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第61話 ブラッシング

 食事も終わりデザートも食べ終えた後に、リリのなでなで大会へと発展した。みんなで頭を撫でたりしっぽを触ったりしたが、少しくすぐったそうにしながらも嬉しそうな顔で受け入れていた。



「こうやってみんなに触ってもらえる事って無かったから嬉しい」


「私たちもよく撫でてもらうんだけど、気持ちいいよね」

「リリちゃんの気に入った撫で方って誰?」


「みんな好きだけど、ゼンジだけちょっと特別な感じがする」


「……それは何となく分かる」

「……手が大きいからかな」


「ゼンジさんのほうが年下なんだけど、撫でてもらったり抱きしめてもらう時は、それを感じさせない包容力があるわね」


「手の大きさはこんなに違うもんね」

「ゼンジって指が長いよね」



 イールとロールは善司の手のひらに自分の手を重ねているが、その大きさや指の長さが全く違う。キーボードを長年扱ってきた影響か、指も一般男性より長めだ。



「わたくし達も手は大きい方でしたが、やはり殿方には負けてしまいますわね」

「それにゼンジさんに撫でていただく気持ちよさは、わたくし達も実際に体験しましたから、リリさんの言葉は理解できますわ」


「ワシはゼンジに撫でられても何とも思わんぞ」


「でも嫌がったりしないよな」


「あまりにしつこいから諦めとるだけじゃ!」


「ゼンジとチサって、すごく仲がいいね」



 出会ったばかりのリリにまでそう言われチサは渋い顔をするが、他の家族も全員同じ事を思っているので(うなず)きながら見つめるだけだった。



「なでなでも堪能したし、洗い物を済ませてみんなでお風呂に入ろうよ」

「リリちゃんも一緒に入るよね」


「うん、ボクお風呂が好きだから楽しみだよ」


「この男も一緒じゃが構わんのか?」


「耳やしっぽを触られて嫌な気分にならない人となら平気」


「ならお風呂の準備をしてくるよ」


「ボクも一緒に行っていい?

 みんなが自慢してたお風呂を見てみたいんだ」


「わかった、一緒に行くか」



 善司とリリが連れ立って浴室の方に行った後、残った家族で手分けして後片付けを済ませていく。



「リリちゃん可愛かったね」

「あんな子がこの大陸にいるなんて知らなかったよ」


「精霊の血が濃いワシらのように、大陸の北でごく(まれ)に生まれるんじゃが、その殆どは住んでおる場所から出んからな」


「わざわざこの国にまで来るくらいだから、魔操器を作る仕事がよほど好きなのね」


「……ゼンジさんを探しにこの街に来たって言ってたから、会えて良かった」

「……私たちの時もそうだったけど、ゼンジさんは必要としてる人の前に現れてくれるよね」


「私たちやお母さんの時もそうだったね」

「森の中で偶然出会わなかったら、お母さんの病気を治すのにもっと苦労してたのは確かだよ」


「わたくし達もこの街で路頭に迷っていたかもしれませんわ」

「お祖父様の家の鍵すら開けられないなんて、思いもしませんでしたもの」


「ワシは訪ねた先が偶然ゼンジの職場だったからじゃが、何かを引き寄せる体質なのかもしれんな、さすが変態じゃ」



 全員でそんな話をしながら後片付けを進めていったが、偶然だけでは済まされないような奇妙な縁は感じていた。



「リリちゃんはきっとこの街に引っ越してくるよね」

「ゼンジにすごく懐いてるもんね」


「彼女のしっぽは感情と連動してらっしゃるのかしら」

「ゼンジさんの近くに居る時や撫でられている時が、一番良く動いてらっしゃいますね」


「……確かにそうだった」

「……あの動きとっても可愛い」


「お隣にリリさんが来てくれると嬉しいわ」


「まだ若いが魔操器職人としての実力は確かじゃから、面白い事になるの」



 魔操関係者の間で流れている噂どおりなら、リリの実力はベテラン職人に決して劣っていない。それどころか、その独創性や着眼点は他の追随を許していない程だ。そんな人物が作る魔操器に、自分や善司の作った魔操板を取り付けたらと思うとワクワクしてくる。


 ここに居る全員は、リリがこの街に引っ越してくることを望んでいた。



◇◆◇



「すごく広いね、こんなお風呂が付いてる家なんて珍しいんじゃないかな」


「俺もお風呂が大好きだから、この家に決めたくらいだよ」


「えへへ、ボクと同じだね」



 善司を見上げながら笑顔を浮かべるリリのしっぽは、さっきからずっと左右に動きっぱなしだ。



「リリのしっぽって、手入れとかどうしてるんだ?」


「普段は軽く洗ったりする以外は何もしてないよ」


「何かで毛を整えたりしないのか」


「自分でするのはやりにくいし、面倒だからついついサボっちゃうんだ」


「リリさえ良ければ俺がブラッシングをやろうか?」


「“ぶらっしんぐ”って、髪みたいに毛を整えてくれること?」


「これでしっぽの毛を、こうやって()くんだ」



 脱衣場に置いてあった予備のブラシを取り出して、それを動かしながらブラッシングの説明をすると、リリはキラキラとした目を善司の方に向けてきた。



「それやって欲しい!」


「ならお風呂上がりによく乾かしてから、ベッドの上でやってみようか」


「育ててくれた人も手で整えてくれてたから、ボクも同じようにしてたんだけど、そんなの使うのは初めてだよ」


「毎日ちゃんと手入れをしたら、もっとフサフサのしっぽになると思うぞ」


「ボク、自分のしっぽをずっと邪魔な存在だって思ってんだけど、ゼンジに手入れしてもらったら好きになれそう」


「なら今夜は時間をかけてブラッシングしようか」


「楽しみだなぁ~」



 胸元に飛び込んできたリリを抱きとめ頭を撫でると、これまでより更に勢いよくしっぽが左右に揺れていた。



◇◆◇



 それぞれの準備や後片付けが終わって全員でお風呂に入ると、リリのリクエストで頭や背中やしっぽも善司が洗う事になった。しっぽの付け根が敏感らしく少し身悶えさせてしまったが、大好きなお風呂を思いっきり堪能したリリは始終上機嫌で、湯船につかりながら自分の仕事やティーヴァの街の事を話してくれた。


