちだけが助かったのかもしれないって負い目があったんだと思うよ」
「しかし、スノフ爺といい奴隷商やよろず屋の親父といい、ゼンジの事をやたらと気に入っておるが、本当にお前は見境がないの」
「ちょっと待てチサ、俺はスノフさんやセルージオさん達には何もやってないぞ」
「冗談じゃ冗談。
ほれ、そうやって慌てとると、またヘルカとトルカにからかわれるぞ」
手を握って善司の方を見上げながら、くつくつとチサは笑う。そんな姿に頭痛がしそうになるが、こうしてからかわれたりイジられたりするのは嫌ではなかった。ヘルカとトルカも参戦して少し手強くなったが、そんな冗談を言えるようになった2人には一層親近感が増し、明るく笑う表情がより魅力的に映るようになっていた。
◇◆◇
あれこれ物色していたが、リリはみんなの意見を取り入れてフレアスカートやストレートスカート、ブラウスやジャケットの他にワンピースも選んでいた。それにベレー帽を被った姿を見せてくれたが、今までの頭巾ぽい帽子と比べて遥かに可愛くなるので、問答無用で購入を勧めた。
ヘルカとトルカは、下の方に少しスリットの入ったスリムなロングスカートやAラインのロングスカート、それにニットのゆったりしたセーターや長そでのシャツを選んでいた。大陸中央部の気温が元の国に比べて低かったので、全て長めのもので揃えている。
肌着や靴も新調して、いつものように装飾品コーナーへと向かう。
「ボクは帽子も買ってもらったから、これ以上いらないよ」
「わたくし達も、もう十分買っていただきましたわよ」
「肌着まで新しく買わせていただきましたし」
「これは家族で買い物をした記念に、全員に選んでもらってるんだ。
3人にも何か形に残るものを身に着けてもらえると嬉しいよ」
イールとロールは花の形をした髪飾り、善司とハルはお揃いのネックレス、ニーナとホーリはイヤーカフ、チサはヘアクリップをそれぞれ身に付けている。それを見た3人は、それなら自分たちもとアクセサリー選びを開始した。
「わたくし達はこれにいたしますわ」
「これを左右に分けて身につけようと思いますの」
ヘルカとトルカは黒ずんだ銀色の金属に、丁寧な細工を施したバングルを選んでいた。上品で落ち着いたデザインは2人のイメージにぴったりで、彼女たちのセンスの良さが伺えた。
「ボクこういった装飾品は良くわからないから、ゼンジに相談に乗ってもらいたいんだけど、いい?」
「あぁ、俺で良ければ手伝うよ」
2人で飾ってある商品を見ていくが、種類が多すぎるせいかリリはかなり迷っている。
「どこかつけてみたい場所ってあるのか?」
「そうだね、ゼンジやハルと同じ場所がいいかな」
「なら首飾りだけど、同じようなのを選んでみるか?」
「もっと目立つ感じのがいいかな、その方が身に着けてるって実感が湧くし」
それを聞いてネックレスの展示してある辺りを探してみたが、その中で金色のチョーカーが目に留まった。こちらもさっきのバングルと同じ様に丁寧な細工が施されているが、こちらの方が少し豪華で派手な模様になっている。それに中央からぶら下がる白い宝石は多面体カットされ、見る角度によってキラキラと光を反射している。
「これなんかどうだ?」
「あっ、これいいね!
真ん中の石もキラキラ光ってすごく綺麗だよ、ボクこれにする」
リリはチョーカーを手に取って、色々な角度から眺めながら嬉しそうな顔をしている。気に入ってもらえたようなので、選んだ商品を全てカウンターに持っていき精算をした。いつものように端数切りと袋をサービスしてもらい、着替えを済ませてから店の外へと移動する。
◇◆◇
「スカートって何か落ち着かないね」
「私たちも最初はちょっと違和感あったけど、すぐ慣れるよ」
「今はスカートでも全然気にならなくなったもん」
そう言ってイールとロールがその場でくるりと一回転し、ふわりと裾が舞い上がった姿を見せ善司を楽しませた。
フレアスカートにブラウスを合わせてジャケットを羽織り、ベレー帽をかぶっているリリの姿は今までより更に魅力が増している。首元から覗く金色のチョーカーと白い宝石もさり気なく目立っていて、スカートの裾から素足が見えているのも新鮮だ。
「ボクもみんなと同じ様な格好をしてみたかったから頑張る」
「すごく似合ってるし、リリのスカート姿を見られて俺は嬉しいよ」
「スカートを穿くとゼンジさんが喜んでくれるから、お仕事の時以外その格好をしていたら、すぐ慣れますよ」
「まったく、どうしようもない変態じゃな」
「チサも最近はずっとスカート姿でいてくれてるじゃないか」
「単に動きやすいからこの格好をしとるだけじゃ、ゼンジを楽しませるためではないわ」
隣に並んでいたチサが離れていった所に、ヘルカとトルカが近づいて来る。2人はスリットの入ったスリムスカートに、薄手のニットセーターを着ている。ゆったりした恰好なので体のラインは出にくいが、自己主張の激しい場所は隠しきれてはいない。
「わたくし達はどうでしょうか?」
「何かおかしい所はございませんか?」
「2人とも大人っぽくてとても素敵だ、俺の世界の感覚だけど仕事のできる女性を連想するよ」
「……お姉ちゃんたち素敵でかっこよくて憧れる」
「……それにゼンジさんの横に立っていると、すごくお似合いに見える」
「そう言われると少し照れてしまいますわね」
「ゼンジさんとお似合いなのでしたら、このまま帰ってみても宜しいでしょうか?」
「あぁ構わないよ、帰りは並んで歩いてみようか」
それを聞いたヘルカとトルカが更に近づいて来て密着すると、善司の腕は圧倒的なまろやかさに包まれていった。
「ボクはハルと腕を組んでみたいんだけど、ダメ?」
「いいわよ、一緒に帰りましょう」
「ありがとう、ハル」
「チサさんも手を繋いでもらっていいですか?」
「全く、仕方ないのぉ……」
リリがハルの腕を抱きしめながら隣に並び、チサも反対の手を取って歩き始める。イールとニーナにロールとホーリもそれぞれ腕を組んで、仲良く家路を歩いていった。
遠心力でスカートのすそがフワリと広がるのは素晴らしいですよね(個人の感想です