 髪の毛やしっぽを十分乾かした後は、いつものように全員で善司の部屋に集合する。それぞれが思い思いにベッドの上やソファーで過ごしているが、リリだけはずっとソワソワしていた。



「しっぽも十分乾いてるみたいだし、そろそろ始めようか」


「うんっ!」



 胡座(あぐら)をかいた善司の前にリリが座り、予め用意していたブラシを取り出すが、しっぽはブンブンと左右に動いているので、ブラッシングが始められない。



「あれは相当楽しみにしておったようじゃな」


「脱衣場でも一生懸命しっぽを乾かしてましたから」


「私やローちゃんも拭いてあげたしね」

「濡れると小さくなるけど、乾いたらすぐ元の大きさに戻ったね」


「リリ、そのままだとブラッシングできないから、動きを止めてもらえるか」


「あっ、うん、ちょっと待ってね……

 ………すぅー……はぁー…」



 気持ちを落ち着けるために深呼吸を始めると、徐々にしっぽの勢いも弱くなり、触れるくらいまで落ち着いてきた。



「じゃぁ、始めるぞ」


「お願い」



 しっぽを軽く持ち上げると、まずは軽く梳いていく。最初のうちは刺激に慣れないのかピクピク反応していたが、次第にそれも無くなってきたので、少しずつ深くブラシを入れていった。



「くすぐったかったり痛かったりはしないか?」


「うん、大丈夫……」



 側面や裏側、そして少し身じろぎされるが敏感な根元の部分も丁寧に梳いていくと、ブラシの通りもだんだん良くなってきた。



「だいぶ毛も整ってきたけど、どうだ?」


「ふぁ……すごく………気持ちいいよ……はふぅ」



 夢見心地な声で熱い吐息をもらすリリは、首筋も上気していて色っぽい。



「何かいけないものを見ている気分になってきましたわ」

「でも、とても幸せそうな顔をしていますわよ」


「……私たちにもしっぽがあったら、ゼンジさんにあんな事してもらえたのに」

「……しっぽが欲しくなるね」



 座っていたリリの体からは力が抜けていき、お尻が足の間に落ちて女の子座り(とんびあし)になり、両手をついて体を支えるほど弛緩(しかん)してしまった。



「もうちょっとだけ続けるぞ」


「……ずっろ…このままれも………いぃ」



 リリの呂律が怪しくなってきたが構わず続けていくと、しっぽのボリュームが大きく増加して毛並みも整い、部屋の明かりを反射するかのごとく輝いてきた。



「よし、終わったぞリリ」


「ありがとーゼンジィ……抱っこしてー」



 体ごと後ろを向いたリリの顔はとろけきっていて、そのまま善司に体重を預けるように抱きつく。丁寧に整えられたしっぽが見守っていた者たちの目に映ったが、全員その変わり様に驚いていた。



「すごいね、こんなフサフサになるんだ」

「ねぇ、ちょっと触ってみてもいい?」


「うんー……いいよぉー」



 リリの許可を得て一人づつしっぽに触れてみるが、その極上の手触りで全員が幸せに包まれてしまった。



「気に入ってもらえたか?」


「うん、これ好きー

 やってくれるゼンジはもっと好きー」



 ぐりぐりと善司の胸に顔を擦り付けて甘えてくるリリの頭を撫でると、フサフサになったしっぽも嬉しそうに左右に揺れる。



「……リリさんの甘え方ってイールちゃんやロールちゃん以上かも」

「……すごく勉強になる」


「わたくし達より年上でらっしゃるのに、やはり反則級に可愛らしいですわ」

「気持ちがそのまましっぽに現れるのは、少々羨ましいですわね」


「これはもうゼンジのそばを離れそうもないの」


「どんな身分や立場の人でも、こうやって受け入れてくるのはさすがゼンジさんね、素敵だわ」


「私たちのお姉ちゃんになってくれるかな」

「あの雰囲気だとそうなると思うよ」



 人の気持ちに敏感なイールとロールが感じたとおり、ブラッシングを受けたリリが善司に寄せる気持ちは、自分が世に送り出した作品(子供)(いだ)くものより大きくなっていた。



「これ、毎日やって欲しい」


「あぁ、それくらい構わないよ、お安いご用だ」


「ボクこの街に引っ越す、もうゼンジやみんなと離れたくない」


「明日魔操組合に行って相談しような」


「うん!

 ……えへへへへへ」



 嬉しそうに善司の胸に顔を寄せて頭を撫でてもらっていると、いつの間にか寝息を立て始めてしまった。知らない街で道に迷って不安になったり、空間収納を使いすぎたせいで思った以上に疲れていたのだ。






 こうして新進気鋭の魔操器職人も、この家で暮らしていく事になったのだった。


以前も後書きにも記載しましたが、基本はちょろインばかりです(笑)


リリの言動が年齢より幼くなっているのは、自分の中に流れている古い血が、主人公たちを家族と認めているから(裏設定)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
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